戦闘後 医務室にて
9話目
クロとの一戦の後、俺はいつもの穴蔵に戻るのかと思ったが、違う部屋に通された。
「コイツの体を見てやってくれ」
連行係が部屋の主に声をかける。
「狼も怪物も専門外なんだがな」
ぶっきらぼうに部屋の主が答える。
「まあ、そう言うな。こいつのこと頼むよ」
「仕方ねぇな……言葉わかるのか? 噛み付かねぇよな?」
「あんたのこと噛んだって良いこと無さそうだぞ」
見た目少し……いやかなり不健康そうだ。何か変な臭いするし。
「流暢に喋れるじゃねぇか。狼型の獣人だったんだな。見た目かなり獣寄りだがな」
「ライカンスロープだ。人狼からの戻り方が解らないんだよ」
「俺はそんな種族聞いたことない。まあ、満月でも見れば戻んじゃねぇか?」
この野郎、穴蔵にしかいない俺に何言いやがる。空が見えないのに満月も何も有ったもんじゃない。
「穴蔵みたいな檻の中じゃ空なんか見えねぇよ」
「何だ、オマエは見世物用の奴隷かよ。
まあ、そんだけ受け答えできれば大丈夫だろ。
後は、10日位はあんまり動き回るなよ。腕も足も傷みきってる」
何だよ、医者みたいなもんか。雑談しながらコッチの体ベタベタ触ってくるから何かと思った。
魔法なんて便利な物が有るんだから、それで直してくれるのかと思ってたのに。
「オマエの体を動かすための筋肉は損傷が激しい。おとなしくしてれば治るだろう」
肉離れみたいなのを起こしたかな? 身体強化をフルに使おうとすると反動がデカイんだな。
「俺は知識はあるが、魔法が使えないんだ。すぐにでも直してやりたいが、これが限界だ」
話しながら俺の体が包帯で固定されていく。はは、テーピングされてるみたいだ。
ん、頭にも巻いてる? ああ、ぶちかました時に頭が切れたかな。
「よし、これで完了だ。とりあえず、治るまでは奥のベッドに入れておく」
なんだよ、ベッド有るなら使いたい。石の床に寝るのはかなり痛い。
少しワクワクしながらついていくと、やっぱり鉄格子付きの個室にご案内された。
オイ、ベッドどこだよ。目の前にはワラが敷き詰められた箱が有るだけだ。
これは、あれだな。アルプスの方のおじいさんに教えてもらいたくなる見た目だな。
一応、箱に入ってみると、確かに床よりか痛くは無い。むしろなんか気分いい。
久々に熟睡出来るかも。
あ、掛け金もらうの忘れてた……金貨15枚……明日でいいか。
翌日、起きた時に一瞬どこにいるのかが分からなかった。
だって体の半分くらいがワラに埋まってるんだもの。
体を起こそうとして、全身が痛いことに気づいた。軽く動かそうとするだけで脂汗がでる。
「痛ぇ……」
軽くつぶやきながらも体を置こす。これは、筋肉痛? とりあえず痛い。
足は更に痛い。立ち上がるのも困難だと思う。
筋肉痛で住んでれば、バンザイだな。何日かすれば痛みは引くだろう。
ただ、医者が言ってた言葉は気になるな。靭帯でも痛めてたらやばそうだ。
「お、起きたみたいだな。少しオマエと話すことがある」
なんだ? ああ、昨日の医者か。
「あんた、あのクロに勝ったんだって?」
「ほぼマグレみたいなもんだ。長丁場になってたら絶対に負ける。運も良かった」
「運も実力だろう?」
「やるたびにこんな状況になってたら、回数重ねなくても負けるよ。」
「そんなもんなのかねぇ? ま、良いや、話し戻すぞ」
勝手に昨日の話しておいてなんだよ。
「昨日言った事覚えてるか?」
「10日ほど動き回るなって話か?」
「そう、アンタの体はつくりの限界以上の力を出したせいで悲鳴を上げた」
「身体強化スキルを限界まで使ったからな」
「普通そんな力出せないようにリミッターがかかるんだよ。
戦闘は麻酔みたいなもんでな、戦っているあいだは痛みを余り感じない」
聞いたことはある。脳汁出まくって痛いなんて感じなくなるはずだ。
「つうか、仕方ないだろう? やらなきゃ死んでたぞ」
「そりゃそうだ。普通、あそこでの負けは死だ」
「ん? おかしくないか? クロは気絶させただけだぞ?」
「見世物としての価値があるからな、クロもアンタも」
話が見えない。何の話をしようとしてるんだ? 俺の怪我の状態を話すんじゃないのか?
「とりあえず、怪我に関しては心配するな。何日か寝てれば痛みは引く」
よかった、ただの筋肉痛か。
「ただし、また身体強化スキルを使えば、同じような状態になる」
あるぇ? あれって自爆する為のもんだったの?
