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赤紫の魔剣使い〜少女は異世界を渡り歩く〜  作者: 藪地朝陽
第1章 中世の国での運命の出会い
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サイソウ山にて

平和だったはずの村は突然炎に包まれた。多くの人々は逃げることも出来ず、一瞬で焼け死んでいった。幸か不幸か生き残った者達も燃え広がった炎に苦しみながら息絶えていった。まさにこの世の地獄とも言える光景だった。そして、ルーカスの父親と母親もそうやって死んでいった。



「お母さん! お父さん!」

燃え盛る火の海の中で母親と父親の骸を必死に泣きながら探す少年、そして、近くには赤く燃え盛る鳥の化け物が……………… 当時、まだ幼く弱かったルーカスはその化け物を……自分の大切なものを奪い去った仇をただ睨み付けることしか出来なかった。化け物は炎を纏いながら耳障りな声を上げる。


「クエギャアアアアアア!!!」


ーーーーーーーーーー

「がぁぁぁ!! はぁはぁはぁ………………」


ルーカスがベッドからシーツを跳ね除けて飛び起きる。ハァハァと荒い息を吐いて額や顎先の汗を拭う。ここは簡易テントの中だった。サイソウ山の麓に着いたルーカスと辰姫は出発した時間帯が遅かったこともあり、もう辺りは真っ暗になっていた。そこでその日はひとまず野宿をして、明日の早朝にサイソウ山を登ることにしたのだ。


ふと窓を見てみるとまだ陽は登っていないので暗かった。


「……クソ! またあの夢か。ポイニクスが近くにいると分かっている時は決まって夢に出てきやがる…………」

ルーカスは忌々しそうに呟いた。目元を指で触れながらポイニクスへの憎しみをより強固にしていった。



ーーーーーーーーーー

「……! 起きたか。なら、さっさと山頂へ向かうぞ」


いつになく声のトーンが低いルーカスに辰姫は少し疑問に思いながらもコクリと頷いた。


サイソウ山は凄く高い。この国、ヘリオスでも観光名所の1つとなっている程の山だ。


ルーカスも辰姫も登っていくが、まだ全然山頂が見えない。


辰姫は自分がこの1週間でそれなりに体力が付いてきているのを感じていた。一方、ルーカスの方は顔を険しくしたままである。一体どうしたんだろう。辰姫はルーカスを心配そうに見つめる。



そんな時、ルーカスが突然足を止める。辰姫はどうしたのかとルーカスを見ると険しい表情で近くの木々を眺めていた。すると、木の陰から数人の男が現れた。薄汚い格好で武装している。どうやら、この山に潜んでいる野盗達のようだ。そういえば、この山は最近、野盗といった犯罪者集団の巣窟になってるって言ってたな……


「おいおい、お前ら。俺らの縄張りだってことを知っててここにいるのか? ああん?」

「おっ、なかなか悪くない女連れてるじゃねえか」

「金と女を差し出したら許してやっても良いぜ」

「飽きたら返してやるから安心しな。まぁ、そん時は壊れてるだろうがよ」

ギャハハと男達の下品な笑い声が響く。辰姫は嫌悪感で思わず剣を握る。自分が強くなった分、こんな連中に負けるとは思えなかったからだ。だが、ルーカスはそんな辰姫を手で制すと、


「どけよ。ゴミども」

と冷たい声で言った。今まで辰姫も聞いたことのない冷たい声だった。そして、殺気が彼から溢れ出る。いつもと違うルーカスの様子に辰姫はビクリと背筋が凍った。


それは男達も同様だった……が、彼らはそんなガキに自分がやられる訳がないと思い直して剣を抜き、我先にとルーカスに斬りかかろうとした。結果的に男達はその判断が間違いだったということを知ることになる。


