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善き者

底辺ではお世話になりました。

完結後、とてもアクセスが伸び、喜び勇んで次作の序章的なものを書きましたので取り敢えず投稿させていただきます。

書き溜めなど全くありませんので、次回は少しお待ちいただくかもしれませんが、よろしくお願いします。

 子供の頃から、正義の味方というものに憧れていた。

 正義の力で悪を倒す、ヒーローのような存在に憧れていた。

 それは単に子供心からカッコいい存在になりたいという欲求だったのかもしれない。

 だが、そんな憧れを、もうすぐアラサーになる社会人が未だに持ち続けてしまっているのは、我ながら少しおかしいとは思う。

 しかしそんな風に思えるのも、今日この瞬間が最後だ。

 俺はトラックに跳ねられ、宙を舞いながら、走馬灯のようにそんな事を思い出していた。



 もう二度と戻る事はないと思っていた意識が戻り、俺の視界に映ったのは何も無い白い空間だった。

 一瞬病室かと思ったが、それにしては何もなさ過ぎるし、何より俺の体に怪我が見当たらない。

 一体どうしたのかと困惑している中、背後から女性に声をかけられた。


「結城正義さん、貴方は死んでしまいました」


 声の方に振り返ると、そこには今までテレビなどで見て来た女優やモデルなどとは比べ物にならない程の美女が立っていた。

 そのあまりの美しさに俺は言葉を失い、ただ呆然と彼女を見つめる事しか出来なかった。


「驚かれるのも無理はありません。ゆっくり順を追って説明させていただきます」

「は、はい……」

「貴方は子供を助けるために道路へ飛び出し、トラックに跳ねられ死んでしまった。ここまではよろしいですか?」

「はい」


 やはり俺は確実に死んでしまったようだ。

 つまりここは天国か地獄か、それともまだ三途の河的な場所なのか。

 そもそも目の前の存在が何なのかも、俺には到底理解出来なかった。


「そんなに怯えなくとも大丈夫です。善なる行いの下、不幸にも亡くなられた方には一般的な死とは異なる処遇が用意されています」

「異なる処遇?」

「はい、神々はとても慈悲深い方々です。貴方のような善き者が早くに亡くなることをとても悲しまれます。故に、貴方のような方には二つの選択肢が用意されております」


 神々なんて言葉を聞いて俺は少し身構えた。

 きっと目の前の存在はその神々の使いや天使といった位置付けなのだろうし、とても悪魔や地獄の使者といった雰囲気でもない。

 しかし、何故だろうか。

 これから俺が行う選択は、俺にとってどちらを選んだとしても、希望に満ち溢れており、尚且つ後悔が隣り合わせで存在していそうな気がするのは。

 神の使いは右手を前に出し、人差し指をピンと立てながら話す。


「一つ、全く新しい命として生まれ変わる。これは貴方方の考える輪廻転生とほぼ同意義であると思っていただいて結構です」

「輪廻転生……」


 そして神の使いは中指を立て、予期せぬ二つ目の選択肢を提示する。


「一つ、貴方のまま、異世界へ赴く」

「え……?」


 一つ目は分かる。

 全てをリセットして新しい生命を受け入れる。

 それは人かもしれないし、植物かもしれない。

 全ての生命が等しく受ける処遇であろう。

 しかし二つ目はどういう事だ。

 俺のまま、異世界に?

 困惑する様子の俺を見て、神の使いは言葉を紡ぐ。


「結城正義として、貴方が住んでいた日本、地球、その銀河系、全てが異なる全く別の世界へ赴く。有り体に言えば、異世界転移です」

「でも、俺は死んで……」

「貴方の傷は既に完治していますし、精神もとても安定しています。これは神々からの慈悲。先程も言いましたが、神々は善き者が早くに亡くなることを酷く悲しみます。もし貴方が輪廻転生を選べば、世界からまた一人、善き者がいなくなるということ。前世がどれ程善き者であれ、来世においても貴方が善き者である確証は無いのです。それ故の、異世界転移です」

