迷宮31階はどんなとこですか?
さあ、迷宮攻略だ。
意気込んでみたものの分かることはほぼ無い。ポチに聞くか。
「なあポチ、俺でも分かるような迷宮の注意点ってあるか?」
「まあ、斥候するオイラの後をついてくれば罠とかは大丈夫ニャ。あとは、魔の巣では無闇に部屋に入らない方がおすすめニャ。モンスターハウスになってる可能性が高いニャ」
ふむ、部屋にはなるべく入らない方が良いと。で、通路は罠がある可能性が高いんだな。
「最悪なことに部屋の中に次の階に行く階段はモンスターハウスの中にある可能性が高いニャ。特に二桁台の階層には多くなるそうニャ。迷宮街のギルドで言ってるくらいだから信憑性は高いニャ」
「なあポチ、それって矛盾してるよな?」
「してるニャ。部屋には入らないほうが良い、部屋に入らないと階段がない。まあ、迷宮なんて矛盾の塊ニャ。
その分見返りも大きいのが迷宮ニャ。特に人があんまり入って無い深層になればそれまでに溜めてある魔力や冒険者を養分に良いものが出る可能性が高いニャ。
その代わり難易度は察している通りニャ」
ほう、ハイリスクハイリターンってやつだな。まあ、宝箱でも出たら期待しよう。
その前に魔力や冒険者を養分かよ、生き物みたいだよなぁ。
で、だ。俺達は今その矛盾の前にいるんだよなぁ……。
「なあ、俺達さこの扉しか行ける場所無いよな?」
「ムムム……その通りニャ。ここまで一本道だったし、ココしか無いニャ」
「それで、この扉を開けなきゃ進めないんだよな?」
「確実にモンスターハウス化してるとしか思えないニャ……」
でもなぁ、この扉何か見覚えあるんだよなぁ。どこだっけ?
「扉には罠は無さそうニャ。開けても安全だとは思うニャ」
「そうか。まあ、この先は俺の出番だよ。ちょっと俺の後ろに隠れるか、背中にしがみついててくれ」
そう言ってポチを下げる。さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
先に進むとまた扉だ。扉? この扉も見覚えがあるな、この覗き窓もどきとか。
腹の高さにある覗き窓とか需要無さそうだよ。
扉を開けると見覚えのある場所だと思う。何もないけど。
ポチと一緒に部屋に入る、何もないけど既視感はある。なんだよコレ。
部屋に入ると後ろの扉が閉まり、覗き窓もどきから砂時計が部屋側に入ってきた。
砂時計が反転し砂が落ち始める。ああ、よく知ってる場所だココは。
そう、闘技場の準備室だ。
「ニャニャニャ! ニャンかの罠ニャ!」
おいおい、ポチ落ち着けよ。
「ニャにを落ちついてるニャ! 早くこの部屋から出ないと罠が作動するニャ!」
ポチが騒いでるが気にしない。ガーグ爺が作ってくれた装備を魔法の袋から取り出す。
鉢金、脚甲、グローブ、手甲を装備して、と。お、まだ半分くらいは残ってるな。
ポチが入ってきた方の反対側の扉の前で俺を呼んでる。さて、進もう。
「ニャんで早く来ないのニャ!」
「悪い、俺にとっては慣れ親しんだ場所みたいなもんだったからさ」
数回しか使ったことはないが、唯一の外に出れるときだったからな。
「意味がわからんニャ!」
「まあ、気が向いたら教えてやるよ」
「気が向かなくても教えるニャ! オイラ、ラルの相棒だからニャ!」
「おう、この迷宮クリアしたら教えてやるよ」
扉をくぐり抜けると、また扉が閉まる。ここまで再現するかねぇ。
扉から少し進むと、出口が見えてきた。うん、俺の知ってる場所だよね。
闘技場の戦闘する者の為のの出口だ。
やっぱなぁ、うん、闘技場だ。観客も何もいないけどね。
俺とは対面側の扉が開く。うん、相手のほうが後に入場か。何が来るかな?
反対側の出入口から出てきたのは、真っ黒な西洋甲冑だった。
色々と版権とか引っかかりそうだ、持ってる武器はただの黒い棒だよね?
