表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンと現代神話  作者: 霧色瑪瑙
1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

21:正当性

「こっちだよ」


 先導するカルに続き、人気のない道を進んでいく。

 駅からそう遠くない場所であるのに不気味なほどに人気(ひとけ)がない。駅自体に多少寂れた感じがあるとはいえ少々不自然だ。

 何らかの方法で人払いがなされているのだろうか。


 カルに続き、角を曲がり、入り組んだ道を走り、フェンスを超える。

 急いだ方がよさそうだとはいえ、もう少し大人しい道は選べなかったのだろうか。

 幼少の頃から活動的であったが、未だにそのあたりは変わっていないらしい。

 僕は基本的にインドア派であったので外に遊びにいこうよとカルに連れ出される形であったのだが、悪い気はしなかった。


「ここだよ。この中にいる」


 ノスタルジーに浸っているうちに目的地まで辿り着いていたらしい。

 比較的大きな灰色の倉庫だ。

 時間が惜しいのですぐに扉に手をかける。


「ん、鍵がかかってるね。カル、開けられる?」


「壊していいなら開けられるけど」


「うーん、まあ大丈夫かな。やってくれ」


 全然大丈夫じゃないかもしれないが、まあその時は僕が修理費を出そう。そこまで馬鹿高くもならないだろう。


 ガキン、という金属音と共に扉が開く。


 倉庫の中は薄暗い。僅かに光が入るが、隅から隅まで見渡せる程ではないだろう。

 僕の眼には全て見えているが。


 女が一人に男が一人。細身と大柄。こちらを見ている。


 そしてその奥に、さらに男がもう一人。中肉中背。

 あちこちに青痣を作り血を流した半死半生の状態で柱に縛り付けられているので、あれが件の父親で間違いないだろう。


 細身と大柄がゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 それはそれとして、この空間に入ってから自分の体に違和感がある。


 同じものを感じていないだろうかとカルの方を見ると、瞳が赤く光っていた。

 それについて尋ねるよりも早く、細身の男が眼鏡を押さえながら口を開く。


「ああ、その紅い瞳、君が例のサイコメトラーか。私の名を呼べば扉を開けると言っただろう、簡単に壊してくれやがって。修理費もタダじゃないんだぞ。それ以前に侵入者だと思って君を殺してしまうところだった」


 読心能力者(サイコメトラー)

 その発言からして、カルのような能力を持った人間が他にもいて、こいつはそれを知っているということだ。まあカルはサイコメトリー自体は使えなかったはずだが。


 どうやら僕らを仲間と勘違いしてくれているらしい。

 カルが意図的に瞳を光らせたとも思えないので、なにか超能力者に反応するような仕掛けでも施してあったのだろうか。


「部外者の侵入は有り得ないと言ったはずだが? 俺の呪術を信用していないのか?」


 次いで声を発したのは大柄の男だ。


 呪術。

 この大柄はそんな代物を扱えるらしい。


 浅葱ちゃんが秘密がどうとか言ってた事から、技術やらデータやら粉飾決算の情報やらの漏洩がどうとかみたいなことに絡んだ暴力事件かと考えていたのだが、どうやらもっとオカルティックでハードな展開になるようだ。


 呪術といっても山羊目玉ほどのものは扱えないと信じたい。

 ダンジョン内で獲得した神秘耐性とやらは今現在も機能しているはずなので多少は抵抗できそうだが、しかしダンジョン内と比べればやはりその抵抗力は弱いものになっているだろう。

 身体能力も同様に落ちている以上、山羊目玉と同じことをされればこいつらを叩きのめすどころか僕の命が奪われかねない。


 細身の女が大男に向かって口を開く。


「半覚醒者がウロついてないとも限らないだろうが。お前の人払いはそういうのには効果ないだろ」


 半覚醒者。

 よくわからない言葉だが、仮にダンジョンから生還した僕らのような人間を指すのだとしたら、人払いによって弾かれないことと辻褄が合う。


「そりゃそうだがよ、そんなんそうそう居るもんでもないだろ。10万人に一人とかそのレベルらしいじゃねえか」


「可能性がゼロでないなら考慮しなければならない。お前の腕を疑っているわけじゃない。それでこの話は終わりだ。さて、サイコメトラーのお嬢さん、さっさとこいつの頭から例の物の場所を抜き出してくれ。私らとしても手を抜かずにきっちり拷問したつもりなんだが、一切吐こうとしなくてな」


「あー、えーっと」


 カルは困惑している様子だ。

 僕としてもこんな展開は想像していなかったのでまあ当然の反応ではある。

 どうすればいいのかわからないということが簡単に読み取れる表情でこちらに視線を送ってくるので、代わりに僕が応答する。


「その例の物ってさ、どういう経緯でその男の手に渡ってるの?」


「それを聞く必要はあるのか?読心した時に一緒に知ればいいだろう。貴重なサイコメトラーであろうと外部に漏らせば殺すんだが、まあ専属の護衛らしい貴様に語るくらいは許してやろう」


