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12:女癖

 志木はまだ息を切らしている。

 いくらなんでも体力なさすぎる、ちゃんとVIT(体力)上げてるんだろうか。


 まあ志木が動けなかろうがとりあえずは関係ない。


「ごめんな志木、俺としてはお前の鼓膜より千紗ちゃんの方が大事だから……」


「は?おい待て、何するつもりだ?」


「土の精霊よ、私の耳に蓋をせよ──土嚢耳栓(イヤープラグ)


 僕のやろうとしたことを察したのか、栞ちゃんが自分の耳を塞ぐ魔法を唱える。


 栞ちゃんの詠唱は本当に使い勝手がよさそうだ。詠唱呪文が段々と適当になっていっている気がするがしっかり発動はしているらしい。


 しかしそんな細かい魔法まで使えるとなると尚のこと回復魔法が使えないことに違和感がある。

 回復手段さえ用意できれば精神的に大分楽になるのだけれど。


「羽生さん!俺にもそれ頼む!なあ!」


 既に栞ちゃんに声は届かなくなっているようだ。

 観念しろ。


 僕はすぅ、と息を吸うと腹に力を入れることを意識し、千紗ちゃんの名前を呼んだ。



「千紗ちゃーん!」



「ぐああああああああああああああああッ!?」


 加減したつもりだったのだが、志木の悲鳴などとは比べものにならないほどの轟音が鳴り響いた。

 大地が震え、木々が揺れ、志木が床に倒れ臥す。栞ちゃんはなんともない様子だ。


 この現象を引き起こした喉が千切れそうなくらいに痛む。

 この籠手はあらゆる行為の反動を無効化してくれるわけではないらしい。


「気付いてもらえたかなあ」


「音のした方を千紗ちんが覚えていられるかっていうと怪しいところだねー」


 耳栓を解除したらしい栞ちゃんが話しかけてくる。


 それもそうだ。別に千紗ちゃんでなくても、この森の中で真っ直ぐ同じ方角に進むというのは厳しいものがあるだろう。

 太陽も真上にあり、星を利用することも難しそうだ。

 方角を知る手段がない。


「定期的に叫び続けるか」


「絶対にやめろ!!」


 死にそうな顔をした志木が必死に止めてくる。鼓膜は破れなかったらしい、運のいい奴だ。

 当然だが一番鼓膜がヤバいのは声を発した僕自身だろう。破れなくてよかった。


「まあまあ、私に任せなさい。ちょっと待っててね」


 そう言った栞ちゃんは目を閉じて、祈りを捧げるかのようにじっとしている。魔力を溜めているのだろう。

 少しして、その目と口を開く。


「音よ、放たれよ──音響探査(マジカルソナー)


 詠唱がどんどんシンプルになっていく。

 発動可能なラインを探りながらやっているらしい。


 今回も無事発動したようで、杖の先が灰色に光り、キィンという金属音が耳に入る。

 追い打ちをかけられた志木はのたうち回り苦しんでいるようだ、かわいそうに。


 反響音を聞くために耳をそばだてていた栞ちゃんがこちらを向き、僕の目を見る。


「よくわかんない」


「いやわかんないのかよ」


 返ってきた音の解析については自分でどうにかしなければならないらしい。まあ人間には無理だろう。


「解析用にもう一個魔法使えたらなんとかなるかもしれないけどさすがに厳しいかなー」


「まあそうだろうね。千里眼とか使えたりしない?」


「試してみよっか。うーむ」


 うーむとか言っててちゃんと魔力が溜まるのだろうか。

 溜まるんだろうなあ、そのあたり適当でもいいみたいだもんなあ。


「よしっ。世界を映せ──千里眼(ホークアイ)


