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5話

 〝旦那様〟が部屋に戻ってくる。

 デレッデレの顔で見てくるので春太はドン引きだった。

 男の後に続くように、二人がかりで大きな〝物〟が運び込まれてくる。どうやらそれは、ベビーベッドのようだ。

 パステルカラー調の色合いが愛らしい。こういう場でなければ微笑ましく見えただろう。


(は、はぁ? まさかアレ俺が寝る場所? や、あのおじさんと同じベッドよりましだけど。ペットのケージ代わりか?)


 見た目は幼児だが中身は十代半ば。羞恥プレイにもほどがある。もしやトイレはおまるじゃなかろうかと考えてしまい、気持ちの悪さがこみ上げた。

 困惑の表情をしている春太に男はどうやら気づいたらしい。


「寝心地は最高のはずだよ」


 さいですか。

 意識が遠くならいよう必死だった。イメージは魂が今にも抜け出そう。

 ベッドの設置が終わると食事が用意され、いわゆる〝あーん〟な感じで食べされられる。自分でできるアピールを春太は一応したのだが、デレデレ顔で押し通されてしまった。どんな味をしていたか全然覚えていない。


(この人は俺を孫と勘違いしてるおじいちゃん、この人は俺を孫と勘違いしてるおじいちゃん、この人は俺を孫と勘違いしてるおじいちゃん、この人は俺を孫と勘違いしてるおじいちゃん、この人は………………………)


 呪詛のごとく自身に言い聞かせないと、どうにかなりそうだ。

 ちなみに部屋に用意されたものは他にも色々とあり、大抵が子どもが遊ぶための物なのだがその中の紙とクレヨンで意思疎通を図る。

 なんとかトイレは自分で行くことができた春太だった。



 ◇◇◇



 テスリントとモゼルの門から門へ距離は決して遠くない。けれど馬に乗り走るとはいえ、時間帯的にも夜を越えざる負えなかった。

 あともう少しというところで、サリトとジェスは野宿の準備をする。


「……懐かしいね」

「だな」


 サリトの魔法の光がやわらかく二人を照らす。

 一時的とはいえ、上級モンスターを倒すためにパーティの一員となり何日も山奥の中を過ごした仲で、気心は知れていた。

 ジェスは休めた馬と戯れるサリトを見る。その表情は少し険しい。


(パーティ組んでた時だったら、馬に寄りかかっておねむだったろうなァ)


 いつモンスターが襲いかかってくるか分からない状態でもマイペースを崩さない、どこか抜けているけど隙を取られることはないサリト。天然で掴みどころがないけれど、静かな強さを持つ彼にジェスは見蕩れて惹かれているのだ。

