凄惨な地
4人はやっとのことで山岳地帯を抜けることが出来たが、ルーカス達は自分の目を疑った。自然溢れる山岳地帯とは大きく違って、荒廃しきった光景が目の前に広がっていたからだ。鉄筋製の建物のようなものがあちこちに散在しているが、どれも例外なく崩れ落ち、崩壊の一途を辿っていた。明らかに人間が住んでいるようには思えなかった。
「これは………」
「酷いわね。大方、人から捨てられた地……ってとこね」
セールが言葉を失い、チナミも顔を顰める。だが、辰姫にはこういった建物にどこか既視感のようなものを覚えた。
どこかで見たような…………
辰姫はそう思わずにはいられなかった。崩れ落ち、柱等が剥き出しになっている建物の様はただ年月が経っただけが原因には見えなかった。風化しきっていて原形を留めていないがガラスらしきものがあちこちに突き刺さったり黒焦げになったりしているものもあった。その時、ルーカスが何かを見つけたらしく、辰姫達を呼んだ。
「どうやら、人がいない理由はこれらしいな」
そう言ってルーカスが示したものには建物に残っていた黒い影のようなものだった。そして、その影は………人型だった。それもあちこちにこびり付いている。
「え……… これは……まさか……」
辰姫は絶句した。自身は直接見たことがあるわけでは無いが話には聞いたことはあった。この状態は随分昔に原爆が落ちた時の様子とよく似ている。もう1度よくよく見れば崩れ落ちている建物もどこか原爆ドームのように悲惨さがあった。人が1人も住んでいないのも納得だった。
そして、辰姫はあることに気付いた。仮にこれが原爆だとしたら、放射能とか色々と問題があるはずだ。現に人は愚か虫1匹の姿もない。ここにいつまでも留まっていたら、間違いなく危険だ。辰姫はルーカス達に進言する。
「ねぇ、皆。ここから早く離れて別の場所に行こう。ここ………」
グゥルルルルルルル……………
突如獣の唸り声のようなものが聞こえ、全員の身体が硬直した。ここには生き物がいないと思っていたが、今の唸り声は……… 4人がぎこちない動きで振り返ると、足が6本に目が4つある黒紫色の狼のような化け物が現れた。それも複数匹。山岳地帯にも狼らしき生き物はいたが、身体のサイズも毛の色も全然違う。しかも、どこか動きがぎこちなくなっている。足を引き摺っているというか動きが少し不自然になっているのだ。これならまだ勝機はありそうだ。
「クソッ! 何だ、コイツらは!?」
ルーカスはそう呻きながらも全員で何とか一掃するが、この狼達は理性がなく、致命傷を負っても尚噛みつこうと口を動かしている。それがより不気味だった。その時、辰姫は息絶えた狼の首に何か着いているものを見つけた。
「これって………」
それは随分と色褪せて、ボロボロになっていた飼い犬の首輪だった。