幸せになる人
高校2年生になった璃子。今の所は嘘のない高校生活を過ごしている。
仲間にも信条はないのか聞いてみる璃子。それぞれの決めた信条とは
2年生にあがったけども、今のところ、嘘はつかずに高校生活を過ごしている。
「璃子ちゃん、今のところは信条を貫き通して嘘はつかずにきてるの?」
千川さんに聞かれて、順調に、と答えると、茶道さんと嶋原くんになんのこと?と聞かれた。私は自己紹介の時のことを説明をして2人にもなにか信条はあるのか聞き返してみた。
「私は……そうね。喧嘩はしない、かな」
「嶋原くんは?」
「うーん……信条、ですか。信条とは違いますけど、高校生活の目標ならありますよ。彼女が作りたいです」
「おー?この中でお好みの相手はいるのかなぁ?」
千川さんはニヤニヤしながら嶋原くんを肘でつついている。嶋原くんは困った顔で否定していたけども、私の予想ではこの中にいるような気がする。私?はなんか違うと思う。彼女、か。私は彼氏を作りたいと思うようなことは、この先を含めてあるのだろうか。仮に彼氏が出来ても忖度せずに気持ちをストレートに伝えたら中学校の頃のように苦い顔をして居なくなってしまうのではないだろうか。
「あの。3人は私がなんでも思ったことを聞いたり言ったりしてるのは平気なの?」
「璃子ちゃんどうしたの、いきなり」
「ちょっと心配になちゃって」
「僕は別に。正直に言ってくれて助かってる」
「私も」
「そうよ。気を使って嘘をつかれるよりも全然良いわよ?」
よかった。私の思い過ごしだったみたいだ。
「嶋原ぁ~、今、おまえ彼女が作りたいって言ったのかぁ?そのヒョロさで彼女作れるのかよ」
井川くんだ。例のボーリング場の件があってからことあるごとに私たちに絡んでくる。そのたびに茶道さんが睨みつけて立ち上がろうとすると2人は去ってゆく。茶道さん、あの2人になにをしたのだろう。喧嘩をしたくないっていうのはなにか関係があるのかな。
「井川くんと三河くん、なんで私たちにあんなに絡んでくるんだろう。神原さんに一番絡んでくるよね?もしかして好きなんじゃない?」
「やめて」
私はが冗談っぽく離れてゆく2人を見ながら振り向いて璃子ちゃんを見たと同時に真剣な顔をしながら、かなり強い語気で言われてびっくりしてしまった。嫌われた?まって。それだけは待って。ダメ……。
「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくて……」
「いいわ。私もそんなつもりで言ったんじゃないから」
ほっとした千川さんの顔を見ながら本心とは違う言葉を口にした自分の心に問いかける。
「なんで?なんでこんなことで嘘をついたの?嫌われたくなかった?今まで一人でも大丈夫だったのに?こうして4人で居ることが心地よくて壊したくなかった??」
その日の夜はついてしまった嘘についてずっと考えていた。つける嘘はあと2回。あの4人が仲間割れしそうな場面に遭遇したら私はまた嘘をつくのだろうか。そうならないように公道をする?でも自分が感じたことと違う行動をするのは自分に対しての嘘。そもそもなんで私は嘘をつかない、というルールを自分に架したんだっけ……。
翌朝に居間に置いてあった写真を見て思い出した。あのおじさんが死んだときに決めたんだった。お母さんのためについた嘘が自分の中で許せなかったんだった。
「おはよう。茶道さん」
駅から学校までの登校途中に前を歩く茶道さんに声を掛けた。
「おはよう。神原さん」
振り向いてそういった彼の前にスマホを持った自転車が突っ込んできていた。
「危ない!!」
私は咄嗟に茶道さんの腕を引いて間一髪、衝突は避けることが出来た。
「あり……が……とう」
「どういたしまして…」
あんなことがあったの2人ともに無言で登校している。この聞きたい、という気持ちを押さえたら自分に嘘をつくことになる。昨日の今日でまた嘘をつくことになる。
「ねぇ、茶道さん、いや……茶道くん。どうして?」
「ええっと。どう伝えればいいのかな。ご想像の通りなんだけど、ちょっと直接は言いにくいというかなんというか……」
「そう。分かったわ。皆には黙っておくわね」
このれはつくべき嘘だ。それに関してはもう一つ、気がついてはいたけども皆には黙っていることがある。嶋原くん、きっと彼は嶋原さん、なんだと思う。あと……
「璃子ちゃん?どうしたの?買わないの?」