 正直、再会して話を聞いた時は旅について行きたいと思ってしまった。

 しかし念願の夢を叶え構えた店を、魔装の腕に憧れ弟子入りし働いてくれる子を、置いていくわけにはいかない。


「サリト寝ろよ。結界は張ってるだろ?」


 気遣われたのが分かってサリトは申し訳なさそうに頷き明かりを消す。


「ジェスもおやすみ」

「ん、おやすみ」


 小さな存在に出逢ったことによる〝友人〟の、小さな変化にちょっぴり複雑になりながらジェスも目を閉じた。



 モゼルの門の前に着いたのは、早朝。

 様々な国を渡り渡り歩いていると門番とも顔見知りだったり、一方的に知られていたりと妙な所でサリトは人徳を発揮し、すんなり検問を通ることができた。


「今回も旅の休息がてらの滞在か?」

「実は弟子が攫われちゃって……」

「弟子をとったのか? そりゃあ……わりぃな、ウチの国のヤツが。特徴は?」

「サリト」


 本当に申し訳なさそうにしている門番だが、その質問にジェスは警戒してしまう。けれどサリトは大丈夫だよと微笑む。

 モゼルは誘拐事件が頻発しているので、それを理由に他国から攻め入られないか不安な国民も多く門番もそのひとりだそうだ。


「まだ小さい子どもだから、袋とかに入れられてるかも。昨日そういう感じに奴隷を仕入れてる人はいた?」

「そういや珍しいのを手に入れたって上機嫌なやつがいたな……」


 サリトとジェスは顔を見合わせる。そいつかもしれない。



 ◇◇◇



 ベビーベッドでの一夜が過ぎた。

 警戒からか寝ては起きてを繰り返した春太だったが、その間なにかされるという事態は起きることなくほっとしている。

 寝間着がネグリジェなのは相当精神に堪えたが。

 朝になると、あの嫌味な使用人が着替えを持ってくる。〝旦那様〟の前だからにこにこしていたが、こちらを見る眼は冷やかなものだ。春太もつい胡乱げな視線を向けていた。


「うん。かわいいぞ」

「……」


 うれしくない。

 用意された朝食は案の定自分で食べることは叶わなかった。

 ソファで隣合って座り、赤ちゃんのような扱いを受ける。早く食べ終えたいが喉に詰まらせてしまうのもなんだか怖い。とにかくよく噛んでから飲み込んだ。嫌いだと思うものが無かったり、怪しい症状が出るものを盛られていないのが幸いである。


「旦那様!」


 ドア越しに聞こえる、慌てた声。


「なんだまだ食事を終えていない」

「すみません、その……〝獣人の子どもを返せ〟という輩が」

「!」


 春太のしっぽが思わずピンッ! と立つ。

 きっとサリトさんだ。そう思うと胸の高鳴りが止まらない。そわそわしていると、遠くで「ぎゃーっ」と叫び声らしきものが聞こえた。


 ──な、なんかアクションが始まってるっ!?


 あの穏やかなサリトが立ち回る姿は想像できない。ジェスも共にいることを春太は知らないからなおさらだった。


「く……っ。お前はこの子を見張っていろ!」

「承知しました……」


 男は慌てて部屋を出て行く。

 ドアが開いた場所から嫌味な使用人の男と、視線が合う。


「様子、見に行く?」

「にゃっ!?」

「うわ、ほんとににゃって言うんだ」

「……っ」

「あはは。なにも企んでないよ? こっちに勝ち目ないっぽいし、素直に受け渡したほうが…………ねぇ?」


 曖昧に微笑む顔は、何を考えているか解るわけもなかった。


「よかったね。迎えに来てくれて」


(完全に悪者に思えなくなってしまった……)



 騒ぎのあるほうに向い壁の角に隠れながら状況をうかがう。

 春太の視界に飛び込んできたのは、ジェスが人をぶん殴り思い切り吹き飛ばす姿だった。はめているグローブに釘付けになる。

 オシャレな指なしグローブなのだが、手の甲の部分がキラキラと輝いている。宝石らしき石だ。魔石の可能性が高い。しかもゴツゴツと尖り物理的な殺傷能力が高そうだった。


「にゃ……」


 ──魔石製メリケンサック……。


「ハッ。魔力をこめるまでもねぇ」

「お、おおお前達こんなことをしてただで済むと」

「それは貴方のほうでは?」


 尻餅をついている館の主人。それを冷ややかに見つめるサリト。そして


 バギィッッッ!!!!!!


 今、ひとりでに真っ二つに割れたテーブル。きっとサリトの魔法だ。


「あの子を返してくれればこれ以上の被害にはなりません。ここが無くなれば困り果てる人達がいるでしょうから」


 床に転がる死屍累々(多分半殺し)。破壊された家具。

 サリトの背後でときめいた顔をしている、ジェス。


 助けに来てくれた感動から、カオスへと春太の見方が変わってしまった。


(口の動きが〝だいて〟って言ってるの見えちゃった……っ。確かにギャップ凄まじいけどね!?)


 見蕩れる表情は変えぬまま、余力があるのか襲いかかってくる男達を視線を向けることなくのしていく。とてつもなくすごいことだが、春太には色々とツッコミ要素が目についてしまう。

 それでも心を落ち着かせ、隙をうかがう。

 戦闘要員らしき人間が全員倒れたところで、春太は駆け出した。


「みゃああああああっ」

「シュンタっ!」

「なっ!?」


 死屍累々を避けながら走る。走りながらこちらに向かう魔力を感じ、突き放すイメージをして風の魔法を放った。

 男が吹き飛び、壁に打ち付けられる。

 驚きつつ、勢いで減速しないままにサリトに思い切り抱きついた。


「うみゃあっ!」

「シュンタ……! よかったぁ……」


 やっと、再会を果たすことができた。一日しか経っていないのにとても久しぶりに感じる。

 抱き上げられて、サリトと視線が合うとその瞳は少し潤んでいた。


「嫌なことされなかった?」


 本当に心配していたのだろう。

 春太は右手の、人差し指を出す。


『だいじょうぶ』


 いびつな形になってしまったが、初めて魔法で気持ちを伝えることができた。

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