2話
〜ギルド前〜
「リュウ!こっちこっち!」
「そっちにいたのか、早いな。」
リン、長かった髪をバッサリ切っている。
めっちゃ似合うな…。
「おはよー。あ!君が噂の召喚獣だね!」
「はじめまして!うわーやっと会えて嬉しいよー!ラマンって呼んでね!」
「こちらこそ、よろしくねラマン。」
ラマがおれの知り合いと会うのは初めてか。余計なこと言わなければいいが。
まぁ仲良くやってくれるのは安心だ。
…それにしても2人で盛り上がっている。
「ん゛んっ(咳払い) とりあえず何か受けるか。」
「そうそう、なんかこないだ私のところにメッセが来たんだけど。」
「ん?」
目の前にリンのメッセージボードが開かれる。
【限定依頼配信中!
クエスト名:謎の鍵と噂の扉
詳細:この国に最近流れるとある噂。森の奥に佇む2つの扉。1つはドアノブすら付いてない。もう1つはドアノブは付いているが開かない。その先にあるのは見慣れた世界に新たな冒険。絶対に行ってはならない、行きは良い良い帰りは怖い。】
「ふーん、とりあえず森の奥にある扉ってのを探せばいいのか。」
「それもそうなんだけど見て、『謎の鍵と噂の扉』ってタイトルだから鍵があると思うのよね。」
「なるほど…これヒント少な過ぎないか?」
「いや地図が添付されててね、地図によるとこのツメ村に印が付いてるの。」
「あーじゃあここでヒントを探せってことか。」
…現状何もわからないってことか。
だいたい最後の言葉…、不穏過ぎないか?
ホラー系の依頼だったらヤダなぁ。
…ん?あれ?
「ラマはどこ行った?」
「え?あれ?あ!あっち!」
なぜか村の爺さんと団子を食べてる。
召喚獣…自由か!
ってあの団子代払うのもしかしておれか?
「おい、何してんだ?」
「あ!ねぇ見て見て!お爺さんからこんなの貰ったよ!」
「知らない人からほいほい貰うんじゃありません…ってこれ…鍵じゃねーか!!!」
目を疑う…。
いやヌルゲーかよ。
「え!嘘!?」
「爺さんこれ…!!」
【お手伝いありがとの。大したものじゃないが受け取ってくだされ。】
あ、この爺さんイベント用NPCか。
これ以上情報は得られなさそうだな。
いやいやそれにしても手に入るの早すぎだろ。
まだ何もしてないぞ。
「けどまぁ、ラマ!お手柄だ!」
「へへー!ねぇリュウ?僕食べたい物があるんだけど…」
【お団子代、10本で100Gです。】
「100G!?」
「えっとー、あのー…、あ!そ、その鍵ってなんなの!?」
こいつ…食べすぎだろ…。
仕方ない、まぁ鍵がすぐ見つかったのはこいつのおかげか。
ってこいつ鍵のこと分かってないって話聞いてなかったな…。
さて、あとは扉だが。
「リン、扉のある森ってどこか分かってるのか?」
「あ、それならトラちゃんに調べてもらってて、さっきメッセが来たとこよ。」
「あぁ、トラも手伝ってくれてるのか。」
「うん、でも別の依頼やりながららしいから情報だけね。えっと…、え!?」
「ん?」
「…隣のツメの森にそういう噂があるみたい…」
苦笑いするリン。
「近っ…、限定依頼とか言いながらそんな難易度高く無さそうだな。ってか大丈夫かこの依頼。」
「と、とりあえず早速向かってみよっか。きっと扉見つけてからが本当の依頼なんじゃない?」
何もしてないのに手に入る鍵。
すぐ見つかりそうな扉。
脳死依頼かよ…。
クリアしても大した報酬見込めなさそうだな…。
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〜ツメの森〜
「なぁそういえば気になってたんだが、その衣装…なんか前と雰囲気違くないか?」
前はもっと治癒士らしい魔法使いみたいな衣装だった気がしたが。
今はレンジャーみたいだ。
「あ、私昨日転職したのよ。」
「え!?まじか!今何の職業なんだ?」
急にニヤつくリン。
なんだ?
