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2話

 魔法の練習はあの草原の辺りで。

 宿屋などの室内でうっかりものを壊したり汚したりしない為に、外で行う決まりになった。

 魔法を使う=魔力を出力する。

 それは慣れるまで体力と精神力がかなり疲弊する。誰もが通る道らしい。

 春太は数日、手から火を出して即おねむコースである。早く慣れたいものだ。

 せめてサリトに抱っこされてじゃなく、自分の足で宿まで帰りたい。


 外に出るようになったとはいえ、まだ一日の大半は宿屋の部屋で過ごしている。サリトが持ってきてくれた本を読んだり、散らかったアイテムを片付けたり。だけど今回はひと味違う。


「そうそう、色が変わってきたでしょ?」

「にゃん」


 今日、サリトはギルドの依頼はお休みして、獲得したもので薬品を調合している。簡単なものなら春太も作れるだろうと、教わっている最中だ。

 なにかしら資格が無くとも、ものの出来が良ければ売ることも可能だそうな。

 痛み止め、回復薬、栄養剤。などなど。

 ゲームとかでよく見るポーション系は、魔法を織り交ぜて作るので習うのはまだまだ先になりそうである。


「魔法を使わない薬品は、一通り合格。シュンタに仕事として頼んじゃおうかな」

「! にゃう!」


 嬉しさで猫耳はぴこぴこ、しっぽがぱたぱたと動く。

 サリトに世話になりっぱなしなので、出来ることがあるのは嬉しい。


「道具もシュンタに預けようか。僕より丁寧に扱ってくれるだろうし」


 思わず片手を上げて、はい! と言うかの如く返事をする。

 頭を撫でられて、無意識に行動が子どもっぽくなってるんじゃないかと不安になってきた。

 精神まで幼児退行していないと、信じたい……。



 ◇◇◇



 流されるままに生きてきた。

 今までの自分の人生を、サリトはそう思っている。

 夢や成りたいもの、やりたいこと。強く望むものは無く、行くことが当然だからと魔法学校へ通い、向いているからと治癒師の資格を取得した。

 国軍を辞めたのは、一種の反抗期の訪れなのかもしれない。

 自分の意思で、道を決めたことに最初は胸を高鳴らせていた。けれど、それはいつしか停滞へと変わっていく。拠点を決めず、色々な国をふらふらするのは、向上心の無い自分への抵抗だっのだ。

 大きなことは望んではいない。でも、何かは起きてほしい。


 ──こんなふうに思ってるの、シュンタには失礼だよねぇ……。


 サリトは刺激を欲していた。

 そして、それは現れてくれたのだ。



 調合を春太に任せ、サリトは買い出しに商店街へ赴いていた。

 そろそろ国を出る準備をしないと。いつになるかは春太の魔法の習得具合にもよるのだけれど。


「サーリトっ!」

「ジェス」

「裁縫仲間から、シュンタに似合うリュックゲットしてきたよ~」

「シュンタの右目と同じ空色だ、可愛い。いくらだった?」

「いいって、サービス。その代わり今からお茶しにいこっ!」


 にこっ、と声をかけ笑うジェスは街で行き交う人々は違う、独創的なファッションをしている。春太が言うところのゴシックパンク。お嬢様のドレスをダークかつ男性的な形に変えたような衣装はなかなかに目を引く。

 そして、分かる者には分かる。


 ジェスの身につけているものはすべて、魔法が施されているのだ。


 装備に防御などの魔法を施し、半永久的に効果を付けることを〝魔装〟という。

 元々の服飾趣味と高い魔装技術を売りにしているのが、ジェスの服屋だ。冒険者には魔装屋とも呼ばれていたりもする。店主のファッションの趣味が出ているので人を選ぶがオーダーメイドも可能だ。かけられている魔法の効果は強く安定しており、評判が良い。