 詠唱を終えても杖の先が光らない。どんな基準なのか知らないが、回復魔法同様使えないものもあるみたいだ。


「無理っぽい」


「残念。となると火でも(おこ)して待ってるのが無難かな」


 逸れた当初は無理だったが、今なら栞ちゃんの魔法によってそれが可能だ。


「オッケー、じゃあ盛大にこのでかい木一本燃やしちゃいますかあ」


 やはり栞ちゃんはこの場において有能だ。出来ることの幅が広すぎる。

 志木なんぞより余程頼もしい。

 志木はパラディンの癖にやれることが今のところ純タンクとほぼ変わらない。


 そんなことを考えている間に栞ちゃんの瞑想は終わったようだ。


「いくよー……炎よ──火炎柱(フレイムピラー)


 先程蜥蜴に対して使用したものと同じ名前の魔法であるようだが、詠唱を短くしたためなのか規模がかなり小さくなっている。

 詠唱の省略はこう結果に反映されるのか。


 しかしそのサイズであっても木を燃やすのには十分すぎるくらいであった。

 火をつけられた木はあたりの空気を食いながら轟々(ごうごう)と燃え盛る。


 隣の木までは距離があるため、連鎖的に燃え広がるという事態にはならなそうだ。


「千紗ちん、わかるかなー」


 これで気付かなければもうどうしようもない。

 前回のことを考えると千紗ちゃん抜きでも主さえ倒せば皆で帰れそうなので、そのあたりが最終手段になるだろうか。



 さて、ここで火を熾した以上動かずにいるべきだろう。

 確認したかったことをいくつか確認しておく。


(『加速』)


 歩き出しながら頭の中でそう唱えると、視界が少し赤く染まり、鼓動が速くなる。


「ん?どう──し────た────」


 が、体感時間が延びるのか、すぐにむしろ普段より遅いくらいに感じられるようになった。

 こちらを気にして声をかけてきた志木の声もスローに聞こえる。


 軽く走ってみる。

 時間はゆっくり過ぎていっているはずだが、普段と変わらない体感速度が出ている。

 しかし地面を蹴ってから着地するまでの時間が明らかに長く、普段通りの感覚で全力で走ろうとすると体が宙に浮いてしまいそうだった。

 少しこのあたりを走っていると、驚きに目を見開く志木の姿が見える。こいつの反応はわかりやすい。


 これはなかなか有用そうだ。

 リスクの程はわからないが、心臓にかかる負荷は並大抵ではなさそうなのでそろそろ切り上げておく。


 ……どうやって止めるんだろうか。

 解除って言えば止まるのか?


