純情ヘタレ若様と ちょっぴり頑固な訳あり乙女の 恋のラプソディ。
♬春には春の 花を飾ろう
風に 舞う 君の 髪に
僕の想いも 届け 届け
ラララ ルルル ワルツを奏でるように
ごった返す店内では、今夜も 歌姫の奏でる音の葉が 疲れた人々の心と体を 癒していく。
ひときわ高い頭が、人々の波を 右に左に漂いながら、注文の品を 届け配る。
「注文は 決まったのかい?さっさと 決めないと・・・」
「こら!ライナ!お客さんを 脅すな!」
「へいへ~い( ̄∇ ̄)」
厨房から 顔を覗かせた 店主の怒声に 気の抜けた返事を返す。
一方、カウンターは、若い女性客で 埋め尽くされている。
カウンターの内側で、黙々と 酒を注ぎ続ける若者に 熱い視線を 送りながら。
若者は非常に整った顔立ちをしている反面、愛想のなさは 天下一品で
まだ 給仕を手伝う女性のほうが、愛嬌があるほどだ。
しかめ面で 無口。素性も謎とくれば、独身女性が ほっておくわけがない。
「ネエエ~ イオ~♡ 今日は これから 飲み直しましょうよお♡」
「ダメダメ!私が 先に 誘ってるんだから、ね♡そうでしょ、私の イーオ♡」
しかめっ面を 3割り増しにさせ、一言。
「じゃまだ」
きゃあああああああーーー♡♡♡♡♡♡
(どこが いいんだか… ヘタレ男の 。売約済みだっつうの)
給仕手伝いの 彼女の心のつっこみにきづいたのか、顔を上げ、ねめつける。
視線の先には、歌い終わって 各テーブルを回る 歌姫の姿がー
「ごきげんよう、今日も お疲れ様でした」
「ごきげんよう、腰の調子は いかがですか」
「ごきげんよう、今日のイチオシは お魚りょうりですよ」
一つ一つの テーブルを回る度に、優しく語りかける。極上の 微笑みを添えて。
それを じっと見つめる若者の顔が、ますます しかめっ面の度合いを ましてゆく。
バチコン!
店主が その頭を 軽くはたく。
「イオ!イケメン度を 増すな!お客さんが 卒倒しかけてるぞ!
アンジェ、厨房を 手伝っとくれ!!注文が さばききれないんだ」
「はーい(^∇^)今 行きまーす♡」
軽やかな返事とともに、歌姫が こちらに駆け寄ってくる。
三つ編みにしていた 髪は、今は 緩く一つに結い上げられ、ゆるやかになびく。
野の花を 髪飾りにして 飾るのが、ここにきてからの 習慣となった。
(…綺麗に なった。いや、もともと 綺麗だったのが、隠されなくなったからか?
いつも 顔に泥を付けて、くたびれた格好しか してなかったもんな、ったく)
若者と 視線が合う。その一瞬、笑顔が 消え、唇が 無言で メッセージを 送りつける。
(カ エ レ バ)
ー誰が 帰るもんか! お前と 一緒じゃなきゃ 意味ねえんだよ(●`ω´●)
きっとにらみ返すと、わざと 極上の微笑みを向け、厨房の奥へと 消えていった。
ー最初から、俺の 負けだって 分かってる。
だけど、君が、君のことが どうしようもなく 好きなんだ!!
もう、あんな つらい思いは 耐えられない。
君のいない世界では、生きていけない。
だから、もう・・・
バッチコオオオン!
「こおうらああ、な~に 乙女みたいに ため息ついてんだ!
仕事しろー!!」
店の主人に 今度は 思い切り どつかれた。
そんな にぎわう店に、ふらりと ひとりの男が 現れた。
この時は まだ、彼らの運命に 大きく関わってくることなど、予想だにできなかったのである。