「俺が聞いたことが有るのは、腕力強化Lv.8、脚力強化Lv.5くらいまでだ」
ちょっと待て、俺は両方カンストしてるぞ。ついでに派生してる。
「さっきの強化Lv.までが普通に制御できる精一杯ってところなんじゃないかな」
やめて、俺の思考読まないで。
「アンタ、それ以上の強化使っただろう?」
いや、使ったけどさ。使わないと死んじゃうし。
クロのラリアットやばかったんだって。
意識は飛びかけるし、首から上は吹っ飛んだ感じだったんだぞ。
「まあ、下地があればこんなことにはならなくなるかもな」
下地? 筋トレしとけってこと?
「まあ、ただの年寄りの独り言だ」
年寄り? 俺とそんな変わらないでしょ? 俺33だよ。あ、外見は13だっけ俺。
それだけ言うと立ち去ろうとしてる。ちょっと待て、結局どうしろっつうの?
「ちょっと待て、トレーニングしようにも場所が無いだろ?」
聞いた言葉に対して、心底不思議そうな顔をされた。
「あん? 何言ってんだ? 希望すればトレーニング位出来るだろ?」
「いやいや、そんなの聞いたこともないよ?」
「昨日アンタを連れてきた奴に聞けば答えてくれんじゃねぇの?
アンタらは見世物なんだ。常に最高の見世物を見せる義務があるんだ。
その一環としてトレーニング出来るところも提供してるはずだぞ。
……金取られるけどな」
「金取んのかよ。そこは無料にしとかないと死人がたくさん出るよ」
「死んで良いんだよ。殺しが見られるのもここの醍醐味の一つさ」
「いや、俺は殺してないし」
「何言ってんだ? ゴブリン殺したろ? 三匹」
え? あいつら死んでたの? 一応、虫の息程度に生きてたはずだけど。
「頭が潰れて死んだ奴が二匹、肋骨が折れて体の中に刺さって死んだ奴が一匹」
やっぱ致命傷だったのか。
「運ばれてくる前には死んでたよ。街の外にいくらでもいる害獣みたいなもんだ。
な、アンタも殺してるじゃないか?」
「意図してやったわけじゃない……」
「アンタは優しいんだな。ただ、殺さないのは優しさとは言えないぞ。
アンタが殺せば一瞬で済むかもしれないが、虫の息で生かされたら、後がキツイ」
意味がわからない。何を言いたい?
「さっき言ったろ害獣だ、見世物だって。そのまんまの意味だよ。
血を見たいと言う欲求があるやつが来るんだ、ココに。
それに、客は富裕層が多い。切った張ったを余りしない奴らがココに来るんだ。
娯楽も行き過ぎると危ないねぇ。死にかけのやつを見世物にするときもある。
詳しく聞くなよ? 胸糞悪くなるだけだ。
まあ、そんなワケだ。アンタに価値がなくなれば、ゴブリンと同じ末路になる。
それか、それ以上の酷いことになるかもな。
今のところそれは無いけど、余り刺激の少ない事してると干されるぞ」
「10連勝すれば出られるって……」
「知能のある程度高い奴のにはそう言うことになってる」
「出来てもココから出れない?」
「それは解らない。それだけ連勝した奴はいないからな」
「自分の価値が今は金貨1000枚って言われたが?」
「連勝と、刺激が増えればそれも上がっていく」
「最初から俺をここから出す気が無いって事か……」
「そうかもなぁ。まあ、気長に10連勝目指してみれば?」
「クロと約束してんだよ」
「約束? バケモンと約束しても忘れられるぞ」
「バケモンじゃねぇよ。クロだ」
「クロ……ね。信頼してるもんだ」
「お互い9連勝までいってから再戦するって約束したんだよ」
「約束か……」
「俺が先に9連勝しないと。先にして、待たないといけないんだ」
そう、あそこで二人で話したことを現実にするために。
少しの時間殴りあっただけだけど、約束だから。
「やっぱ、アンタ優しいよ」
何なんだよ、さっきから。部外者なんだからそこは引っ込んでろよ。
「まあ、ガンバレ。アンタが望むなら現実になるだろ?」
「言われなくても、現実になる。俺もクロも約束してるから」
「戦闘を干されないようにしとけよ」
「レベルの差があれば、刺激も考えとくよ。気は進まないけど」
「モンスターなら害獣だぞ。人だとしても、アンタみたいな奴隷か、犯罪者……重罪人だ」
「先生も大概だ。先生も優しい部類の人間だ」
「先生なんて呼んでもらう資格はないな。それに、優しいってのは心外だ」
「今後俺がヒトを殺した時に落ち込まないようにしてるだろ?
そんな気をまわせるヒトが優しくないわけがないじゃないか」
「買い被り過ぎだ」
「それじゃあ、俺の気のせいってことにしておくよ」
そんなことを話して1日が過ぎた。
まあ、今回は運が良かったんだろう。いろいろとモチベーションも上がったし。
10連勝して、絶対ココから出て行ってやる。
出る前に、人型への戻り方も考えないとな。狼面したやつが街中歩いてたら捕まる。
これで2勝目。後8勝。
読んでいただきありがとうございます。
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