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時計仕掛けの女神はあざとく青春する。  作者: azakura
2章 それでも『死神』はそこにいる
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2-5

 翌日。


 数週間後に迫った文化祭の合同クラスによる出し物決め、という話し合いのため、本日の放課後は部室に赴くことはせず、アマトは教室へと待機する。


「あまっちはウチら提案の『JC喫茶』か、六組提案の『グリム童話の演劇』、どっちがいい?」


 教室内はアマトを含む二年五組の顔ぶれと、六組の顔ぶれの半々で埋まっていた。


「やっぱ俺と言ったら演劇でしょ。篠宮監督渾身の作品に仕上げてやるよ。……てか凪沙、ここじゃなくてお友達のトコ行ってこいよ」


 アマトの前の席に座る凪沙は、周りに比べればいささか目立つ背後の女子たちを見やり、


「……ちょっとね。今だけはあっこに寄りたくない理由があって。あ、別にあの子らとケンカしたわけじゃないから」


 凪沙の視線を辿ってみたアマト。すると、一人の顔見知りを一目で発見し、


(あれは……?)


 シャギーの入った黒髪ロング、前髪を飾るパンダ模様にデフォルメされたドクロの髪飾り。愛らしさ満天の瞳、幼さ漂わせる顔立ちがひときわ目を引くブラウス姿の美少女――轟遊奈。


(そういえば、遊奈は六組だっけ)


 彼女とはかつて、『文学部』という部活動で一緒であった間柄。ちょっとした人間関係のいざこざで部を解散して以降、彼女と接する機会は今のところなかったが。

 ぼんやりと考えていると、右隣のクラスメイト、氷上涼乃が、


「私としては、紅林さんはお友達の所にでも納まっていてほしいけど。紅林さんが近くだと私がここに座りにくいでしょ」


 先日の時嬢部の活躍により、一応は凪沙、涼乃の関係は良好へと変化した。ただ、すでにできあがったグループの関係上、教室内では極力触れ合わない二人。


「ひかみんの友達、みんな雑用に回っちゃったんだな。俺と一緒か」


 凪沙は不機嫌に尖らせた口でヒソヒソと、


「なら、あまっちとだけしゃべってればいいじゃん。ほら、あたしとは他人の振りせいっ」


 という、面倒な関係の女子に挟まれたアマトは、


「とにかく俺に被害がないようにしてくれよ……」


 そうして定刻を迎え、それぞれのクラスから選ばれた文化祭実行委員が前に出てきた。五組からは伊藤(いとう)という女子、六組からは――――、


(マジかい、よりによって――……)


 顔見知り、轟遊奈。


「……ちっ」


 小さな小さな舌打ちを放ったのは、紅林凪沙。


(凪沙? ……ひかみんサイドの伊藤が指揮を執ることを嫌がったのか?)


 ともかく、アマトは実行委員の二人に目を向けることにした。

 二人が本題を切り出したのを皮切りに、五組からは『JC喫茶』、六組からは『グリム童話』という提案がまず出され、それぞれの主張を軸に、教室内の議論は盛り上がりを見せていく。

 だけれども、順調に事が運んだのも束の間、


「…………」


 五組の実行委員、伊藤は教室内のある一点を黙って睨む。それはテーマ決めに参加せず、トランプで好き勝手に遊んでいる男子四人。

 伊藤は彼らの元に寄り、机に強く手を付いて、


「遊んでないでマジメに参加しろ!」


 教室内の注目が一斉に男子らへと集まる。……が、彼らは「出し物なんてなんでもいいわ」、「どうせどっちも女子が主役になるんだし、男の俺らが参加してもムダ」とヤル気なしの反論。


「な……ッ。クラスでの出し物なんだから……、だっ、男子も参加してくれないとイイものにならないし! だからい、一致団結して……ッ」


 それでも男子らは、「お前に団結だとか言われても説得力ねーよ」と一蹴する。


(伊藤はなぁ……。ああ言われても反論できないだろ……。去年も同じクラスだったけど、普通にアイツら見下してたし……)


 コミュニケーション能力を活かし、かつてはクラス内ヒエラルキーの頂点に君臨していた彼女。ただしそれは、紅林凪沙と氷上涼乃という存在が伊藤の前に現れるまでのおはなし。


(二年になってからは仕方なく凪沙側に付いたんだけど、凪沙とはウマが合わなかったらしいんだよなぁ。それからは結局、ひかみん側に付くようになったけど)


 そんな伊藤は諦めず強く言い返しはするものの、団結した男子らにことごとく論破されてしまう始末。


(あれ、ひょっとしてこの流れは……)


 アマトの脳裏にチラついたのは、部室で自分が見せたあの――……。


「どーしてやってくんないのぉ! みんなに迷惑かけてんのわかんないの!?」


 指数関数的に上昇してゆく、声のトーン。終いには、


「だからぁ、アンタらの力だって必要になるからぁ……、ぐすっ、うっ、うううぅッ……」


 目元を歪め、とうとう彼女は嗚咽を漏らしてしまったのであった。

 「サイテー」、「だから女子に嫌われるんでしょ」「キモッ……」と、原因の男子らを侮蔑する女子もいれば、「もう大丈夫、泣かないで」と伊藤を優しく慰める男子も現れる。


 教室全体が悪の元凶を糾弾し、伊藤を擁護していくシリアスな雰囲気の中、


「…………ぷくくっ、うんんッ」

「…………くふふッ」


 前方のギャル魔女は顔を手で覆い、斜め下を向き、赤混じりの茶髪を小刻みに揺らす。そればかりでなく右隣、伊藤の友達である涼乃でさえも顔を伏せ、妙な声を危なっかしく漏らす。

 アマトは唖然と口を開け、凪沙の耳元にこっそりと、


「(笑ってるのバレると立場失うぞ……)」


 凪沙はアマトの椅子をガンッと蹴とばし、


「(バカ、それ言うな……ふはっ。あんなの思い出しただけで……くふふふっ)」


 と、今度は右方向から肩を小突かれ、


「(昨日、あんなモノマネを見せるから……うふっ、意識しちゃうからっ)」


 アマトは困惑顔で、けれどもちょっぴり嬉しそうに、


「(まさか、あんなに精度のいいモノマネになるとは……。もしかして俺って、演じることに定評がある……? もし演劇に決まったら、何を演じてみよっかな?)」


 しかしピリピリとした教室内の雰囲気は時が経てども収まらず、時間に比例するように凪沙、涼乃の身の震えが増していく。危なっかしい声を漏らし、時には不自然な咳払いで誤魔化す二人を見て流石にアマトは、伊藤を宥めている知り合いに見えるよう手を挙げ、


「なあ、一旦休憩にしない? 休憩でも挟んで空気変えようぜ?」


 黒髪ロングの彼女はその声に反応、凪沙と涼乃の不自然な様子をパッチリした瞳で見ると、苦く笑って、


「よーしみんな、今から休憩にしよ? その間に悪い子くんたちと伊藤ちゃんは仲直り、他のみんなはJC喫茶か演劇、どっちやりたいかを決めといてね」


 教室内は六組の実行委員の言葉を聞き入れ、こうして出し物決めは一旦休憩へと入った。

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