「解除」


 赤く染まっていた視界や引き伸ばされていた体感時間が元に戻り、ほっと息を吐いた。

 鼓動はまだ異常に速いがすぐに落ち着くだろう。

 しかしほんの少し使っただけでこうもドクドクと心臓が鳴るとなると実用にはかなりリスクが伴ってくるはずだ。

 やはりVIT(体力)は必要か。


「お前どうなってるんだ?」


 志木が声をかけてくる。

 こいつに僕の動きがどう見えていたのかはわからないが、尊敬や憧憬の念だとかは微塵も感じられず、単にちょっと引くか呆れるかしているようだった。


「志木もじきにこうなる」


 適当に言っておく。

 志木相手に真面目に話すのも面倒だ。


「ほんとにい?もうちょっと速くなったら目で追えなくなりそうなくらいだったよ?悠一郎くんどんなステ振りしてるの?」


 ステータスではなくスキルによる恩恵であるはずなのだが、訂正するのもまた面倒なので聞かれたことだけ答えておくことにする。


「STR極だよ。今の値は100ちょっとだ」


「馬鹿だろお前」


 自覚がないでもないが、あまり志木に言われたくはないな。


「なかなか振り切ってるねえ。わかりやすく後衛の私でもVITをちょっと伸ばしてるよ」


「まあ僕の場合は装備にも恵まれたからね。これがなかったらテレフォンパンチ一発決めただけで僕の拳はオシャカだ」


 言いながら、手をそれらしく動かしてみせる。

 この武具を入手できたのは本当にありがたかった。これがなければ体を過剰な力に壊されないようにVITに相当量振ることを要求されていただろう。

 それが悪いかというと一概にそうでもなさそうではあるが、その場合僕のSTRが到底100に及んでいなかったのは間違いない。

 僕のアタッカーとしての役割の強化に大いに貢献してくれていると言えるだろう。


 ふと、栞ちゃんの握る杖に目を向ける。


「栞ちゃん、ちょっとそれなしで火柱立ててみてよ」


 気になっていたことではある。

 杖の存在が、どのように魔法の行使に影響しているのか。


「いいよー。炎よ──火炎柱(フレイムピラー)っ……うんっ?」


 魔法が発生すると同時、糸が切れたかのように栞ちゃんがパタリと倒れ込んでしまった。

 魔力切れか?


 火柱も一応立ってはいるが、先ほど詠唱を省略しながら立てたのものと比べても相当に規模が小さい。

 可愛らしい、駄菓子のようなサイズになってしまった。


「大丈夫?」


 倒れ込んだ栞ちゃんに駆け寄り、屈み込んで顔を覗く。志木はこういうことができないのがダメだ。

 栞ちゃんが視線をこちらに向けてくる。

 なんとか意識は保っているようだった。


「体……だるー」


「変なことさせちゃって悪かったね。周りは見ておくから、ゆっくり休むといい」


 精々魔法の規模が小さくなるだけだと思っていたのだが、思ったより深刻な結果を招いてしまった。

 あの黒光りする杖の恩恵は想像以上に大きいらしい。


 杖なしで少し魔法を使っただけでこれとなると、あれは僕の籠手クラスの代物だろう。いい拾い物をした。


 となるとますます志木の運が嘆かわしく思えてくるな。


「……なんでじっと俺を見つめてるんだ?いくら整った女顔だからとはいえ、いや女顔だからこそそういうのは気色悪いぞ」


 急に気色悪いこと言い出したぞ。

 無視して言いたいことを言っておく。


「いや、かわいそうな奴だなあと思ってね。早く回復手段を手に入れて僕達に貢献してくれ」


「……絶対この先壁役(タンク)が欲しい場面が出てくるからな……覚えておけよ」


 付き合いの長い僕であっても怖いものは怖いので、その顔で急に睨みつけてくるのはやめてほしい。




 ◯◯◯




「────何故こんなことをしたんだ、と彼は言った。彼女は言う。じゃあ私はどうすればよかったの?あなたに擦り寄ってくるあの魅力的な女たちを!私なんて彼女達と比べると少し若いだけでしかなくて、性的魅力に欠けてしまうわ。あなたを手に入れるにはこうするしかなかったの!」


 バチバチと燃え盛る木を前に、二人の男がくだらない話を続けていた。

 少し前からこの調子だ。他に何か話すべきことがあると思う。

 触媒()なしでの魔術の行使から仰向けに倒れた私は、彼らの話を無視し、彼ら、そして千紗について思考を巡らせる。


「彼は言った。どうすれば僕の愛を手に入れられたかって?簡単さ、君が後10年若ければよかったんだ、ってね。なかなか面白い話だろう?そう、何人もの肉感的な美女に言い寄られてるこいつは筋金入りのペドフィリアだったんだよ!志木、お前みたいにな!あははははははははッ!!」