 どうやら僕はカル専属の護衛らしい。

 実際には割と僕が守られる側になりそうなのでなかなか滑稽な見立てである。


「むしろ読心にその情報があったほうがいいんだよ。他人の心を覗くってのは結構負担の大きい行為なんだが、とっかかりがあるだけで大分楽になる。具体的には知りたい記憶に関する情報だ。多ければ多いほどいい」


「……なるほどな……」


 どうやら納得していただけたようだ。

 完全に口から出まかせであるのでこいつらが知ってるサイコメトラーの情報と食い違っていたりしたら即戦闘になっていたであろう賭けだったが、まあその時はその時だ。


「お嬢さんがどこまで聞かされているのか知らないんでな、まあ全て話させて貰う。こいつが結社から盗み出したのは半覚醒者のリストだ、USBメモリにコピーして持ち出したらしい。試験運用している事象観測機によって判明した。こいつがそれをある人物に直接渡そうとしていたことも」


 今度はSFチックな名前をした装置が出てきた。

 しかし試験運用段階か。もし誤作動だったらどうするつもりだったのだろう。

 どちらにせよ殺すという結論になるか。


 そして結社。

 ちょっと聞いていて悶えそうになる名称なので勘弁してほしい。


「その半覚醒者っていうのは?」


「ああ、うちで使用している名称だから外部の君達には伝わらないか。そこのお嬢さんのように、生まれつき超能力だとか、そういう科学的に説明ができないような異能を持っている人間のことだ。半、なのは後天的にその異能が劇的に強まる可能性があるらしいから」


「らしい?」


「私は実例を見たことがないんでな」


「なるほどね」


 となると後天的におかしくなった僕は覚醒者に分類されるのだろうか?

 現実においては大して異能らしい異能も振るえないので微妙なところだ。


「まあこんなところだな。お役に立ったか?」


「十分だ。助かるよ」


 この女、凄惨な拷問をして平気な顔をしていた割に理性的に会話をしてくれる。

 おかげで色々と興味深いことが聞けた。


「その……リストは……教祖様に届けなければ…………君達が私の代わりに……」


 割って入るようにして口を開いたのは縛り付けられた浅葱父だ。


 教祖様、となると何かしらの宗教団体に所属しているのだろうか。

 一気に助ける気がなくなってきた。

 浅葱ちゃんが可愛くなかったら多分もう帰ってる。


「あーうるさいうるさい。こいつさっきから教祖様教祖様としか言わないんだよね。宗教にハマった人間ってのは本当に面倒くさいよなあ。意固地になっちゃってさあ、私としてもさっさと楽にしてやりたかったのによお」