「いやーそれがね…。じゃーん!『テイマー』!だったの!」
「はぁぁぁぁ!?!?嘘!?まじか!?」
「本当よ。まだ成り立てだから何もテイムしてないんだけどね。」
「まじかよ…。うわーショック…。」
「リュウがなりたいの知ってたからね。何となく言い出しづらかったの。でもラマンを見てて思ったけどテイマーと召喚士って変わらなく無い?」
まぁそうだ。モンスターを召喚かテイムかの違いで『使役』していることに変わりはないらしい。
ただ…。
「選べないってのはだいぶ違うよ…。」
「なんだよなんか文句あるの?」
「そうよ、ラマン可愛いじゃん。」
「さすがリンちゃん!お目が高い!」
「いや、なんて言うのか…、もっと色々連れて歩いて中には癒されるやつがいて、みたいなのに憧れてたんだな。」
「ラマンだって丸々して癒されるじゃない。」
「…!!」
「あ…。」
ラマに「丸い」は禁句だ。
自分のことカッコイイと思ってるから割とショックを受ける。
一応本人曰く…『竜種』らしいからな。
「あ!ねぇリュウ!」
「どうした?」
「見て!『色兎』の群れよ!」
珍しい。色兎は二足歩行のウサギだ。色ごとに属性があるが攻撃能力はそんなに高くない。ただ、あまり人前に姿は表さないので群れでいる姿は貴重だ。
「白・黒・青・緑…灰色?の5匹か。」
「まだこっちに気づいてないみたい。…決めた!わたしの初テイムはあの子達にする!」
「…。」
「なに?反対?」
「いや、単純に羨ましいなって。」
「成功したら触らしてあげるって。行くね。」
リンが魔力を集中する。
色兎達の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「テイム!」
【失敗しました。成功しました。失敗しました。失敗しました。成功しました。】
「やった!」
黒と灰色の色兎をテイムに成功したみたいだ。
他の色は目にも留まらぬ早さで逃げていく。
リアル脱兎のごとく、だ。
「2人ともよろしくねっ。」
「それにしても黒と灰色、地味だな。」
「なによ文句あるなら触らなくていいのね?」
「あ、ごめんなさい。」
…これは…顔の毛がすごいモフモフしてて気持ちいい…。モフモフが止まらない…。
「黒は闇属性だとして灰色はなんなんだ?」
リンがステータスボードを開く。
「んーと、え!光と闇!?ミックスってこと!?」
「まじか!聞いたことないぞそんなの!」
「うん、能力値的には半々みたいだけど聞いたことないね。」
これめっちゃレアなんじゃ…。
まとめとかに載せたらトレード依頼が殺到しそうだ。
「じゃあ君らの名前はクロムとグレイね。」
いやにカッコイイ名前だな。
「じゃあ早速なんだけど、この辺で2つの扉って見たことない?」
色兎は鳴かない話せないから身振りで会話する。
どうやら知っているみたいだ。
すぐに歩き出す、案内してくれるらしい。
道中ラマの上にクロムとグレイが乗ってはしゃいでる。
…こういう光景、癒される。
「お、あったぞ。」
2つの石造りの扉が佇む。
リンがドアノブに手をかける。
「開かないね。」
「そうか。…あれ?鍵が。」
鍵が光り出す。
扉と反応しているようだ。
鍵をかざすと扉に吸い込まれるように消えた。
【ガチャ】
「開いたみたいだな。」
「…ちょっと怖いね。」
「確かにな。あまりに順調過ぎてここに来て『絶対に行ってはならない』って文言が気になるな。」
こんな簡単なのに『行ってはならない』。
…罠か?
レベルは足りているのか。
ここから高難度になるのか。
「なーにビビってんのさ。」
「うるせー。別にビビってねぇしぃ?」
「ふふっ、そういえばリュウって怖がりだったね。」
「おいやめろ。じゃ、じゃあ開けるからな。」
扉を…開ける。
「あれ?」
先が光り輝いて何も見えない。
「なんだ何も見えないじゃんか。」
「あ!あれ!?あーーー!!!」
突如後ろからラマの叫び声。
「え!?ラ、ラマ!」
「クロム!グレイ!」
渦に飲み込まれるかの様にラマとクロム・グレイが扉に吸い込まれる。
「きゃあ!」
「な、なんだ!?」
おれとリンの体が足元から光となって霧散していく。
「いや!!なによこれ!?!?」
「大丈夫か!?ログアウトだ!」
「さっきからやってる!!!出来ないのよ!!!」
「くっそ!!!なんだこれ!!!」
「「あーーーーーー!!!!!」」
目の前が真っ白になる。
なんだこれバグなのか?
ラマ達はなんで吸い込まれた。
リンは無事なのか?
リンになにかあってみろ!絶対運営にクレーム入れてやる…!!
「うわ!」「わ!」
【ドサッ】
視界が開けるとそこは何も変わらないツメの森。
「痛…。…リン!リンは!?」
【ムニッ】
「リン!?」
おれの下にいたのは…。
ー続くー