学校の自販機の前で考え事をしていた私に千川さんが後ろから話しかけてきた。
「これでしょ?」
そう言って千川さんは私のいつ買っているウーロン茶のボタンを押した。
「ねぇ、千川さん。千川さんは私のこと、好き?」
「ん?好きよ?なんで?」
「そう。確認してみたかったの。それじゃ、今日の放課後、ちょっと付き合って欲しいのだけれど良いかしら?」
「良いけど……どうしたの?」
千川さんが自販機からウーロン茶をとりだそうとした瞬間、別の手がウーロン茶を取り出した。
「なになに?2人で密会?なにそれ。俺も混ぜてよ。三河も呼ぶからさ。2対2で楽しく遊ぼうよ」
また井川くんだ。そう言って私の肩に手を置こうとした瞬間、井川くんは横に吹っ飛んでいった。
「大丈夫?怪我はない?」
「だい……じょうぶだけど……」
私は茶道くんに「いいの?」と目配せをしたけども、茶道くんは苦笑いをして「いいんだよ」とだけ答えてくれた。
「玲子ちゃんすっごーい!投げ飛ばしたの!?茶道じゃなくて柔道家なの?」
興奮した千川さんをなだめて私たちは教室に向かう。昼休みの前には今朝の出来事が広まり、茶道くんを見てはひそひそとなにか話している人達がたくさん居た。食堂に行っても学年違いの人達からの目線も感じた。バレちゃったのかな。でもあれだけでバレるということは無いと思うのだけれど……。
「茶道さん、なにかしたの?なんか皆、茶道さんを見てなにか話しているけど」
「ああ、今朝ね、璃子ちゃんを掴もうとした井川くんを茶道さんが投げ飛ばしたのよ」
「それで……。でも投げ飛ばしたって一体……」
「嶋原さん、女の子の詮索は感心しないわよ」
「そうだ……ね?ごめん」
その日の夕方、約束通り私は璃子ちゃんに付き合った。どこかに遊びにでも行くのかと思ったのに、視聴覚室に連れてこられた。
「なぁに?こんなところに連れてきて。秘密の話?」
「ん、そんなところ。私は嘘をつかないから千川さんも正直に答えて欲しいのだけれど、良いかしら」
「いいけど……なぁに?ほんとうに」
「わたしのこと、キライ?明日から話さないって言ったらどうする?」
「なん……で?なんでそんなこというの?私は璃子ちゃんが好き。嫌われたくない。何でもするから嫌いにならないで!お願い!」
「ねぇ、それは私達に嫌われたくないの?私に嫌われたくないの?」
ちょっと意地悪な質問だ。でもどっちなのか確認したい。だって、そう思っちゃったんだもの。
「やぁだぁ……璃子ちゃんに嫌われたくないの……。茶道さんや嶋原くんに嫌われたとしても、璃子ちゃんだけには嫌われたくないの……お願いだからそんなこと言わないで……お願いだから……」
千川さんはスカートの裾を握りしめて泣いている。彼女は仲間に依存しているのかと思っていた。そう思っていたのに。違った。彼女は……。
「千川さん!?」
油断した。千川さんに抱きつかれてしまった。
「璃子……ちゃん?あなた……なんで?なんでなの??私、、、璃子ちゃんが……!」
千川さんは私を突き飛ばして頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。
「なんで……嘘、つかないんじゃなかったの……なんで……」
「ごめん……なさい。私、私、本当は嘘で塗り固めた人間なの。それでも私を好きでいてくれるのなら……」
そう。これは最初の嘘。あの知らないおじさんと一緒に私の私の双子の妹が死んだ。私はあの日から母にとっての妹になった。僕は死んだんだ。
「璃子ちゃん?」
「なぁに?」
「なんでそんな嘘をついたのか分からないけど、そのままの姿でいてくれるのなら私は……」
ああ、やはり彼女は僕のことを……。
僕は嘘にまみれた人生だ。そしてこの先もずっと。自分に、世界に嘘を突き通して生きて行くんだ。
この嘘で幸せになる人がいる限りずっと。
最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっとわかりにくい文章だったかと思いますが、
三話目をご確認いただければ本作品の核心がわかるんじゃないか、という気持ちで書いてみました。
人生の中で最大の嘘を抱えて、それを他人に知られたとき、あなたならどうしますか
次作「In the breeze」は4月1日」から連載を開始します。もしよろしければお読みいただければ幸いです