「殴るぞ」


 最初から違和感があった。

 自分達が異世界みたいなところに飛ばされて、空想上の怪物と空想上の力で戦ってることに、ではない。

 自分の趣味趣向に裏打ちされた下地があるからなのか、或いは現実離れしすぎていて実感に欠けるのか、とにかくそこはすんなりと受け入れられたのだ。


 問題は千紗と悠一郎についてだ。


 伊丹千紗。

 普通じゃないくらいに賢い子だ。

 高校に入ってから物覚えがとてもよくなったとは言っていたが、それ以前から勉強量と比較してあまりにも大きな成果を出してみせていた。


 千紗の数倍の時間勉強していた子がテストでいつも千紗の下にいたことを、彼女はきっと知らないだろう。

 他人に無関心な節があった。


「お前は根本的にジョークというものをわかっていないんだ。手本を見せてやる」


 彼女の言葉からは、少し前にはあった鋭さや叡智が失われているかのように思えるが、恐らくそれには望月悠一郎の存在が関係しているのだと推測している。


「いいぜ。もしつまらなかったら小学校時代転校早々に教室でクソを漏らしたことを栞ちゃんにバラす、心して話せよ」


「もう言ってんじゃねえかてめえ!いや、違う、事実無根だ!デタラメなんだ!」


 彼女は意図的に鋭さを隠しているのだ。

 聡明な彼女は、聡明すぎることが恋愛において時にディスアドバンテージになり得る事を知っていて、そのような事態に陥る事を危惧したのだろう。

 彼女が望月に好意を持っていることは容易に察することができた。

 距離が少々遠すぎるような気がするが、こういったことに慣れていないが故に測りかねているのだろう。


 そして、彼女は異常なくらいに整った容貌を持っている。


 私は客観的に物事を見ることが得意だ。

 同性である私から見ても、彼女の顔立ちは整っていて美しく、それでいて可愛いらしい。


「くそっ、まあいい……あるところで男女二人が会話をしていた。男はこう質問する。Hになればなるほど硬くなるものは何か?」


 誰もが彼女に見惚れるほどだろうし、誰もが彼女に媚びるほどだろうし、誰もが彼女を妬むほどだろう。


 おかしい。

 それはおかしいのだ。


 だって私はとても利己的で嫉妬深くて────とても隣に自分より美しい人間を置くことなど看過できないような人物であるはずなのだから。


「それで?」


「女は答える。鉛筆だと。興奮すると膨らむものは? 瞳孔。入れると体が火照ってくるものは? ヒーターの電源」


「クソみたいな男だな」


「モデルはお前だ」


 千紗ほどの人間であるなら尚更のはずなのだ。

 彼女の容姿には尋常ならざる魅力がある。

 なのに当たり前のように昔から私の隣にいる。


 望月の容姿もなかなかのものではあるが、それだけを見れば一線を超えていない。

 常識的な範疇に収まるものだ。


 昔から千紗に言い寄ってくる男を追い払うことを手伝っていた。

 彼女の男嫌いはそういった、生来の、男を惹きつけてしまう性質からくるものだ。

 そのはずだ。


 違和感。

 ここにも違和感がある。

 なぜだろう、拭えないのだ。


「そんなやりとりが続いた後、男が悔しがりながらこう言うんだ。完敗だよ、完答されたのは初めてだ。ご飯でも奢らせてくれ、何か食べたいものはあるかい?」


 自分の記憶であるはずなのに、取ってつけたような杜撰(ずさん)さが感じられる。


 千紗の容姿は、幼い頃のそれでさえ魔性と呼ぶに相応しかった。

 私が側にいるだけではどうしようもないような、もっと深刻な事件に発展していても不思議ではないのでは?

 もっと直接的な被害があって然るべきなのではないか?

 そういった、何か大きな事件が起きた記憶というのが一切無いのだ。

 不自然なほどに。


 性的虐待なんていくら受けててもおかしくないし、教師に無理矢理犯されていてもなんら不思議はないし、街を歩いていて突然人気(ひとけ)のない場所へ連れ去られ輪姦されたと言われても信じられるだろう。


