解散
日曜更新とは言いましたが、連投しても構わんのだろう?
ここで切らないと切りが悪かったので短めです。
「……なんで?」
俺の一言に対してイリスは小さくそう呟いた。
冒険者ギルドに着いた俺はいつものように受付にて職員と話しているイリスを見つけ、いつもとは違い、イリスが話し終わるのを待たずにイリスへと近付いた。
そして俺が話がしたいと酒場の方へと誘い、テーブル席に座ってからの俺の一言に、先程のイリスの言葉が俺に対して投げかけられた。
何と説明すれば良いのか思い悩む俺を見て、イリスは何かを察したのか、俯きながら言う。
「私が、失敗したから……?」
「そ、それは違う!」
「じゃあ、何で解散なんて……」
「それは……」
理由を聞かれ、俺は正直に答えるべきか悩んだ。
左腕がこうなったのは俺の力不足が原因であり、イリスには全く責任はない。
しかしイリスは昨日の失敗を気にしているため、今ここで「昨日の戦闘の時に……」なんて話をしてしまえば酷く悔いてしまうだろう。
俺は悩み、じっくりと考えた結果、誤魔化すことに決めた。
「少し、自分を鍛え直そうと思ってな」
嘘は言っていない。
以前テレビか何かで聞いた話だが、嘘を付いたり、何かを誤魔化したりする際、その虚言に多少の真実を混ぜることが重要だと言っていた。
今回の場合、俺はそうなった原因を語っていないだけ。
左腕を失った今の状態で戦闘などまともに出来ない事は先程理解した。
ならこの状態でも戦えるように鍛え直す必要がある。
そしてそれは何日、何ヶ月、もしかすると何年かかるか分からない。
その間イリスとパーティでいる事など不可能であるし、イリスに迷惑だ。
故に今この場でパーティを解散する事でイリスには新しいパーティ探しに専念して欲しいと思った。
いつ帰ってくるか分からない俺を待つ必要などイリスには無いのだから。
それにイリスは他のパーティを元から探していた。
ならばきっとこの提案を受け入れてくれる筈。
そう、俺は思っていた。
「いつまで?」
「え……?」
「どれくらい、待てば良い?」
「わ、分からない……だから俺を待つ必要は──」
「──待つ」
俺の言葉を遮るようにしてイリスはいつもより少し強めの語気で言った。
何故そのようなことを言うのか、俺には分からなかった。
だが、俺はイリスの力強い瞳を見て、その言葉が本気なのだと感じた。
俺は何を言えばいいのか分からず、戸惑っていると、イリスが先手を打ってきた。
「一年よ」
「え?」
「一年は待ってあげる」
「いや、だから……」
「それまでは他のパーティに臨時で入って、私も強くなる」
「それは……」
「じゃあまたね、マサヨシ」
「え……今……?」
自分の言いたいことだけを言って、イリスはその場から去っていった。
何とも勝手な奴だと他人から見れば思うだろうが、これはイリスなりの気遣いなのだろう。
それに、最後、あのイリスが俺の名前を呼んでくれた。
そもそも覚えていたことにもビックリしたが、あんなことをされてしまえば、頑張らなきゃって思ってしまうじゃないか。
未だ戸惑いを隠しきれないが、俺も席を立ってその場から去る。
イリスは冒険者ギルドに、俺は外に。
一年……それで剣術を自分のものにどれだけ出来るかは到底分からないが、再び会った時、イリスに落胆されないくらいにはならないとな。
俺は外に出ると、何となく走りたくなった。
何処に向かうでもなく、ただ走りたかった。
期待されている、待っていてくれる。
そんな存在がいるということに、俺の塞ぎかけていた心はいつの間にか、この青空のように晴れていた。
ヒーローに逆境は付き物だ。
そんな冗談を思い付くくらいには、俺は自分を取り戻していた。
もう一話連投します