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8:強面

「────ってことがあったんだ、昨日」


「そうか」


「信じてないだろお前」


「どこに信じられる要素があるんだよ。語り手まで考慮して怪しさ役満だ」


 僕は近所のファミレスにて男と二人っきりで会話をしていた。


 この男は僕の友人で、名を志木(しき)(ダークネス)という。

 キラキラネームに足先から頭頂部まで突っ込んでるロックな男だ。本人としてはそこをいじられたくないらしいが僕の知ったことではない。


 志木は注文したポテトをつまみドリンクバーから取ってきた炭酸飲料を飲みながら半目で僕の話を聞いている。

 語り手への敬意というやつが感じられないね、礼儀に欠けているよ。


「じゃあ賭け腕相撲をやろう。僕が勝つ。10万円ベットしな」


「そもそも俺は以前のお前相手でも勝てないと思うんだが……」


「弱気だね。そんなんじゃ本当に守りたい人を守れないぜ」


「現代日本おいてそんな場面に遭遇する可能性はほぼゼロだ」


「言い訳を並べ立てるなよ、そんなに10万が惜しいか?チキン野郎め」


「お前と喋ってると疲労が凄いよ……」


 はあ、と溜息を吐く志木。

 この男、とんでもない強面のくせにやたらと女性からちやほやされているのが気に食わない。僕の当たりも強くなるというものだ。

 身長が高い、というのは一因かもしれない。確か186cmとか言っていたか。


 こいつ自身は『お前が隣にいるから流れてくるんだよ』なんて言ってたが一度も流した覚えはないしそもそも僕自身女に困っている。意味がわからない。理不尽だ。


 そんなことは置いておいて説得に戻る。


「とんでもなく視力の悪かった僕が眼鏡をかけていないことも十分な証拠になると思わないか?コンタクトだってつけてない」


 筋力に作用するスキルが眼のあたりにまで影響を及ぼしたのか、眼鏡なしで生活ができるほどに僕の視力は回復した。

 願ってもいない幸運だ。


「レーシック手術を受けていないことを証明できるか?」


 それは悪魔の証明に類する。猜疑心を持ったこいつの返しはいやらしい。まあ初めから一切信じるつもりがないのだろう。


「まあいい、千紗ちゃんが来れば全てわかるさ。純真無垢な心からありのままあったことを話してくれるだろう」


「ふうん……」



 しばらくくだらない話を続けていると、志木より大分高い声が耳に届く。


「ごめんなさい!遅れちゃいました!」


「ごめんねー……うわっ」


 千紗ちゃんともう一人、千紗ちゃんの友人である。そちらの子の方は長い黒髪を流している。うわっ、というのは志木のあまりにも強面な顔を直視して出た声だろう。


「大丈夫、僕らも今来たところだ。待ち合わせから五分遅れたくらいで大袈裟だね」


 僕の言葉に30分前から僕に付き合わされていた志木が僕の言葉に眉を顰める。


「なんで俺だけ早く来させられたんだ」


「先に一通り説明しておきたかったからね。千紗ちゃんの友達には千紗ちゃんの方から伝えてもらってる……まあとりあえず座りなよ」


 僕と志木が四人席で対面して喋っていた形だったので、少し横に体をずらし、隣に座ることを促すように千紗ちゃんにジェスチャーする。

 千紗ちゃんは少しだけ目を見開くと、そのまま横に座ってくれた。こう素直だと逆に少し怖い。


 志木の隣に座ることになった黒髪ロングちゃんの方は少し顔が引きつっている。


 神様──エリアとか言っていたか。

 エリアが消えた後、僕らはここで友達を連れて会う約束をした。

 何故かダンジョンの中に携帯は持ち込めていなかったから連絡先を交換するなどといったことができなかったのが一つ集まった理由だ。


 千紗ちゃんが連れてきた黒髪ロングの子は数少ない友人、らしい。

 目尻が少し垂れていて、無論千紗ちゃんには劣るがなかなか愛らしい顔立ちをしている。

 背は低め、150cmないくらいか。

 地味で清楚で初心で大人しくて小さい子が好きという犯罪者みたいな嗜好と顔面を持った志木の趣味にぴったりだ。


 まあそんなことはどうでもいい。

 僕らは別に合コンをしに来たわけではないのだ。本来の目的について考えながら口を開く。


「────じゃあ早速ホテル行こっか」


 志木に思い切り頭を叩かれた。



 ◯◯◯



「ここが志木くんの家?すごい大きいね……」


 軽く自己紹介を済ませた僕らは待ち合わせ場所であったファミレスの近くにある志木の家に来ていた。

 本当にでかい、まさに金持ちの家って感じだ。

 ドラ息子め。


 ちなみに今喋った黒髪ロングちゃんの名前は羽生栞(はにゅうしおり)というらしい。志木の顔にも多少慣れたのか割とフランクに話せるようになっている。

 本来結構どうでもいい相手なので二秒で名前を忘れそうになるがそうなると千紗ちゃんからの印象も悪くなりそうなのでしっかりと記憶しておく。


「まあ悠一郎の家よりはでかいな」


「うっかり手が滑りそうだ」


「絶対にやめてくださいね」


 ダンジョンで怪物が辿った末路をよく知っている千紗ちゃんが念入りに止めてくる。

 現実では力の強化はそこまで残っておらず、僕の筋力はせいぜい『鍛えた人間』の域を出ない程度ではあるのだが、まあそれでも常人よりは余程力があるのでうっかり志木の首を折るくらいのことはできそうではある。


