転職出来ますか?
29話目
さて、と。今回の清算はコレで終わりだよな。
俺と対戦した奴らは今ようやく起きたところだし。
まあ、一人はもう一度眠ったみたいだけど。
「俺の方の用事はこれで終わりだよね?」
レンさんに聞いてみた。
「ああ、お前のやるべきことは終わってるな、戻ってくれて構わない。
ヤブさん、ラルを連れて出て行ってもらえるかな?」
「おう、分かった。
アンタ、そのローブ被ってまたついてきてくれるか?」
そうか、顔を隠さなくちゃいけないんだったな。
周りの奴らに見られないためにも被っておくか。
「用意出来たみたいだな。それじゃあ、ついてきてくれ」
とりあえず前を歩く先生についていく。やっぱり、何か見えにくいよな。
両サイドを布が邪魔してどこらへんを歩いているのかが分からない。
階段を登って、何度か角を曲がって……ん? 立ち止まったな。
顔を上げてみると先生の医務室前だ。着いたんだな。
「まあ、しばらくはココにいてくれるか?」
良かった。穴蔵に戻らされるんじゃないかって思ってたからな。
「いったろ、アンタのケアも今回の俺の仕事だよ」
そうか、そう言ってたなそういえば。
「まあ、疲れてるだろ? しばらく寝ておけ」
お言葉に甘えさせてもらうか。
「その金貨袋、邪魔だろ? 預かっててやろうか?」
「抱いて眠るよ。先生の目が恐い」
「ちっ」
「舌打ちすんな。コレ持って良い酒のもうって魂胆が見えてるよ」
そんな事しないだろうけどな。
抱いて眠ろう、そのほうが安心するかも。
つうか、眠すぎ。早く寝たい。
「好きな所使っていいぞ。寝床なら開いてる」
それじゃあ、藁のベットを使わせてもらおう。アレ気分いいからな。
藁に包まれると、意識が簡単に離れていく。疲れてたんだな。
気がつくと、白い空間にいた。
あれ? 眠ったはずなんだけど?
『やあ、よく来たね』
ん? 何か聞き覚えの有る声がするな。
まあ、眠いんだ、眠らせてくれ。
『眠らないでもらえるかな?』
なんだよ、いいじゃんか。
『いやいや、少し話が有るんだよ。聞いてもらえるかな?』
大事な話と聞いて、少し眠気が飛ぶ。
『聞いてくれる気になったかな? ソレよりその姿でこっちに来るのは初めてだね』
言われてから気付く。ああ、人狼の格好してる。
『君の意識と姿がちゃんとリンクしたみたいだね。あっちの世界に定着したかな』
何のことだか良く分からないが、定着したんじゃ無いか?
『ふーん、コレが獣人族っていうんだ?
変身出来るんだってね。楽しそうで良いなぁ』
「まあ、ある意味楽しいぞ。それで、話って何だ?」
話を進めよう。雑談してたらまた時間がなくなっちゃいそうだ。
『少しは話し相手になってよ。退屈なんだよ、ココって』
「話が終わったらな」
『まあ、そんなに重要な事じゃないけどさ。
君に伝えておかなきゃいけないことが有ったんだ』
伝えておかなきゃいけないこと?
『ああ、悪い話じゃないから安心して。
君、今持ち物が結構増えてきてるんじゃないかな?』
「そんなには増えてないぞ。増えてるのは抱えてる金貨位だ」
『そうそう、金貨。まあ向こうの世界のお金だよね。
邪魔じゃないかな? そんなにたくさん持ってて?』
勿体つけるね。何が言いたいんだ?
『そんな君にコレをプレゼント』
そう言って少し汚れた革袋を渡される。
『ん? 汚れてるとかって思っただろ? ソイツはスゴイんだぞ』
どう見ても使い古しの革袋にしか見えん。
『何でも入る魔法の革袋さ。
本当は向こうに送るときに持たせるはずだったんだけどね』
「生まれてきた奴がこんなの持ってたら事件だぞ」
『そうなんだよ。だから、今、君にプレゼント』
「使い方は?」
『その革袋の口に物を近づければ自動的に収納されるよ』
「未来のロボットのポケットみたいだな」
『ははは、その認識で間違いないかもね。ただし、君以外には使えないけど』
すげぇなそれ。
『盗まれても、その人にはただの革袋としてしか使えないよ。
この袋は転生者特典だから。
あとは、君が殺されたら中身を当たり一面に撒き散らして爆発するから』
何だよそれ。どこのオンラインRPGですか?