ルーカスは一瞬でフェネクスを抜くと、近くにいた男達を次々と切り裂いていった。辰姫はルーカスのあまりの早技に察知することも出来ずに思わず戦慄の表情を浮かべた。それは男達も同様で斬られた者は断末魔を上げながら赤紫色の炎に包まれ消えていく。それを見た者は何か恐ろしいものを見たかのように顔を青ざめて逃げ出し始めた。今更ながら自分達が関わってはいけない人間に喧嘩を売ったという事実に気付いたらしい。しかし、ルーカスは逃がさない。逃げ出した者達ももれなく斬っていき、やがて野盗の中で生き残っている者は1人だけになった。


その1人に対してルーカスはフェネクスを肩に軽く叩きながら言った。


「やっぱり、フェネクス相手だと大概の相手は雑魚だな。うん」

最後の1人はガタガタと震え腰を抜かしている。下半身からは湯気も出ている。彼からしたら自分よりも遥かに格下だと思っていた子供に一瞬で仲間を斬殺されたのだから悪夢としか言いようがないだろう。


「さてと……おい、お前。山頂の方でデカくて赤い鳥のような奴を見なかったか?」

「こ、答えたら生かしてくれるのか?」

「ああ? んなもん、俺の気分次第に決まってるだろ。別に生かすギリなんて俺にはないんだからな。今ここでさっさと殺してもいいんだぞ」

どっかのヤクザも顔真っ青なセリフである。これではどっちが悪党なのか分からない。男は怯えながら話し始めた。


「あ、ああ…… 山頂の方で見た……… 金になると思ったから全員で山頂に向かって捕まえる所だったんだ………… その途中で、お前らを見つけて…………」

「はぁ、そうか。なら……もういい」

そう言うとルーカスはフェネクスを振り上げた。もうこいつに用はない。ポイニクスの情報を知れただけでも十分だ。これは朝から胸糞な気分の悪い夢を見せられたことへの八つ当たりも多分に含まれていたが。男はルーカスが何をする気なのかを察して必死に命乞いをする。


「ま、待ってくれ! 嫌だ、死にたくない! 分かった! 他にも色々話す! 金だって渡す! だからーーーー」

その男がそれ以上、話すことはなかった。ルーカスに斬られて身体が炎に包まれたからだ。やがて炎は徐々に小さくなり、跡形も無く消滅した。




辰姫はショックでしばらく動くことが出来なかった。ルーカスが人を殺したことではない。それは辰姫もルーカスに剣の稽古を受けている時に散々人を殺す覚悟のことを言われていたし、自分もいつかは誰かを殺すかも知れないのでそのことにどうこう言うつもりはない。一瞬だけ「命乞いする人まで殺さなくても……… 」とルーカスに対して嫌悪感のようなものも過るが、辰姫がそれ以上にショックだったのはルーカスに人を殺すことに忌避感や嫌悪感、躊躇いが一切無かったからだ。剣を振るえるようになって少しは強くなったと思っていた辰姫だが、ルーカスとの圧倒的とも言える大きな力の差を改めて感じたのだ。辰姫は自分の身体の震えが止まらなかった。それが目の前で人が殺されたことへの恐怖によるものかはたまた別のものなのかは分からない。


辰姫が何か言おうとしたその時、ルーカスはフラリと倒れた。


「……? ルーカス! どうしたの!?」

辰姫は慌ててルーカスに近寄った。


「……何でもない。いつものことだ。気にするな………」

「気にするよ! 一体何がどうしーーーー」

《おい、嬢ちゃん》

フェネクスの声が聞こえた。

《まずは嬢ちゃんが落ち着け。これは我を使ったことによるいつもの発作だ。そこの木で休ませてやれば問題ない》


フェネクスにそう言われて辰姫はルーカスを引き摺って近くの木に寄りかからせた。ルーカスは既に目を閉じており、まだ目を覚さない。辰姫はルーカスに一体何が起きたのかさっぱり分からなかった。ただ、ルーカスの無事を祈る他なかった。

今までルーカスは賞金のために殺さなかっただけです。必要とあれば容赦なく殺します。そうでもしないと生き残れませんので。


次回、ルーカスの過去編!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 代償付きの魔剣、決してルーカスだけなら安心というわけではないのは、どこか人間味を感じました。 [気になる点] ルーカスも誰かに安心して背中を預けられるようになればいいですね。
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