「つまり、神々が悲しまないよう、引いては世界全体の善き者が少なくならないようにするための特別待遇って事か?」

「その通りです」

「……」


 いきなり異世界転移などと言われても困る。

 それが俺の正直な感想だった。

 本音を言えば、どうせ生き返れるのであれば日本に帰してくれと願い出たい。

 しかし俺に残されている選択肢は二つ。

 きっと既に死んでいる俺が現世で生き返る事は許されていないのだろう。

 なら異世界にいきなり別世界の人間が転移することはどうなのだとも思うが、神々の事情など俺が考えたところで答えなんて出ない。

 どうするかな……。


「因みに我々は異世界転移をして頂きたく思っておりますので、貴方が異世界に行っても大丈夫なように様々な支援を出来る限りさせていただくつもりです」

「支援?」

「はい。金銭などは我々は用いませんのでご用意出来ませんが、意思疎通に問題の無いように貴方の脳へ異世界の言語を強制的に書き込む事は出来ます」

「は、はぁ……」

「更に、折角転移していただいたのに早々に亡くなられても困るので、肉体を強化させていただきます。例えるなら病気になりにくかったり、貴方の死因である交通事故程度であれば一命は取り留められるくらいです」

「えっと……」

「もっと何かというのでしたら、条件付きではありますが特殊な力を貴方に授ける事も出来ます」

「……」


 俺が困惑する中、神の使いは次々と異世界転移に伴う支援を提示してくる。

 なんだか、風向きが変わったような気がする。

 最後に提示された、条件付きの特殊な力。

 この二つの単語を聞いた途端にとても今回の話が胡散臭く感じられるようになるのは何故だろうか。

 ……そうだ、思い出した。

 そういえば昔読んだ漫画で主人公がこんな展開を繰り広げていた。

 あれだと確か主人公は神の力を得て異世界に行き、その世界で魔王を倒す旅に出たはず。

 力を得る条件がその魔王退治だった気がする。

 途中で読むのをやめてしまったせいで既に完結しているのかどうかは知らないが、その主人公は結構楽しく暮らしていた。

 ……よし、決めた。


「決まりましたか?」

「はい」

「では、異世界への扉をーー」

「ーー輪廻転生で」

「……」

「……」


 沈黙が訪れる。

 神の使いの表情を見ると、めちゃくちゃ真っ赤に染まり、まるで林檎のようだった。

 まぁ気持ちは分からなくもない。

 基本的にこういった流れで断るような奴は少ないだろうし、恐らくこの神の使い自身断られた事がなかったのだろう。

 だが気にすることはない。

 失敗は誰しもするものだ。

 この失敗を糧に今後も善き者の道標となってくれ。


「で?輪廻転生するにはどうすれば良いんだ?」

「あの、もう少しお話ししませんか?」


 俺がそう問いかけると、神の使いが申し訳なさそうに、上目遣いとか地味にあざとらしく返してくる。

 しかし俺の気持ちはそんなものでは変わらないので軽くあしらう。


「異世界とか興味無いからな。それに、人を救って落とした命だ。悔いはない」

「でもでも!自分がなくなってしまうんですよ!?怖くないんですか!?」

「皆んな最終的にはそうなってしまうんだ。覚悟はもう死ぬ直前に済ませた」

「転生先が人とは限らないんですよ?」

「その時にはもう俺は俺じゃない」

「……」

「……」


 再び訪れる沈黙。

 結局俺がどう言おうとも、この神の使いが輪廻転生の方法を教えてくれる、もしくは輪廻転生させてくれないと、俺はこの場からどうすることも出来ない。

 俺はそのまま沈黙を守り続け、神の使いの出方を伺った。

 すると神の使いは急にその場に膝をつき、両手もつき、最終的には頭さえもつけてしまった。

 所謂、土下座の態勢となった。


「お願いします!どうか異世界転移してください!そうじゃないと私、神々から罰を受けてしまうんです!本当に申し訳ありません!貴方様が異世界転移してくれなければ導き手の私の落ち度とされてしまって、折角この前正式な神の使いになれたのにまた下っ端からやり直しになってしまうんです!両親に祝ってもらったばかりなのに降格だけは勘弁してくださいいいいい!!!」