「つうか、夢で渡されてもな。夢オチになるじゃん」
『ああ、それなら安心して。ちゃんと君に届けてあるから』
どうせなら収納魔法みたいな特典のほうが良かったんだけどな。
『収納魔法を使えるのはあんまりいないよ、その世界。
いたとしたら商人に抱え込まれてるか、貴族の金庫代わりの奴隷ダヨ?』
「だから考え読むなよ。狼面なんだから表情そんな変わらないはずなのに何で読めるんだ?」
『顔に出なくてもねぇ、尻尾に出てる』
こんちくしょう。知らないうちにブンブン振られてるのかこの尻尾。
『後は、耳の向きからかな』
こっちもかよ。
『まあ、君の事だから、上手く使ってくれると思ってるよ』
でだ、これでココに呼ばれた理由は終了かな?
『ああ、一応もうひとつ有る』
だから考え読まないで。
『まあ、聞いてよ。
君さ、確か職業レベル10を超えたよね?』
「拳闘奴隷か? それがどうした?」
『まあまあ、流石だね。君をそっちに送った甲斐が有ったよ。
でもね、その職業なんだけど最下位職だから、レベル15以上にはならないよ』
なんだって?
『まあ、君のレベルは今は多分12になってるよ』
先の戦闘で上がってれば、12になるか?
『で、だ。そんな君に転職の機会を与えるよ』
転職って……そんな簡単に出来るもんじゃないだろう?
『本来なら、神殿でちゃんとした儀式が必要なんだけどね。
いい機会だし、僕が君の職業を変えてあげようか?』
「普通に今の場所から出れたら出来るんじゃないか?」
『出れたら、ね? そんな簡単に出れると思ってる?』
恐いこと言うなよ。
『まあ、僕の予想だけどさ、当分は出れないよ』
うぐ、まあまだ半分だし、しばらくは出れないよなぁ。
『だから、これはサービスさ。
僕のことを楽しませてくれてるお礼と思ってくれていいよ』
「何か上手く言いくるめられてる気がするぞ」
『心外だな。約束は守るよ。
それに、奴隷って職業から違う職業に変えるときはふっかけられるんだよねぇ』
何か嫌なこと聞いた。
『それで、僕が今ココで変えちゃえば元手は正規料金だけで済むよ』
「金取るんかい!」
『ふっかけられる金額は多分金貨1000枚じゃ足りないんだよね。
その点、僕がやれば金貨10枚さ。
どうだい? お得と思わないかい?』
うぐぐ、なんかスゲぇお得な気がしてきてる。
『ホラホラ、ココで決めちゃいなよ』
詐欺じゃないんだよね? コレで嘘でしたってのは無いよね?
『で、どうするの?』
「お願い……します……」
『毎度有り。それじゃあ、変えちゃおうか。
選択肢出してあげるからどれにするか決めてね』
パッと目の前に選択肢が浮かび上がる。
1:拳闘士
2:魔拳士
「なあ、前も思ったんだけど、選択肢って2個しか出せないの?」
『何言ってんのさ、普通1個しか出ない所を二つ出してあげてるんだから』
「鑑定、してもいいか?」
『どうぞ、ご自由に』
それじゃあお言葉に甘えて、鑑定。
拳闘士:素手で戦う。剣と魔法の世界なのに殴る、蹴る、投げるが得意って何目指してんの?
何かイラッとする紹介文だ。バカにされてる気がする。
魔拳士:攻撃に魔法をのせて戦える。魔法は飛ばすもんじゃ無い、攻撃にのせるものだ!
やっぱり何かイラッとする。バカにされてるよねこれ?