「同感だね、宗教はダメだ。ちなみにそのリストが教祖様の手に渡るとどんな事態に発展するのかな?」


「まず間違いなくリストの人物を組織に取り込もうとするだろうな。まだ私らが接触していない奴も多い」


「なるほどねえ」


 僕としては組織の力関係がどうなろうと知ったことではないが、納得したような相槌を入れておく。


 この状況でどう行動するべきなのかというのは初めに考えていたより大分難しいものになってしまった。

 浅葱父は一方的な被害者ではなく盗人だったのだから。

 罰を与えられて当然の人間だ。


 しかしそれはそれとしても、このようになるまで拷問するというのも倫理に反する行為であるのは間違いない。

 彼らもまた許される人間ではないだろう。


「もう考えるの面倒だし全員殴り飛ばすのがいいかな」


「は?何言って──」


 言いかけた細身の女の顔面に、加減した拳を叩き込んだ。


 ゴッ、という鈍い音が倉庫に響き、鼻っ面を打ち抜かれた女がよろめく。


「は、あっ、てめえ」


 細身の女が怒り半分困惑半分の目でこちらを睨む。


 やはりだ。


 想定した以上の威力が出る。


 ここはおそらく、半ダンジョンのような空間になっている。

 僕の身体から感じる違和感。現実における肉体より性能が上がっている感覚がある。

 カルの瞳もきっとダンジョン内では真っ赤な燐光を放つのだろう。


 よろめく細身の女が後ろに跳びのき、距離を取る。


「あァ、ゲントォ!こいつは敵だ!」


「わかってる」


 ゲントと呼ばれた大柄の男が懐から梵字のようなものの書かれた札を取り出す。

 呪術師らしいので、呪具だとかそういうものなのだろうか。


 先程の僕の推測が正しいのであれば、その類のものには抵抗できるはずだ。

 何かしようとしていたカルを左手で制止し、ゲントの動きを観察する。


「ハァッ!」


 ゲントが声を上げると同時、札が燃え始めた。

 しかし、札が燃え尽きても何かが起きる気配はない。

 抵抗に成功したのだろう。この場において僕に呪いは効かないようだ。


「何したの?」


 圧倒的優位であるようなので、人を食ったような笑みを浮かべながらゲントを煽っておく。

 こういう時のためにも表情を作る練習は欠かしていない。格下を小馬鹿にするのは最高に気持ちがいい。

 まあ包帯で僕の顔はよく見えないだろうが、おおよそ伝わるだろう。


「効かねえ!くそっ、ヒラノ!」


「チッ、後始末が面倒なんだが……」


 細身の女はヒラノというらしい。


 呪術の行使を黙って観察していたのを見て僕側から仕掛けてはこないと判断しているのか、彼らの動きはどこか緩慢だ。


 そのゆったりとした動きで懐から取り出したのは、現代日本では滅多に現物をお目にかかれないような代物────拳銃だった。


 全体的に黒みがかっている。

 あまり僕がそういうものに明るくないので詳しい種類までは判別できないが、形状はトカレフに近いだろうか。


 意識して、時間感覚を引き延ばす。


 僅かに差す光によってはっきりと見えている、倉庫内を舞う埃の動きが遅延していくのが見て取れた。

 成功だ。

 ダンジョン内ほど劇的な効果はないが、中でできる大抵のことはここでも可能らしい。


「私も半覚醒者でな、この弾を避けることは不可能だ。初撃で殺しておかなかったのは失敗だったな」


「そりゃ怖い」


 元より殺しまでするつもりはなかったので失敗も何もないのだが、それはそれとして外れない弾丸というのは実際脅威だ。軌道を変えて追ってくるのだろうか。

 完全に人を殺すことに特化した能力だろう。

 いくつか対応策は思いつくが、今回は正攻法でいくことにする。


「死ね」


 言葉と同時に拳銃のトリガーが引かれ、弾丸が射出される。


 視認できる。

 速いといえばまあ速いが、引き伸ばされた僕の時間感覚においては精々小学生の投げた野球ボールくらいのものでしかない。

 軌道からして僕の眉間を狙って飛んでくるらしい。

 そこに僕の手を持っていき、親指と中指で飛んできた弾丸を摘まむ。


 尋常ではない衝撃が僕の指を走るが、弾丸はそこでぴたりと止まっていた。


「いや痛っ……指折れたかな」


 生半可な力では止まらないと考え結構な力を入れて摘まんだのだが、必要以上だった気がする。自分の力で自分の肉体を傷つける結果になってしまった。

 逆に指の肉ごと持っていかれることも予測のひとつとしてあったのだが、そうならなかったところを見ると体の丈夫さもダンジョン内に近くなっているらしい。

 そうなった場合はカルが弾を止めてくれるだろうと考えていた。


 ヒラノの方を見ると、呆気に取られながらも拳銃に手を翳し、力を込めるかのような仕草を見せている。次弾を用意しているのだろう。

 今ので戦意喪失してくれることも期待していたのだが、見上げた社畜精神をお持ちらしい。


「カル、あれ壊してくれ」


「わかった」


 カルが僕の言葉に応じ、拳銃にその赤い瞳の焦点を合わせる。

 瞬間、銃は紙細工のようにひしゃげ、捻られ、ガラクタと化した。


 今度こそ彼らは戦意を失ったように見える。


「……サイコメトラーじゃねえのかよ、そっちの子。なんなんだお前ら」


 この先起こるであろう絶望的な事態に瀕して、恐怖からの笑みを浮かべたヒラノが尋ねる。


「代行者、と、あえて名乗っておこう。まあ運が悪かったね、ヒラノさん。別に殺しはしないから、その点は安心してほしい」


「お前が殺さなくても……こんな簡単で重要な任務を失敗したとなれば私らはどうなるか」


「半覚醒者って貴重なんだろ?大丈夫大丈夫、なんとかなるって。後味悪くなるような事言わないでくれよな」


「まあ……殺されはしない、か……減俸は免れないだろうな……はあ」


 ぶつぶつ言ってるヒラノの腹を殴ってから顎にも拳を入れて意識を刈り取り、次いでゲントも同様に殴る。

 煽っている間はなかなか気持ちよかったが、無抵抗になった人間を殴る事はそこまで快感を伴わない。ゼロだとも言わないが。


「で、まあ、言った通りあんたも殴るからね」


「なっ、君は」


 無言のまま目の前の出来事を眺めていた浅葱父をも同様に殴る。


 やってから思ったが、僕が父親を殴ったことを浅葱ちゃんに告げ口されたら僕への好感度がだだ下がりしそうである。

 まあ仮にも命の恩人であるわけだしどうにでもなるだろう。

 多分。

 殴った衝撃で死んでいたらまずかったかもしれないがまだ息をしているようなのでセーフだ。


 人払いの呪術とやらがまだ機能していることを祈りながら、半死半生の浅葱父を担ぎ、僕達は高良家へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