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赤紫の魔剣使い〜少女は異世界を渡り歩く〜  作者: 藪地朝陽
第2章 天空都市のインクの王
22/106

新たな力

更新出来ずすみませんでした。

チナミを始めとしたレジスタンスのメンバーはオベロンの能力を利用してブロット達を着実に倒していく。致命傷を負って倒れたブロットは唯のインクに還っていき消滅するのだが、どんどん別のブロット達が部屋に入ってくる。正直キリがない。ましてやクボタを守りながら戦うのはかなり厄介だ。


「クソッ! 次から次へと!」

トドロキが苛立ちから思わず悪態をつく。真っ赤に染まった腕から生まれた炎で纏い、肉弾戦で直接インクを焼き尽くしていく。


トドロキのオベロンは「オーバーヒート」というものだ。打ち込んだ箇所を超高温度にすることが可能な能力でそれを利用し、物を溶かしたり肉弾戦で戦ったりするのが彼の十八番だ。そうやってインクを溶かしているのだが、この能力は高温になればなるほど暴走しやすくなるので注意が必要になってくるのだ。


「……厄介ね。あの2人は何とかなってるかしら?」

チナミが電撃を纏った脚でブロットを蹴り飛ばし、爆散させる。更にその勢いを利用して別の脚も駒のように回転して回し蹴りを他のブロット達に叩き込む。


チナミが使っているオベロンは「ボルテージランナー」というもので、打ち込んだ箇所から電気を発生させることが可能になる。また、打ち込んだ箇所の身体速度も上昇する効果もある。彼女はそれを両脚に打ち込むことで素早く移動したり、電気を纏って蹴り技に使ったりしている。一応エアポートで戦った時のように銃を使って戦うこともあるが、この狭い室内では使えないので今は持ってきていないのだ。


他のレジスタンスのメンバー達も自分のオベロンを使って倒している。風でカマイタチを作り出して切り裂く者や片手を岩石のように硬化させて攻撃を防いだりと攻撃方法は様々だ。


チナミは1番心配していたルーカスと辰姫の方にチラリと視線を向けると、2人ともなんとか倒せていた。チナミは内心ホッとしながら目の前のブロットに集中する。


ルーカスはレーザーソードで敵を斬っている。高圧レーザーが刃の代わりになっていて、斬ったり突いたりしても敵を倒すことが出来ている。高圧レーザーなので刃こぼれの心配もなく当てられればダメージになるので結構重宝している。もっとも、バッテリーの問題もあるのでずっと使うことは出来ないが。


一方、辰姫の方も他の皆のようにスムーズとはいかないが、なんとか斬って倒している。つい最近までは剣もまともに振り上げられない程だったのに随分と成長したものである。ルーカスの教えが良かったのか元々の本人の素質なのかは不明だが。


しかし、ブロットのインクは禍々しい色をしていて辰姫の剣はインクでベタベタに汚れ、シュウシュウと嫌な音を立てている。時間が経つにつれて徐々に斬れ味が悪くなっていった。そして、遂に………


ボキッ!


剣は真っ二つに折れ、折れた剣身は倒れたブロット達の流したインクの海に飲み込まれてしまった。辰姫は思わず顔を引き攣らせる。自分がある程度まともに戦えているのに夢中で剣の状態をロクに確認していなかったのだ。


ルーカスはそれを見て思わず心の中で自分の迂闊さに舌打ちした。


実を言うと、ルーカスはエアポートで初めてブロットを見た時に剣で斬るべきでないと直感でなんとなく気付いていた。長年の戦いでの勘というものだろうか。だからこそ、いくら斬っても斬れ味が悪くなることもなく尚且つこの世界の雰囲気にも浮かなそうなレーザーソードを使っていたのだ。ルーカスがそれを教えなかったのは、レーザーソードは1本しか持っていなかったという事情もあるが、辰姫がまだ剣しか使えないのでこんな世界で他の武器を使わせる時間はないしそれならまだ剣で戦った方が良いし恐らく問題は無いだろうと楽観的に考えていたことが1番の理由だ。だが、こんな事態になるなら別の武器を早く渡しておくべきだったと思う。本当に迂闊の一言でしかなかった。