もうさ、完璧にさ、あの狂戦士にしか見えねぇよ。
「ルゥオオオオオオォォォォオォーーー!!」
発声器官があるの? そんなことを一瞬考えてしまった。相手はその少ない時間で俺目掛けて一気に距離を詰めてくる。速い、速いよ。
俺の目の前で棒を構えて止まる西洋甲冑、それはどこか見覚えがある。
俺の手は届かない。相手は俺の間合いの外にいる。
甲冑の回りを回るように動く。棒の先端は俺を追ってくる。
間合いの取り方が絶妙だ、近付けない、隙もない。
パンチとやったときを思い出す。あぁ、多分あれ以上だ。
半身になって止まる、少しでも相手から見える面積を減らす。
半歩ばかり距離を詰める。相手からは目を離さない。
棒ばかり気にしてたら殺られるな。
あと一歩詰めれば俺の攻撃も届くんだがな。どうするか?
ゴヅッと鈍い音がした。顎をハネ上げられる。
その後に鳩尾辺りに衝撃。息が止まる。
ヤバいヤバい! 見えてないけど攻撃を受けてる。
バックステップして離れようとするけど、離れない。
俺の移動にあわせて相手も前に出てきてる。
「しゃがむニャ!」
ポチの声が聞こえる。言われるままにしゃがむ。
俺の肩を掠めるように何かが通り抜けていく。ギリギリだ。
棒が消える、いや、消えたように感じた。
おいおいおい、こいつ高速で飛んできたスリングの弾を棒でそらした?
どんな動体視力だよ! 視覚強化持ってる俺でも見えねぇんだけど!
少しの間を貰えたため、相手の間合いから逃げる。
「ゲホッ、ゴホッ!」
息が出来ない。苦しい。
「ゲホッ! ゲホン! ずまん、ボヂ、だずがっだ」
声が掠れる。どうにか息を整えられた。
ポチのスリングでの攻撃は間をおかずに繰り出されている。
そのことごとくを棒で逸らし、ステップでかわし、体の真ん中のは叩き落としてる。俺も、飛び道具出す、ぞ。
ポチとは離れ、ポチの斜線に入らない位置を取る。
いつものように、指で照準を合わせる。喰ら、え!
「火矢!」
炸裂音、肩への反動、高速で飛ぶ極小の弾丸(多分火の矢)
一瞬のはずが間延びしたような時間の中、相手の動作が見えた。
かなりの速度で迫る火の弾丸に対して、確認をした上で動作が開始される。
相手に当たる前に棒を一振り、叩き消す。
おい待て、お前今、魔法を打ち消した?
というより、俺の射撃を確認した上で、対処した、よな?
おいおいおい、どんなやつだよ?
ポチは? うわぁすげぇ勢いでスリング連射している。
弾幕厚いね、一人? で打ってるとは思えないくらい。あ、まとめて弾を手に持ってる。軽く散弾銃並の面射撃になったよなぁ、あれ。
おお、発射された弾のことごとく打ち落としたよ?
あれ、これ結構無理ゲー? つうか、これ以上ポチに負担かけられんわ。
「ポチー、援護頼む!」
一言だけかけて駆ける、思い切り、脚力強化を意識しながら。ガーグ爺に言われたように、手甲と脚甲に何か流す。少し軽く感じる、まだまだ、視界の端で少し輝くのが見える。よし、特攻。
一気に近付く、まだ遠い、牽制で「火矢」頭を狙ったが首の動きだけで対処される、なんなんだよこいつ。まあ、いい、あと、一歩、だ!
ポチからの弾幕は薄くなってる、俺が近付くにつれて援護に切り替えてくれたみたいだ。あぁ、頼りになるなぁ! おら! 俺の間合いに入ったぜ!
まずは、左、もう一度、まだまだ、おら、左しか使ってねぇぞ!
左手の手甲の輝きはもうない。一発目だけだったか、まあ、棒に軽く叩き落とされましたけど! まだ、あと三回はチャンスがある。しゃあない、あまりやりたく無いけど、左を相手の顔? に向けて出す。首の動作だけで避けられる、手を伸ばしたまま、一歩、更に密着。頭を抱えるようにして、クリンチの要領で、抱え込む。冷たい感触、まあ、鎧だしね。超密着状態から、足から膝、膝から腰、腰から肩、撃ち抜く方向に回転させていく。思い切り握りしめた俺の拳を相手の腹に!
「喰らえや!」
ガンッという衝撃音とバキッという破壊音、当てるだけと思うなよ! 左手は放してる、後は、振り抜くだけ! ぶっ飛べ!
急に手の重みが軽くなった気がしたが、振り抜け!