庭園
そこは幻の庭園。
庭園の主でなければ、中に入ることが許されないところだ。
私は、その庭園の主。
庭園というには、小さなものだ。
箱庭といっても差支えがないほどの大きさである。
ここが特別なのは、その箱庭に咲いているただ一つの花のためだ。
この花は、学名も和名も、それどころかどの世界の言語であっても名前が付けられていない。
だから私も『花』としか呼ばない。
花は、春夏秋冬絶えず咲き、また散っていく。
この花弁を一つ飲めば、万病が癒える。
この樹液を一滴飲めば、全ての生命が滅びる。
だから、庭園は厳重に守られており、結界の中にいる。
秘密を守れると主が認めた時だけ、この花弁をともに飲み、樹液を主が飲む。
そして、その認めた者が、新たな主となってこの庭園を守っていくのだ。
永遠に咲いて散っていくこの花を見ながら、私はいずれ訪れる私が信頼する人を、ずっと待っている。