明るい夜
フィンチの研究について色々と気になることはあるが、ひとまずルーカス達は休むことになった。街はネオンの灯で全然分からなかったのだが、どうやらもう夜の時間帯だったらしい。流石は眠らない街といった所か。
ルーカス達は全員1つの部屋で寝ることになった。一応、男女でちょっとした仕切りを立ててはいるので大丈夫……だと思う。部屋の数的に流石に男女で別の部屋に分かれるのは無理だったのだ。ちなみにフィンチは先程の部屋にあるソファで既にぐっすり寝ている。彼はいつもそこで寝ているらしい。もうソファがベッドなのだと。
ルーカス達が寝ることになった部屋は古い論文やら設計図やらが色々雑多に置かれていたので、それらを全部どかして隅に寄せる。すると、何とか寝る分には困らない広さになった。
深夜ーーーーー
辰姫やルーカスは寝袋で眠っている。チナミは部屋を出て壁にある小さい窓から見える景色を眺めていた。なんとなく眠れなかったのだ。なので気分転換にと思ったのだが、あまり効果は無い。街はもう深夜にも関わらず灯が所狭しと辺りを照らしており、まるで昼のようだった。その景色を見てチナミは感嘆を込めて小さく溜息を吐いた。
「どうしたんだい? 眠れないのかい?」
そんなチナミに声を掛ける者がいた。セールだ。
「……ええ。少しね」
「……にしてもこの街は凄いな。もう真夜中だってのに滅茶苦茶明るいよ。こんなんじゃ昼も夜も分からないね」
セールが少し戯けた様子でそう呟くとチナミは小さく笑った。だが、その様子はどこか寂しそうだった。なのでセールはハッキリと言った。
「フム………もしかしてチナミ、君ホームシックになってるんじゃないかい?」
セールの言葉にチナミはビクリと身体を震わせる。
「どうして……?」
「君の今日の様子を見てれば何となく分かるさ。それにルーカスやタツキちゃんから君のことは色々聞いてるし。どうもこの世界は君が元々いた世界と随分似ているようだしね」
「いやセール、アタシは………………」
チナミは必死に言い返そうとするが何も浮かばない。少し経ってチナミは口を開いた。
「………この世界は色々とマージンと……アタシが住んでいた世界とは違うけど、雰囲気はよく似ているのよ。キョウ……いえオベロンが出来て何もかもが滅茶苦茶になってしまった頃よりずっと以前のマージンにね。だから………かな? 少し心に来るものがあるの」
「フーン………」
セールは少し考え込むような仕草を取る。セールはチナミに1つ確認した。
「それならここに住むのかい?」
「まさか。それはあり得ない。この世界にアタシの居場所なんてとても無いわよ」
「……分かっているのなら別に問題は無いけどさ。でも、難儀なものだね。ルーカスやタツキちゃんと違って君は明確な目的が無い。だから世界を渡り続けていくと精神的に参ってくるんだ」
「セールだって無いじゃない」
「まぁね。僕はただあの世界には僕の居場所は無いって思ったから世界を超えただけだから君よりも理由らしい理由なんてないな」
あっけらかんとした様子で笑いながら話すセールにチナミは少し疑問に感じた。
「そういえば、セールは今は何か目的ってあるの?」
「ん?」
「えっとね…… 前にルーカスが言ってたのよ。誰かのために力を使うのも立派な目的だって。だからアタシは辰姫の力になりたいと思ってる。それが友達だしね」
「なんだ。答えはもう出てるじゃない。ルーカスも偶には良いことを言うねぇ」
セールが戯けながら小さく溜息を吐くと、自分なりの現在の目的を吐露した。
「そうだね…… 自分にとって平和に暮らしていける世界を探していこうというのが今の僕の目的かな? 誰かの襲撃に怯えることもなくただひたすらに僕の趣味に没頭することが出来る世界に」
「フフッ、セールらしいわね」
チナミはセールと話して心の内を明かすと少し心が軽くなったらしく、急に眠気がこみ上げて来た。1つ欠伸をすると、セールの横で眠り始めた。
「お、おい…… ハァ……… 全く。急に寝ること無いだろうに。……仕方ないか。もう遅いし」
セールは何とかチナミを抱えるとゆっくりと部屋まで運び始めた。
かなり不定期になってしまいます。本当にすみません。