フィンチの研究
「それで、フィンチさんはどういう研究をしているんですか?」
辰姫が尋ねるとフィンチは「よくぞ聞いてくれた!」とばかりに得意げな様子で話し始めた。
「私が開発しているのは時空転移装置だ。コイツの開発が成功すれば過去の時代に行くことが可能になる。未来へはまだ現状では不可能だがな」
「時空転移装置………ということはタイムマシンですか?」
辰姫が驚いて声を上げる。チナミやルーカスも驚いている。セールはまだよく分かっていないようだが。もっとも彼のいた世界ではそういった考え自体が無かったと思うから無理もないが。
「でも、それって殆ど不可能だって聞いたことがあるけど……」
チナミが思わず言った。
そう。タイムマシンの開発は原理的に不可能だと考えられている。それはあくまで漫画や映画でのフィクションだけの産物だ。空間上での理論とかの問題でタイムマシンを開発することは根本的に不可能だと断言されていたはずだ。辰姫も以前何かの本で読んだ記憶がある。チナミの言葉にフィンチは頷く。その質問は彼にとって想定内のようだ。
「まぁ確かにそう言う者もいるな。だが、私は原理を理解したんだ。今から16年前だ。あの時の日時は今でもよく覚えている。X2374年6月11日4時53分。私は深夜にトイレで転んで頭を強打し、その瞬間に時空転移装置の構造を考え付いた。……考え付いた方法は格好良いものではないがな。そして、後にその仮説を確証へと導く文献も発見した」
フィンチがそう言うと、1冊の古ぼけて黄色っぽくなっている厚めの本を本棚から引っ張り出して辰姫達に見せる。チナミが本を手に取り、タイトルを読み上げる。
辰姫にとっては全く見覚えのない文字だったが、チナミは読めたようだ。やはりこの世界はチナミがいた世界と大分近いらしい。あそことは多少の差異はあるようだが。
「えっと…… 『次元間移動を満たす諸要素』……? 著者は……書かれていないみたいだけど…… これって信頼出来るものなの……?」
「まぁ、当然の疑問だな。ある人物から手渡されたものだったが、著者も書かれていない論文など本来は信頼性皆無の紙屑でしかない。私も最初は信憑性の無い机上の空論だと思っていたよ。だが、本に書かれている内容を実践してみたところ、空中に全長3センチ程の小さな歪みのようなものが生まれた。と言ってもすぐに消えてしまったが。その時に私は確信したよ。この文献は私の研究の上で重要な存在になり得るとな」
フィンチは可笑しそうに笑った。その目はどこか狂的なものを感じる。
「そして、16年…… 長かった。この文献に書かれている理論を完全に理解し、応用して空間だけでなく時間まで移動できるように新たな理論を編み出したんだ。お陰で研究者としての地位は剥奪されてしまったがね」