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少し評価ポイントが上がっているのに気付きました。

ありがとうございます!

 夜。

 少々予定よりも時間がかかってしまったが、無事コボルトの討伐を完了した俺とイリスは街に戻り、冒険者ギルドに到着した。

 夜ともなると俺らのように依頼から帰って来た者たちが多く、酒場の方では今日の報酬を既に手に入れ、酒を飲んで騒いでいる奴らがいる。

 受付のカウンターには列が出来、皆一様に自分の番がまだかと待ち侘びている。

 俺はイリスと共に列の最後尾に並び、順番が来るまで待った。

 イリスを横目で見ると疲れからか瞼が閉じかけている。

 俺も一日中動き回り、魔物の探索に神経を使っていたため疲れてはいるがイリス程ではない。

 神の使いによって強化されている俺の肉体は疲れなどにもある程度強いことはこちらに来てから体感しているが、俺とイリスの疲れの差はそれだけではない。

 俺は剣士であり、イリスは魔法使い。

 肉体的疲労が多いのは俺だが、精神的疲労が多いのは断然イリスである。

 俺は魔法を知らないからよく分からないが、魔法一つ発動するのにはとても集中力を要するらしい。

 熟練の魔法使いであれば息をするように魔法を発動する者もいるそうだが、そんな奴は一握りで、イリスのような新米にとっては一回一回が神経を擦り減らすようなものだそうだ。

 今回の討伐においてはそれを四回。

 しかもその内一回は……いや、それは特筆して言うべきでもないか。

 何が起こるか分からないのが冒険者。

 無事に帰って来れた事だけが重要なのだから。

 そうこうしている内に俺らの番となり、受付にて討伐証明を手渡し、受付の裏で検品してもらった後、コボルトの物と判明すれば報酬が貰える。

 俺らは偽装も何もしていない為、検品も早く終わり、女性職員から報酬の入った袋を渡される。


「お疲れ様でした」


 女性職員からのささやかな労いの言葉に対して俺は軽く会釈してからその場から離れ、女性職員は次の冒険者の相手を始める。

 あの程度の労いであっても、やはり俺としては有難い。

 無事に帰って来れたという実感が湧くからだろうか。

 そんな事を考えていると不意に服の裾を軽く引っ張られる。

 そんな事をするのは俺の知る限りイリスしかいないわけなのだが、一応犯人を視界に収める。

 するとイリスは顔を伏せながらもう一度俺の服を引っ張る。

 服が伸びてしまうからあまり引っ張らないでほしいが、素直じゃない少女には大人の余裕というものを見せてやるべきだろう。

 俺はイリスの意図を察してギルドの左手にある酒場へと向かった。

 四人掛けのテーブルにイリスと対面するようにして座り、店員に酒と適当な飯を注文する。

 程無くして酒が運ばれて来た。

 俺が酒の入ったジョッキを手に持つと、イリスもそれに応じてその小さな手を二つ使ってジョッキを持ち上げる。


「生還に」

「……生還に」


 今日の無事を祝い、俺とイリスはジョッキを合わせる。

 ジョッキを傾け、一気に半分程を飲み干す俺に対し、イリスはチビチビと酒を飲む。

 俺もそこまで強い方ではないが、イリスは弱い。

 ジョッキ一杯で泥酔レベルになる程度には。

 そんなイリスから酒に誘われる。

 ならばその理由は明白だった。

 イリスはジョッキを置き、暗い表情のまま何も言わない。

 言わないというよりも、言い出せない、切り出せないといった感じだろう。

 俺から話を振るのは簡単だが、それは違う気がする為、俺は店員が丁度運んできた飯を食いながら待った。

 イリスが言いたい事。

 それは今回の依頼での失敗だろう。

 後四体討伐すれば終わりといった所で、俺らは四体のコボルトを丁度見つけた。

 一度に相手するには少し多いが、イリスの魔法で一体確実に仕留められる事を考えればやれないことはなかった。

 俺らはお互い同意の上で行動を開始し、イリスが詠唱に入ったその時、背後からもう一体コボルトが現れた。

 俺の警戒が甘く、接近して来ていたのに気付かなかったために受けた奇襲。

 その突然の出来事にイリスは集中を乱してしまい魔法の発動を失敗し、俺は奇襲をかけて来たコボルトに応戦して仕留めた。

 しかしこの事で他の四体のコボルトに気付かれ、俺らに襲いかかって来た。

 最終的にそのコボルトは俺が何とか仕留めることが出来たのだが、その時からイリスは落ち込み気味であった。

 奇襲に気付けなかった俺のせいだと言って聞かせたのだが、イリスとしてはそれでは納得出来なかったようだ。

 飯を食い始めてしばらく経った後、漸くイリスの口が開いた。


「何も出来なかった……」


 イリスの言葉に俺は一瞬戸惑いを隠せなかった。

 俺の予想としては魔法の失敗を悔いているのかと思っていたのだが、どうやらイリスの考えは違うようだ。

 その言葉を皮切りに、イリスはポツポツと呟くように今日の自分の失態を語り始めた。

 奇襲があっても集中を乱すべきではなかった。

 そういう時のために俺がいるということを忘れていた。

 俺を信じきれていなかった。

 コボルトに気付かれてからは何も出来なかった。

 落ち着いて集中すれば魔法を発動出来たはず。

 などなど、よくもまあ自分をそこまで卑下出来るものだと俺は感心した。

 イリスの言い分は一方でその通りなのだろうが、俺としては全くそうではない。

 それまでは上手くやれていたのだ。

 ただ最後の最後に奇襲を許してしまったのがこの事態の原因であり、それは俺のせいだ。

 イリスはコミュ障で無愛想だが、根は真面目な良い子なのだ。

 責任感も強く、きっとこの失態を長く引きずってしまうことだろう。

 俺はそんなイリスに対し、これ以上気にしなくてもいいように言葉を紡ぐ。


「今回は俺が奇襲を許し、イリスの魔法発動に弊害をもたらせてしまった。その為にコボルトに気付かれ窮地に陥った。それが全てだ。俺は自分の尻拭いを自分でしただけだ」

「でも……」


 俺の言葉に反論しようとするイリスが何かを言う前に俺は続けて言う。


「それでも気にするってんなら、ここの会計はイリス持ち。それでチャラだ」

「それは……」


 元々そのつもりであったのだろうが、そんな話俺は聞いていない。

 だからここは押し切ってしまおう。


「俺くらいの歳だと若くて可愛い子と酒飲めるなんて金払ってでもしたいくらいなんだ。その上で奢りとなりゃ言うことないってもんだ!」

「……馬鹿」


 俺の言葉に呆れながらも、先程のような暗い表情はなくなり、薄く笑うイリスを見て俺はもう大丈夫だろうと感じた。

 このパーティがいつまで続くのかは分からないが、組んでいる限りは互いに命を預けるのだ。

 互いの関係が微妙な距離感となっていては今後に差し障ってしまう。

 イリスが元に戻ったことで俺は安心してもう一杯酒を頼んだ。

 奢りなのだ、たまには羽目を外したっていいだろう。


 その後、夜更けまで飲んでいた俺とイリスはイリスがダウンしたことによってお開きとなり、酩酊状態のイリスを介抱しながら俺が会計を済まし、イリスが泊まっている宿まで送り届けることになるとはその時の俺には知る由もなかった。

今後は毎週日曜更新目指します(願望)

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