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次の対戦は?

23話目

ちょっといつもより長めです

 約束が増えちまった。

 何もない状態だったのに、また約束が一つ増えた。

 何でかなぁ……こんなに約束したこと有ったっけ?

 しかも全部が結構重いんだよなぁ……

 まあ、余り考えても仕方ないか、やれることをやるだけだし。

 一つ一つ積み重ねていくしか無いよな。

 一番はクロとの約束だな、これで4勝目。後5勝だ。

 というより、小犬族コボルドがあんな強いと思わなかった。

 RPGでいうと、ゴブリンの次程度の雑魚だと思ってたのに。

 ちょうどいいや、目の前にいるコイツに聞いてみるか。

「なあ、パンチたちは何でそんなに強いんだ?」

 我ながら、聞き方が下手だが仕方ない。

 元技術者なもんだから、営業並の上手い会話術なんてものは持っていないんだ。

「君に負けたのに、何でそう思うんだい?」

「そこまで強い個体じゃないって聞いていた。

 人数多くても、まあ大丈夫って思ってたのもあるかな。

 結果がコレだ。勝つには勝ったけど、ボロボロだ。

 想像以上に動きは速いし、攻撃は鋭いしな。

 正直な話、殺されると思った。

 この中じゃ相手を殺さないと出られないって言われてるからな。

 覚悟は有ったんだけどさ、どっか楽観的だったんだな。

 殺さなくても、出ていける。そういう感覚でやってた。

 真面目に殺されるかも、って思ったら形振りかまってられなかった。

 だから、挑発して、無理矢理一対一に持ち込んだ。

 パンチの武器は見えてたからな。棒なら、事故で死ぬ確率が低い。

 後は、パンチとの一対一は、クロと殴りあった時と同じような感覚だったな」

 長いし、説明になってないか。

「予想していたのと、中身が違いすぎたんだよ」

 つうか、これ以上言わせるな。なんか恥ずかしい。

「ふーん、僕らがあの巨人と同等かい?」

「多分な。前と今とじゃ俺の身体能力がかなり違うはずなのに、苦戦してる」

「でもさ」

 なんだ?

「僕らじゃ、君といい勝負が出来ても、あの巨人にはどうやっても勝てないよ」

 何言ってるんだ? 俺といい勝負しておいてそれはないだろ?

「まずね、僕らの攻撃は届かないんだ」

 なんだって?

「僕らの装備は、ナイフ、短槍、棒、クロスボウなんだ。

 近接武器は近付く前に、弾かれるだろうね。

 後は、クロスボウだけど、アイツのサイズからしたら小枝みたいなものだよ。

 多分、刺さらない。

 君くらいか、普通の人間相手にするには大丈夫なんだけどね」

 サイズの問題かよ。まあ、小犬族コボルドっていうくらいだからね。

 コイツのパーティー、小型から中型犬で揃ってたけど。

「これでも、小犬族コボルドの中では大きいんだけどね」

 そうか、そういうもんなんだな。

 そうだ、もうひとつ聞いておきたいことがあった。

「そういえばさ、パンチは魔法、使えるんじゃないのか?」

 そう、コイツの遠吠えで何か周りの奴らオーラ出てたじゃないか。

「身体強化の魔法みたいなの、使っただろ?」

「ああ、あれか。

 さっきも言ったけど、僕らみたいな獣人は外に出す魔法が不得手なんだ。

 君は別だと思うけど。

 僕らにだって、出来る奴はいると思うんだけどね。

 でもね、自分を強化することは出来るんだ。少しの魔力と、呼吸法で」

 RPGで聞いたこと有る、それ。

「その呼吸法をみんなが使いやすいように、遠吠えに変えてたんだよ。

 息を吸う量、吐く量、結構コレが気を使うんだ。

 遠吠えに載せてやれば、少しは楽に出来るから」

 何だっけ? 練体士……だった気がする。

「聞いてるか「聞いてる」

 イカン、喰い気味だった。

「聞いてないよね?」

「……スミマセンデシタ」

「まあ、良いよ」

「ところで、「無理だよ」

 まだ何も言ってないから。せめて最後まで言わせて。

「呼吸法は教えられないよ」

「何でだ?」

「君のはわからないから」

 ん? こっちまで混乱しそうだぞ。意味が解らない。

「呼吸法が有るのは知ってる。使い方も知ってる。

 けれど、僕らのやり方だと、僕ら以外に効果が無いんだ」

 なんだって?