「タツキ、下がってろ! 残りは俺がやる!」


ルーカスは辰姫が戦っていたブロット達も相手せざるを得なくなった。レーザーソードは割と簡単に相手に致命傷を与えてくれるので戦いやすく、まだなんとかなる。しかし、ちょうどルーカスの死角になっているところにブロットの大群が襲いかかろうとする。


「! ルーカス、危ない!」


辰姫が思わずそう叫び、その声を聞いたルーカスは辛うじてブロット達の奇襲を防いだが、このままではいつまで保つか分からない。チナミ達もルーカスの様子を確認すると助けに行こうとはするが、他のブロットの相手をしないといけないため、手が離せない。辰姫は何か出来ないか思わずポケットを探ると、コツンと手に物が当たる音がした。急いで取り出してみると、辰姫の手には出発前にチナミから半ば無理矢理渡されたオベロンの注射器があった。ルーカスは必要ないと言ってすぐに返していたが、自分は取り敢えずずっと持っていたのだ。


使うべきなのかどうしようか迷う。これを使えばルーカス達の助けにはなるかもしれない。でも、これを使えば自分が自分ではなくなってしまうのではないかという恐怖のようなものがあった。未知の物だ。そう思うのは人間として仕方のないことではある。辰姫はチラッとルーカスやチナミ達の方を見る。彼らはブロットと渡り合えている。自分と同じく別の世界から来たルーカスでさえもだ。それに比べて…… 辰姫は自分の無力さに思わず唇を噛んだ。


自分はまた足手まといになってしまっている。


今まで何度も練習して自主的に素振りとかもしてやっとある程度剣が振るえるようになってきたと思ったのにまた役立たず扱いなんて、お荷物になるなんて絶対に嫌だ!!


怖い……… でも、目的を果たすためには自分がもっともっと強くならないといけない。だから、これは私にとって必要なものなんだ!


辰姫は意を決して注射器のキャップを外して若干躊躇い、震えながらも思いきり右腕に注射器を刺してオベロンを注入した。ふと振り返ったルーカスは辰姫の行動に目を見開いた。


「!? タツキ、お前! オベロンを……」

他の皆も辰姫の行動に驚いたようで一瞬目を見開く。


オベロンを注入した辰姫の右腕は徐々に冷たくなっていき、それと同時に凄まじい激痛が走った。思わず右腕に突き刺した注射器を落としてしまった。


「う! ぐ、ぐがぅぅぅ!!」

想像以上の痛みで、まるで注射をした箇所を中心に液体窒素でも吹っかけられているような感じだ。辰姫は右腕を抑えて激痛に必死に耐えるが、痛みは全く治らない。寧ろ酷くなる。それどころか徐々に白い煙のようなものまで出てきた。この現象はまだ1分もかかっていない出来事なのだが辰姫にとっては1時間、2時間くらい長く感じた。極度の激痛を受けると、その時間はほんの一瞬でも本人にとってはそれが数百倍も長く感じると言う。今の辰姫はまさにそれだった。


そんな時にルーカス達が倒しきれていなかった1体のブロットの生き残りが辰姫目掛けて襲いかかって来た。痛みに悶え、動けずにいる辰姫はブロット達にとって格好の獲物だった。


「!? しまっ… タツキ!」


ルーカスがそう叫んだ次の瞬間、


ビシュッ! バキン!


そんな音がした後、ブロットは凍りついてバラバラと砕け散った。


ブロットを氷漬けにした辰姫の右腕は薄っすらと凍りついていて氷柱のようなものも出来ていた。辰姫の目は虚ろになりながらも次々と冷気を放ち、他のブロット達も氷漬けにしていった。何発かは外し、壁や床が凍りついたが。それでもブロット達の動きを封じることは出来る。


ルーカスやチナミ達は一瞬呆気に取られるが、すぐにブロット達の殲滅にかかる。辰姫の攻撃のお陰で大部分のブロットが減り、なんとか全部倒すことが出来た。


だが、辰姫は力尽きたのかフラリと体勢を崩して倒れる。意識は暗転し、真っ暗になった。誰かが自分の名前を呼ぶような声が聞こえた気がした。



ーーーーーーーーーー

どれくらいの時間が経っただろうか。


ゆっさゆっさと一定のリズムで揺れる感覚によってまどろみの中から辰姫の意識は僅かに覚醒した。まるで揺りかごに揺られているようだ。辰姫は前にもこんなことがあったような……と懐かしく、そして心地良く感じた。それがいつだったかは全く分からないが。