『お、本当に鑑定使えるんだね。
結構有用なスキルなんだよね鑑定って。
というより、魔拳士って……レアな職業出たね』
「え? レアな職業なの?」
『え? そこに食いつく?』
食いつくに決まってる。レアな職業と聞いてうずかない男子はいないだろ?
『それなら、ソレに決めちゃう?』
「迷うまでもない、魔拳士で頼む」
『それじゃあ、職業魔拳士になーれ!』
軽い、転職のノリが軽いよ。
ーー職業、拳闘奴隷から魔拳士に変更されますーー
何か頭の中にアナウンス流れた!
『ふう、コレで終わりだね。おめでとう、転職出来たよ』
あの軽い掛け声はいただけないが、転職できたか。
『少しは信用してくれても良いんじゃないかな?』
出来ない。俺の受け入れ場所が無いから死ねないって言った奴の言葉は余り信用出来ないよ。
『顔に出さない。言わなくてもバレバレなんだけど。
それと、後ひとつだけ良いかな?』
なんだよ、重要な話なのか?
『まあ、そんなに重要じゃないんだけど、本当に君は10勝できれば出れるのかな?』
「意外とちゃんと見てたんだな俺のこと」
『意外とは失礼な。君をそっちに送ったものとして監視はしてるよ』
「10勝すれば出れるって聞いてる。真実かどうかは分からないけど」
『まあ、杞憂なら良いけど、気を付けるんだね』
「不安にさせるなよ。一応ソレを目標に動いてるんだから」
『あとは、少し目立ちすぎたかな。戦闘干されるかもよ』
「嫌なこと言うなよ。退屈しちゃうだろ。俺もあなたも」
『日常の君を見てても余り面白いもんじゃナイヨ。だって君ずっと穴蔵にいるんだもの』
「それなら奴隷以外の職業用意しててくれればよかったのに」
『残念ながら、空きが奴隷だけだったからね』
「ケチ」
『向こうで生きていけるようにしただけでも大盤振舞なんだけどな』
まあ、ソレは感謝してる。なんだかんだ言って楽しいし。
『おっと、そろそろ時間だね。
ひろあき君、君の活躍を見てるから、せいぜい楽しませてよ』
ん? ひろあき? 誰だっけ?
『君の前世の名前だよ、忘れたのかい?』
ああ、そうか、俺の名前だっけ。
『あと、君の金貨袋から10枚金貨もらっといたから』
そこは即物的なんだな。
『ヒトの食べ物やお酒は美味しいからね。買うにはお金が必要じゃん』
こっちに出てこれるのかよ。
『たまには外に出ないとなまっちゃうよ』
なんだかな。まあ、いつもこんな感じだったっけ。
『じゃあ、楽しんでね。君の人生に幸の多からんことを祈ってるよ。
ああ、でも僕は神様でも天使でも無いからね。間違えないで』
「アンタの名前は?」
『ふふん、教えてあげない』
名前くらい良いじゃねぇか。
『まあ、気が向いたらね。それじゃあ』
目を覚ます。藁の中に体半分くらい埋まってる。
右手には金貨袋。何も持ってなかった左手に汚れた革袋。
マジか。夢の中で見た革袋がそのまま俺の手の中に有る。
口を開けてみてみたが、普通の革袋に見える。
試しに金貨1枚取り出して革袋に入れと念じながら近づけると、金貨が消える。
おう、マジでだ。魔法の革袋マジか。
口に手を近づけて金貨出ろと念じると金貨が俺の手本に1枚。
スゲぇ、こんなの有りか。
金貨袋を革袋に近づけて入れと念じると、金貨袋が一瞬で消えた。
入ったのか? 鑑定すればわかるかな、鑑定。
魔法の革袋:未来のロボットのポケット並の収納力。生物は収納出来ない。
使用者:ラル(限定)
収容物:金貨490枚
あ、本当に金貨10枚減ってやがる。
初投稿から速いもので一年経ってしまいました。
続けていられるのは、ブックマークして頂いてる方々、
読んでくださっている方々のおかげです。
これからも、筆は遅いですが、書き続けていこうと思いますので、
よろしくお願いいたします。