眠らない街 オリエへようこそ
浮遊都市オリエ。以前ルーカスと辰姫が過ごした天空都市マージンとは宙に浮いている街という点では同じだが多少あの街と異なっている点がある。いくつかあるが、1番大きい所は、マージンは完全に廃墟というか戦場というかディストピアシティと言うべき姿だったが、オリエは普通にネオンが輝き、「賑やか」という言葉が似合う街だったという所だ。恐らくマージンも以前はこんな街だったのだろう。チナミは少し懐かしそうな、寂しそうな表情を浮かべていた。また、オリエは全体的にマージンより3〜4倍くらいの大きさをしており、随分な大都会である。
マージン同様にエアポートがこの街にあり、ルーカス達を乗せていた舟は着陸した。舟は規定の位置まで自動的に移動するとエアポートにあるベルトコンベアによって運ばれていく。乗せてくれた女性が言うには、パーキングエリアまで運ばれるらしい。
「もしかしてあなた達、オリエは初めてかしら?」
女性は物珍しそうに辺りを見回すルーカス達の様子を見ると苦笑しながらそう尋ねた。辰姫は頷いた。
「ええ初めてです。……それにしてもすごいですね、この街」
「この街は元々地上にあった3ヶ国が地上を離れた際に1つの街になってるのよ。そのせいか、結構色んな文化が混ざって他の街とは全然趣向や雰囲気が違うものになったの」
女性の言葉で周囲を見てみると、確かにマージンで見かけた近未来風な建物があったり、純和風な建物があったり、はたまた中華風な建物があったりとどこか統一感がないように見える。あちこちには看板があり、ネオンが光り、それによって看板を明るく鮮やかに照らす。日本の繁華街をどこか想像してしまう。
その時、突然1つのモニターのような物から、薄紫色の髪をした美少女が現れる。少し際どいメイド服のような衣装をしており、行動にもどこかあざとさがある。少女の服にはサクヤと書かれた表示がされているネームプレートがある。
『眠らない街、オリエへようこそ! この街は様々な文化を取り込んだ奇跡の街よ! 凄いでしょ!』
その声がすると同時に音楽が流れ出した。日本の演歌とロックミュージックが合わさったような感じの曲だ。すると、サクヤという少女はキレッキレの動きで踊り始めた。
「確かに凄いねぇ、あの動き」
セールが感心したように呟いた。
「バーチャルガールね。アタシがマージンにいた頃もそういうのがあったわ。懐かしい。流石にあそこまで高性能じゃなかったけど」
チナミがそう言った。その時、女性がルーカス達に尋ねた。
「そういえばあなた達、これからどうするの? 観光にでも行くの?」
「ああ、丁度探しているものがあってな。それについて色々調べようと思ってる。人が多いから情報も早く集まりそうだしな」
ルーカスのその言葉に女性は頷くと、自己紹介が遅れたと言ってルーカスに1枚のプレートを渡した。メタリックに輝く薄い紙のようなものだった。中央にはボタンのようなものがあり、押してみるとその女性の姿と名前、彼女の職場に向かうための地図が突然立体映像として現れた。もう1度ボタンを押すと消える。どうやら、この世界での名刺のようなもののようだ。名前はニーナ・コーランというらしい。
「これは私の名刺よ。一応社交辞令にね。BED社で歴史と地上の自然再生の研究をしているわ。よろしくね」
BED社!?
マージンでの惨劇を知っているルーカス、辰姫、チナミはギョッとした表情でコーランを見つめた。
オリエはある意味、今までの世界の中で1番日本の雰囲気に近い街かもしれない……
ちなみにこの女性の名前、気付いた人もいると思いますが、第2章外伝にボイスダイアログのみに登場した研究者ニーナ・コーランです。別世界の人間なのでその彼女とはまるっきり別人です。異世界は一種のパラレルワールドなのでこういう事態もあります。