「え……えぇー……」


 何故俺は今神の使いに土下座されながら神々の世知辛い話を暴露されているんだろうか。

 何かもう目の前の神の使いが残念な美人にしか見えなくなってきたよ……。

 ……これがもし、この残念美人の策略なんだとしたら、大したもんだな。


「えっと……そう言えばまだ聞いてなかったんだけど、特殊な力って何?」

「っ!?そ、それはですね、えっと!えっと!」

「あぁ、落ち着いてくれ。取り敢えず話だけは聞くから」


 ノーと言えない日本人。

 神の使いの言う善き者でなかったとしても、土下座までされて断れる日本人なんて俺は知らない。

 流石に卑怯じゃないかと、心の中で俺は呟いた。

 落ち付きを取り戻した神の使いは立ち上がり、深呼吸をしてから話を始めた。


「取り乱してしまい申し訳ありません。特殊な力と言いましたが、これはある意味貴方自身の力とも言えるものでありまして、簡単に言ってしまうと神々の力によって貴方の理想を叶える力、となります」

「理想を叶える……」

「はい、貴方が向かう異世界は俗に言う剣と魔法の世界。貴方が知る科学現象が全て魔法に置き換わった世界。その世界において貴方は神々から与えられる魔力と呼ばれる力によって、貴方の望む力を得ることが出来ます」

「聞いた限りだと、何でも出来る力と考えていいのか?」

「はい、そのような解釈で問題ありません」


 神の力によって何でも出来るようになる。

 善き行いをして死んだだけの俺が与えられるにしては破格過ぎる力だ。

 こんなものを貰うとなると、もう一方の条件を聞くのが怖くなってくる。

 しかし、聞かねばならない。

 契約書は小さい文字でも見逃さずにキチンと読まねばならないのだ。


「それで、条件っていうのは?」

「それは貴方次第、としか言いようがありません」

「……え?」

「条件は貴方が望む力によって異なります。より大きな力を望めば、それ相応の条件を課せられます。例えば、過去に『目にしたものの情報を読み取る力』を望んだ方がいました。その方に課せられた条件は二つ、『力を解除することが出来ない』『視覚以外の五感のいずれか一つを失う』でした」


 神の使いの言葉を聞いて、俺はこの異世界転移は生半可な覚悟でするものではないと改めて感じた。

 望むものなら何でも手に入る代わり、それ相応の代償が伴う。

 恐らくこれは強過ぎる力に対する神々による抑止力。

 この代償が無ければ、異世界においてその人物は神に等しい存在になるだろう。

 現代日本に住んでいて、情報の重要性というものは嫌という程知っている。

 きっとその人も情報を得るためにその力を得たのだろうが……それ程までに代償が大きいなんて思いもしなかっただろうな……。


「因みに、何を失ったんだ……?」

「聴覚です」

「そうか……」


 無音の世界で、目に入る全ての情報を読み取り続ける生活。

 それがどれ程辛いものか、俺には想像も出来ない。

 答えを聞いてから暫く沈黙する俺に対し、神の使いは調子を取り戻したのか、再び俺に問いかけてくる。


「それで、如何なさいますか?」

「俺は……」


 悩む必要なんてない。

 先程と同じように輪廻転生と答えれば良いだけじゃないか。


「……」

「助けて、くださらないのですか……?」

「っ!?」


 再び、上目遣いでこちらに問いかけてくる神の使い。

 こいつは分かっている。

 わざとやっている。

 俺が断れないと、こうすれば素直に頷くと知っていてやっている。

 こうなると先程の話も嘘の可能性が高い。

 しかし、それを確認する術を、俺は持ち合わせていない。

 俺は爪が手の平に食い込む程拳を握り締めた。


「俺は……俺は……っ!」


 選択肢など、この空間に導かれた時から、一つしか存在していなかった。

頑張ってチート主人公書きます(棒読み)

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