表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

【第一話】何これドッキリ?ウケるんですけど。


「あ、もしもし?ユリコ?あたしあたし。あのさぁ〜、なんかよく分かんないんだけど、仕事の紹介みたいなのされてて〜。そうそう、勧誘みたいな。悪いんだけど、コバセンに遅刻するって伝えといてくんない?あたし、出席日数ヤバめでぇ〜〜〜。そ、マジで頼んだ〜〜じゃね〜〜〜」




「はい、もういいよ。何だっけ?」

………何だ、この女は。

「キューセーシュ?だっけ」

………何なんだ、この女は。

「それ、何の仕事?時給いくら?」



「な、何なんだ、貴様はあぁぁぁぁ!?!?」



俺は、魔法陣の真ん中にだらしなく胡座をかく女に指を突きつけた。

「え?凛子だけど?」

不思議そうに首を傾げる女に、俺の頭の中は絶望感でいっぱいになった。

俺たちが求めていた救世主(メシア)は、強靭な肉体に強い心を持った、正義感溢れる者だ。

だが、この女はどうだ。

細く白い足に、それを惜しげもなく晒す着衣。とても正義感溢れる者には見えないし、ましてや強靭な肉体を持ち合わせているとは、到底思えない。

しかもーー。

「はー、マジでダルいんですけどー」

やる気がなさ過ぎる!!!

何がダルいのだ!!

こんな、こんな者が救世主だなんて……っ!!

「我々は……もう、終わりだ………」


ロイ・アルバート、それが俺の名前だ。

幼い頃に両親が魔族に殺されてから、今は亡き前国王陛下に拾われ、王国の剣術士として国に仕えてきた。

亡き国王陛下と両親に魔族殲滅を誓い、今まで必死に修行を続けてきた。

何度も死にそうな思いをした。

何度も憎き魔族に殺されそうになった。

だが、ついに先日、その功績が認められ、俺は『魔族殲滅部隊 第一部隊長』という輝かしいこの役職に任命されたのだ。

それが、それが………!!!

「何故、貴様のような者が召喚されたのだ!!!」

このままでは、俺たちは………!!!


「落ち着くのだ!ロイ・アルバート!」


突如、凛とした声が部屋に響く。

「落ち着け、ロイ第一部隊長」

「国王陛下……」

俺を手で制す陛下に目を向けると、強い意志を感じさせる瞳で頷いた。

現国王陛下であるルカリア様は、亡き王妃様の美貌と、前国王陛下の強い意志を受け継いだ聡明なお方だ。

まだ成人して間もないというのに、早くに亡くなられたお父上の代わりを、立派に務めていらっしゃる。

シャランと光り輝く飾りと、それに負けないくらい美しい、絹のような金色の髪を揺らして一歩前に出た国王陛下は、凛子と名乗る不埒な者の前に、片膝をついた。

「こ、国王陛下!!このような者の前に膝をつくなど、おやめください!!」

周りの臣下たちが止める中、国王陛下は凛子の手を取ると、恭しく頭を垂れた。

「凛子、そなたは我らアルテカの救世主として、ここに召喚された。どうか、我らのために力を貸してはくれまいか?」

国王陛下がこの女に膝をつき、頭までお下げになられたのだ。

俺たちが立っていていいわけがない。

他の臣下たちもそう思ったのか、顔を見合わせ片膝をつくと、頭を垂れた。

「凛子、どうか頼む」

国王陛下の声が部屋に、そして俺の耳に響く。陛下は信じておられるのだ。この者が救世主であると。否、信じなければならないのだ。それほどまでに我らは今、窮地に立たされているのだからーーー。

国王陛下が頭を垂れ、ここまでしているのだ。誰もがこの女から肯定の意を示されると、信じて疑わなかった。

だがーーーーー。



「申し訳ないんだけど、パスで」



「………………は?」

「いや、だって何かダルそうだし。あたし、無理だわそういう系。何つーか、重いし」

「き、貴様あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

俺は即座に立ち上がると剣を抜き出し、女へと切っ先を向けた。

「国王陛下の真摯な願いに肯定の意を示さぬとは!!!!万死に値するぞ!!!」

「よくわかんないんだけど、おっさんさっきから怒りすぎじゃない?」

「お、おっさん!?!?」

突然の言葉の暴力に絶句する。

「た、確かにお前よりは年上だろうが、俺はおっさんではない!!」

「はぁ?基本的に、文句ばっかの煩い男はおっさんだから」

「んな!?」

茶色い巻き髪をくるくる弄りながら、唇を尖らせる女に圧倒される。

いや、ここで負けてしまっては魔族殲滅第一部隊長の名が廃れてしまう!!