「う、うう………」

「! ……起きたか?」

「え? わっ!!」


辰姫はルーカスの背中に乗っていた。どうやら、自分はルーカスに背負われていたらしい。その事実に気が付くと辰姫は完全に目が覚め、思わず声を上げる。


「いきなり倒れたからビックリしたぞ。チナミ達はもう先に進んでいる。随分と呑気に寝てたみたいだな」

「あはは、すみません。もう大丈夫なので降ります。……あれ? そういえば、ブロット達は?」

「?……お前、覚えてないのか? お前が殆ど凍らせて倒してたんだぞ」

「え? え?」

「チナミ曰くオベロンを注入したばかりは遺伝子配列……の書き換え?とかで能力の暴走を起こしやすいらしいんだが、今回はそれが吉と出たようだな」

そう言われて辰姫は自分の右腕を眺める。右腕にはまだ何か強い違和感があった。右腕の芯に冷たいような暖かいような変な感覚があって、それが不安定に切り替わるのだ。


「チナミからオベロンを使ったばかりの時は色々不安定で危ないからしっかり背負って帰れって言われてるんだ。だから、大人しくしてろ。別に大したことでもないからよ」

「う、うん」

「……でもまぁ、お前のお陰で助かった。ありがとな」

「……え? ルーカス、ひょっとして頭でも打ったの? 大丈夫?」

「あ? ………払い落とすぞ。大人しくしてろ」

ルーカスからの思わぬ言葉に驚き、つい失礼なことを言ってしまう辰姫。だけど、やっぱりいつものルーカスだった。すぐにいつもの雰囲気に戻ってしまった。辰姫は苦笑いする。そして、ルーカスに言われるまま背負われた。


しばらく進み、2人はシェルターに戻った。流石にいつまでも背負われるのは恥ずかしいのでシェルターの前で降ろしてもらった。まだ少しフラつくが歩く分には問題はない。扉を開けて中に入るとそこにはチナミ達はもう既に戻っていた。他の者に状況を報告したり、唯一の生き残りであるクボタの身体面・精神面でのケアなどやることが山積みだからだ。チナミはルーカスと辰姫が帰ってきたことを確認すると、近付いてきた。


「お帰りなさい。初めてのオベロンは効いたでしょ? しばらくは休んだ方が良いわ。それにしても、あなた達、かなりの腕をしてるのね。まぁ、これからもよろしく頼むわね」


チナミは手を差し出した。辰姫は右腕の感覚がまだ麻痺しているので左手で握手をする。その後にルーカスとも握手をする。


「そういえば、私のオベロンって何なんですか?」

思えば、もらった時から特に何も言われていなかったため、どんな能力か知らない。多分、物を凍らせる能力みたいだけど。


「ああ、言ってなかったかしら? これは「フラッペ」というものよ」

「フラッペ?」

「そう。物を凍らせたり氷で物を作り出すことが出来る能力よ。修練して使いこなせれば色々な使い道が出来るようになるわ。アタシ達みたいにね」


チナミによると、フラッぺやオーバーヒートといったオベロンの能力は使う者によって様々な特色が出るようだ。つまり、どんなオベロンでも使いようだということだ。


また、オベロンには全身に効果を発揮する経口投与型と身体の一部分に効果を発揮する注射器型がある。強力な能力を得ると引き換えに自分の遺伝子コードを書き換えるという危険なものであるオベロンは主に身体の一部分に使うことがベストだ。全身に投与するとその分、肉体面・精神面での副作用が強いからだ。大半の者はその副作用で理性を失ってしまう。キョウヤ・サエジマのように。




色々とこれからへの不安もあるが、これでまた1つ強くなることが出来たことには違いない。私自身の目的、自分の世界に帰るためにも生き残るためにも自分のやり方を貫くにも自分自身が強くならないといけない。前にルーカスも言っていたが、いつまでも守られる存在では駄目なのだ。だから、自分がしたことに後悔はない。


辰姫は頭の中でそう言い聞かせながら目を閉じて自分の目的を改めてしっかりと噛み締めるように再確認する。そして、目を開けると左手をギュッと強く握りしめた。


ルーカスはそんな辰姫の様子を何も言わずに見ていた。

辰姫が新たな能力を得ました。

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