「次行くのって、どこか決めてんの?」


 喫茶店で頼んだ飲み物をずっと冷まし続けているジェス。

 シュンタも熱いものが苦手らしく、よく息を吹きかける姿をついサリトは思い出す。


「……目的としては、ジャッダに」

「なるほどな」


 ジャッダは獣人が多くいる国。

 獣人以外にも友好的で、サリトはこの国の催される祭りが好きだ。

 ただ……ひとつ問題がある。


「どう思う?」

「次がモゼルとか、シュンタ的にキツすぎねぇ?」

「………」


 いつもは柔らかい表情のサリトの顔が歪む。

 ジャッダへ向かう道は三つほど。一番の近道はモゼルという国を経由して行くこと。奴隷商として広く設けている組織の館があり厄介だ。

 あと二つは、モゼルを通らずモンスターが多く出没する道か、安全を考慮して一年以上かけていく道か。

 サリトだけなら、モゼルに入ろうと痛くも痒くもない。


「やっぱり遠回りコースかなぁ」

「そののこと、シュンタには話したか?」

「いや……」

「同じ獣人を見せて親探してあげたい、って気持ちは分かるけど」

「あー、それなんだけど。シュンタのことでまだ話していないことがあるんだ」

「ん?」


 ジェスは実は面倒見がいいとサリトは知っている。パーティを組んでいた頃に色々と気にかけてくれた。

 それはジェスのした下心によるものだと、サリトは全然気づいていないけれど。

 自分に何かあって春太が助けを求めた時、きっと手を差し伸べてくれる人だ。そう思える人と信じ、春太はマレビトであり、この世界に来るまでの経緯を覚えていることを話す。


「だから……遠回りでも、いいかなって。ただ、こっちに来てからあの姿になった、っていうのが気になる」

「オッドアイも珍しいが、しっぽ二本とか激レアだよな。ありゃモゼルじゃなくても、できるだけ片方隠したほうがいい」

「うん、話してみるね」



 宿屋の部屋に戻ると、春太はベッド布団に丸くなって眠っている。

 よく眠る子だなぁという感想と、ひとりの時だったらここまで物が綺麗に整頓されてないなぁという申し訳なさとで眉が下がる。

 この子はこんなに小さくて、体力はない。自分本位の基準にならないよう気をつけようと思った。


「あ、シュンタおはよう」

「にゃーお」

「ちょっと話いい?」

「に?」



 ◇◇◇



 サリトが話してくれた旅の予定に、承諾の意味をこめて頷いた。

 色んな国を回る。強い味方がいてくれるからこそ、これからどうなるのか結構わくわくしている。

 獣人の国に行く。一年くらいかかると申し訳なさそうに言われたが、自分のことを考えて出した提案だ。何も文句は無い。


「ねぇ、シュンタ。前いた場所に未練はある?」

「………!」

「それを知ってると知らないとじゃ、上手く……言えないんだけどかなり違う気がして」


 ──この人、本当にいい人だなぁ……。


 未練が無いと言えば嘘になる。本当は今すぐにでも帰って、家族とご飯を食べたりテレビを見たりしたい。ここで生きてるけど、向こうでは恐らく死んでいる。

 正直、そのことに向き合おうとすると、やるせなさが溢れてくる。

 気づけば、ぽたぽたと太ももに水滴が落ちてズボンの布に染み込んでいった。


「にゃ、にゃう……」

「ごめん、僕、シュンタと初めて出会った時……何か面白いことが起こるんじゃないかって思っちゃったんだ」

「……?」

「好きでこんなことになったんじゃないのにね。悪いなって思ったらすごく不安になっちゃって、シュンタの考えてることまずは汲み取らなきゃっておもって。冒険者のパーティとは違うことだらけだから」


 嗚呼。

 サリトも、初めてのことだらけなのだ。

 手探りなのも、お互い様。

 座っていたベッドを降りて、紙とペンを取る。


 〝正直、不安だらけだよ。けど、楽しみなこともあるんだ。魔法を覚えるとか、サリトさんと旅をするとか〟


 ──前向きに考えなきゃ、もったいないっつーの!


「うん。僕も楽しみだ!そうだシュンタ、明日は風の魔法を試してみようか」

「にゃ!」


 春太だって不安はあれど、思っていた。

 この異世界で、心を鷲掴みにするような出来事が、待ってるんじゃないかって。

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