そんなこと、あっていいわけがない!!

「ふん!偉そうな口をきくものではないぞ、女!俺は魔族殲滅部隊長のロイ・アルバートなのだからな!!貴様など、その気になれば一瞬で殺せるのだ!」

これでどうだ!と生意気な女を睨みつける。が、女は一切動じず、それどころか睨み返してきた。

(ーーな、何だ。この目は…!!)

戦地を駆け抜けてきた、この俺が圧倒されてしまうほどの目力。

この者は、ただの娘ではないのか!?

嫌な汗が流れ出て、背中を伝う。

それはまるで、三年前に経験した魔王との対峙によく似た緊張だった。

ゴクリ、唾を飲み込むと女が口を開いた。

「よくいるんだよね〜、そういうおっさん。ウチの店長とか、マジでそんな感じ。威張ってばっかで、実際なんも役にたたねぇの」

そう吐き捨てるように言うと、女は俺の剣など物ともせずに立ち上がって、ビシッと指を突きつけてきた。

「そーいうの、名ばかりっていうんだよ。世界で一番使えないヤツだから、気をつけなよ?」

「……っ!!」

い、言い返せない!

確かに俺はこの地位に就いてから、戦前で戦う機会が激減した。しかし、この名を言えば、基本的にどこであろうとも、俺を快く受け入れてくれた。それに甘えていたのだ。

このような娘に諭されるとは、なんたることかと震えていると、肩に温かなぬくもりを感じた。


「双方とも、そこまでにするのだ」


振り向くと、そこには穏やかな顔をした陛下がいた。俺は情けない顔を隠すように俯いて、一歩下がった。

「申し訳なかったな、凛子よ。そなたに無理強いをさせるつもりはないのだ」

「マジ?じゃあ、さっさと元いた所に帰してくんね?」

「貴様、陛下に何という口の利き方…っ!!」

今すぐにでも切り倒してやりたい気持ちを抑え、怒りに震える手で俺は剣をしまった。

「そのことだが、この『召喚の書』には、召喚の仕方は書かれているのだが、召喚した者の帰し方は、書かれていないのだ」

「……………え」

「いやぁ、申し訳ないな、凛子よ!」

あっけらかんと言う国王陛下に、臣下の者たちはもちろん、俺も唖然とした。

そうだった…。この国王陛下は王妃のお茶目な所も受け継いでいたのだ……。

しかし、唖然としているのは俺たちだけだった。帰れないと言われた張本人は、何食わぬ顔でその言葉を聞いているではないか。

(ーーも、もしやこの者は、屈強な折れない精神の持ち主だったのか!?先程の口車に、只者ではないとは思ったが……やはり俺の目が間違っていたのか!?!?)

一筋の希望を与えられた心臓が、早鐘を打つ。額からは幾筋もの汗が流れ落ちた。

そして、女が口を開いたーーー。



「あのさぁ、もうドッキリってバレてっから」



………ドッキリ?

「何の番組か知らないけど、バレてるからね?あたしも、流石にそこまで馬鹿じゃないし、キューセーシュ?とか異世界?とかあり得ねぇし」

「ドッキリとは何だ?」

俺たち全員の疑問を口にした陛下に、女はあろうことか指を突きつけた。

「何だじゃないっしょ。アンタは何?売れない俳優か何か?幾らで雇われてんの?」

「いや、私はこの国の国王で……」

「あー、はいはい。マジでいいから、そういうの!スタッフさーん、出てきていいよー」

何だ、この女は。細く軟弱なだけではなく、頭もイカれていたのか?

「凛子、これは…」

「まだ続けるわけ?めんどいんですけど!!」

陛下の言葉に耳すら傾けないで、女は扉を指差した。

ま、まさか指先から魔力を放出し、扉を破壊するのか!?

そう思い、俺はまた期待に胸を躍らせた。

しかしーーー。

「んじゃ、取り敢えずここから出してよ」

そう言うと普通に扉を押して、部屋から出て行った。

その後を慌てて追いかける陛下と臣下たち。


俺は既に心が疲労して、追いかける気力すら失い、その場に立ち尽くしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