 そんなことは、一切何も起きていないのだ。


「僅かな逡巡の後、女はにっこりと笑ってこう言った。おちんちん」


 クソみたいに下品なジョークだ。

 先程から聞こえていないかのように装っているのだが今までの印象とまるで違った言葉への驚きが少し表情に出ているかもしれない。


「最高だ、志木。欠片も面白くないとは思うが僕はそういうのが大好きだ。栞ちゃんに聞こえてるのに言い切った勇気も評価してやろう」


 望月に関しても思うところはある。


 すこし確かめてみることにしよう。こちらから解決可能ならそうしてしまいたい。


「二人とも本当に仲が良いよねえ。いつからの付き合いなの?」


「小学4年くらいで志木が俺の学校に入ってきたんだ。こいつが転校早々撒き散らしやがったゲロの片付けを担任に手伝わされたのが馴れ初めだ」


「もう許してくれ……慣れない環境で、ストレスとか、あったんだ」


「おっと、事実? 中々ショッキングだね……っていうかお互いよく仲良くなれたね」


「負い目を利用して奴隷みたいに使ってるうちに反発するようになってきてね、それを許してたらこのザマだ」


「まあこいつは多分自分が悪役(ヒール)になってヘイトを稼ごうとでもしてくれていたんだろうが、何人か狂信者みたいな女子がいたせいで逆効果だったな……ちなみに女性の先生も全面的にこいつの味方をしていた。意向に沿わない擁護を続ける者を味方と言うのかはわからないが」


「いや……身に覚えがないんだが」


 不思議そうな顔をしている。

 おそらくこの男に纏わりつく違和感の理由はそのあたりにある。


 話の流れを作る。水を向ける。

 もう引き出せるはずだ。


「罪な人だねー。千紗ちんに求愛しておいて浮気なんてしちゃダメだよー?」


「当たり前だろ。僕は一途なんだ」


「……」


 志木が神妙な顔をして黙っている。

 その面だと神妙な面持ちというかむしろ……いや、今はいい。


 思い通りに事を運べた喜びを顔に出さないようにして話しかける。


「志木くんどうしたのー?お腹壊した?」


「おいおい、本物の下痢野郎になる気か?するなら僕達が感知できない範囲でしてくれよ」


 本来志木は予測できる悲劇を私に隠しておくことが出来るような人間ではないだろう。

 私が彼の好みに合致していなかろうと、機会さえ巡れば話してくれていたはずだ。

 気に病むことはない、望月の友人としては少々優しすぎるというだけの話なのだ。


 そして同時に、志木がどんな性的嗜好を有していようが、千紗は無条件の優しさを与えるに足るほど魅力的なのだ。


 曝け出せ。


「いや……まあ、浮気は出来ないと思うぞ。何故だか知らんが、こいつ女相手だと仲良くなった途端に嫌われるんだよな」


「急に何? 喧嘩売ってる?」


「……ふぅん?」


 拍子抜けだった。

 女を籠絡するために生まれてきたかのような容姿や声音を持ち積極性もある望月に不自然なまでに女っ気がない理由。


 女に理不尽な仕打ちをすることに興奮を覚えたり、一度だけ犯した女を捨てるのが大好きだったりだとかそういう方向の性癖が原因で避けられているのだろうと考えていたのだが、志木曰くそういうことではないらしい。


「信じられないなー。ちょっと確かめてみてもいい?」


「いや、確かめようがなくないか?この場で確認するかのような口振りだが」


「こうする。我が瞳はあらゆる偽証を赦さない────審判の瞳(トゥルーハート)


 左目のあたりを銀色の炎が覆う。不発の可能性も考えていたが、どうやら発動してくれたらしい。

 未だ慣れないのか、先程からいくつも魔法を見ているはずの志木が驚いたように目を見開いている。

 望月はどこか楽しそうだ。


「そんなことまでできるんだ」


「わかんない。何か適当な嘘ついてみて」


「僕はニンジンが好きだ」


 望月の体が赤っぽく光って見える。

 機能に問題はないようだ。

 いい歳して人参が苦手らしい望月の味覚に問題がないのかどうかはわからない。


「うん、ちゃんとわかるね。じゃあ志木くん、もう一回言ってもらっていい?」


「ああ。誓ってさっきの言葉に嘘はない」


 志木の体が赤く光ることはなかった。どうやら望月は本当に深い関係になる前に嫌われるらしい。


「……なんで振られるの?」


「僕が聞きたい。優しく歩み寄ってるつもりなんだけど」


 この言葉にも、瞳の炎は反応を示さない。


 客観的にものを見ることを得意としているつもりでいたが、もしかしたら、もしかしたら私の好みはちょっと変わっているのかもしれない。


 木は未だ燃え続けている。

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