 僕はそのまま過剰に豪奢な玄関を通って家に入り、土足のまま階段を上がると二階にある志木の部屋のベッドに腰掛けた。志木家はアメリカかぶれなのである。

 僕と千紗ちゃんがベッド、栞ちゃんが椅子で志木が床だ。ベッドに二人で腰掛けているという状況を鑑みるとこのまま押し倒してしまいたくもなるが僕は常識もモラルもデリカシーもあるので抑えておき、志木に適当な言葉をかける。


「お茶くらい出せよ」


「ああ、紅茶でいいよな。他の奴らもそれでいいか?」


「あ、はい、ありがとうございます」


「どうもねー」


 半分冗談だったが席を立ち、紅茶を淹れに行った。律儀な奴だ。

 この間に志木がかなり意識していた栞ちゃんとの親睦を深めておくことにしよう、別に好みでもないが人から奪うのは気分がいい。


「栞ちゃんも千紗ちゃんと同じ高校に通ってるの?」


「そうだよー、中学から一緒なんだ。お兄さん千紗ちんと付き合ってるの?」


「そうだよ」


「付き合ってません」


 語気を強めて否定された。


「フラれちゃってね」


「あ、そっちは乗り気なんだ?千紗ちんにもついに春が……」


 ついに春が、とは、まるで千紗ちゃんがモテないかのような口振りである。

 この容姿の女性に引く手がない、というのは.意外を通り越して有り得ないという程度の話になる。


「ついにって、今まで何もなかったの?」


「本当に何もなかったねえ、中学の時から放課後もいつも私と一緒にいたし揃って男っ気ゼロだったよお」


「中学から女子校だったとか?」


「いやあ、共学だよ」


 不思議な話である。栞ちゃんだって相当に可愛い。


「……まあ、どうだっていいでしょう、そんなことは」


「いやいや、結構大事な────」


「紅茶淹れてきたぞ、ドア開けてくれ」


「チッ」


 舌打ちを一つして、僕は千紗ちゃん達に微笑みかけるとドアを開きに行った。


「チッ」


「お前が淹れて来いって言ったんだろうが。なんで舌打ちされなきゃいけないんだ……」


 はあ、と大きく溜息を吐きトレイに乗せた紅茶と茶菓子を卓袱台の上に並べていく。

 ベッドや椅子に座ってる僕らからしたら少々取りにくい。微妙に気が回らない男だ、そんなに苦労人ぶって溜息ばかり吐いていると幸運が逃げていくぞ。


「それで、なんだ?悠一郎の言葉を真に受けるなら神殺しのために力を貸して欲しいとのことだったが」


「……望月さん、どんな説明したんですか?」


「望月さん、なんて他人行儀だなあ。恥ずかしがらずに『ユウくん』って呼んでくれていいよ」


「……じゃあ悠一郎さんで。悠一郎さんがどう説明したかは分かりませんが、私から簡潔に────」


 心底嫌そうな顔をしながら千紗ちゃんが説明を始める。


 なかなか上手に舌を回すもので、志木も聞き入っている。

 栞ちゃんは既に同じ話を聞いてきているのだろう、少々退屈そうに茶菓子をつまんでいる。


「────それで、本格的に潰して回るならもう何人か協力者を用意したほうがいいということで、お互い二人ずつ友達を連れて集まろうという話になったわけなんです」


 説明が終わる。

 千紗ちゃん、付き合ってくれる友達がお互いに一人しかいなかったことを仄めかすような、僕たちの傷口に塩を塗るだけの余計なことまで口走らなくてもいいんだよ。


「なるほどな、大体わかった。悠一郎の要領を得ない説明では女に乱暴したいという部分しかまともに伝わってこなくてな」


「誤解を招くような発言はやめろ」


 僕はエリアの乳を揉みたいだけだ。

 あれは合意の上でいけそうな感じだった。乱暴なんて言葉で表現される筋合いはない。


「……まあそういうわけだ。世のため人のため、僕らは異界種の狩場──ダンジョンを潰して回らなきゃならない」


 二割くらい本心から言っているのだが千紗ちゃんと志木には胡散臭いものを見るような目を向けられる。

 若干だが視線に尊敬の念を感じる栞ちゃんへの好感度が上がった。


「さて、志木はこういうの好きそうだし、そうでなくても無理やり連れてくからいいんだけど、千紗ちゃんと栞ちゃんはいいの?エリアはああ言ってたけど、無理に付き合ってやることもないと思うよ」


「まあ乗り気ではあるが……」


 どこか釈然としないような態度を見せる志木。


「私達もやるつもりです。話してみたら栞はすごい乗り気みたいだったし、私も別に……休日にも勉強するくらいで、他にやることがあるわけでもないので」


 千紗ちゃんの方はちょっと消極的みたいだ。

 千紗ちゃんが栞ちゃんのほうに目配せをすると、栞ちゃんはにやにやと、ちょっと気持ち悪いくらいの笑みを浮かべた。どんなやり取りがあったのだろう。


「よし、決まりだね。じゃあこんなイカ臭い家さっさと出て、早速ダンジョンの入り口(モノリス)を探しに行こうか」


「もう少し口を慎め」


 志木の印象操作も忘れない。

もうちょっとしたら不定期更新になります。

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