「多分、僕ら小犬族コボルド専用なのかな?」

「専用?」

「そう、専用。僕ら以外が使っても同じようにならない、と思う」

「そうか、残念だ。

 時間取らせて悪かったな。

 この中でも良いし、外に出てからでも良いから、また会おうな」

「そうだね。僕らの方も楽しみと約束が増えたよ」

「そうだな。

 あ、それと、俺はリーダーって柄じゃないからな。

 パンチたちの群れに入っても、リーダーとかやらないから。

 その地位はパンチのものだから、コレも忘れないでくれ」

「う……できればやってもらいたかったんだけどな……

 はぁ……仕方ない、僕が引き続きやることにするよ」

「それのほうが良い。頼んだぞ」

「わかった。それじゃあ、僕はもう戻るよ」

「おう、またな」

「ふふ、変な話だ。僕ら奴隷なのにな。またな、なんて」

「そんなにおかしいか?」

「君以上におかしな存在はいないと思うから、普通じゃない?」

 失礼だな。

「それじゃあ、今度こそ……またね」

 パンチは出て行った。


 パンチがいなくなった後、しばらくしたら先生が戻ってきた。

「よう、犬同士なかなか話が弾んでたじゃないか」

「俺は犬じゃねぇ。このヤブ医者め」

「フルネームで呼ぶんじゃねぇよ。

 それで、またアンタに客だ。人気者だなアンタ」

 今度は誰だよ、そろそろ話疲れたぞ。

「うむ、取り込み中にすまない」

 レンさんか。なんの用だろう。

「怪我の具合はどうだ?」

「見りゃわかるだろう? 台に磔にされたままだよ。

 このままじゃ、ろくに動けやしないよ」

「そうか……いや、こんな状態のラルに言うのは少し酷なんだが……」

 珍しいな、言い淀んでいる。

「お……き……」

 何かモゴモゴ言ってるみたいだけど聞き取りづらいな。

「この際だからはっきり言ってくれて構わないですよ」

「はぁ……気を使わせてしまったな、情けない。

 それじゃあ、お前の次の対戦が決まった。

 日時は今から10日後、準備しておくように」

 準備も何も有ったもんじゃないんだけどな。

「俺はそれを認めることは出来ない」

 黙って聞いていたヤブ医者が何を言い出すんだ?

「コイツを治療した者として言わせてもらう。

 対戦空きの期間が10日は短すぎる。

 余裕を見たら30日、短くても20日は休まないと駄目だ」

 おお、何か医者っぽい。

「20日後か? いや、でも、ココのオーナーからの要請でな……

 10日後に最近上級に上がってきた冒険者がお前との対戦を、と言われてな……

 ココのオーナーが二つ返事で了解しちまった」

 なにそれ? いくら積まれたのかな?

「挑戦料、金貨50枚……」

 俺の全財産超えてるからね、その価格。

 確か、2試合前の時点では全財産で銀貨3枚だったよな。

 イカン、考えがそれた。

「それで、俺と対戦するとどんなメリットが有るんだろう? ソイツら」

「一応、ラルの名前はこの街に知れ渡ってる。巨人殺しで」

 不名誉な二つ名だ。

「ダークトロール相手にするには、普通、中級位の5人のパーティーが基本だ。

 ラルはそれを一人で倒してる。

 ソイツを倒したとなったら、名前が売れるんだ」

「満身創痍のヤツ倒しても名誉はもらえるもんなのかね?」

「どんな奴を倒したかに意味が有るんだ」

 はぁ、じゃあ、売名行為のために金貨はらって、俺に対戦申し込んだワケだ。

「普通なら受けたくないけど、二つ条件付きで良いなら受ける」

 そう、条件付きだ。

「まず、挑戦料の3割、金貨15枚俺にくれ」

 コレが一つ目。

「次に、相手が俺に殺されても良いなら、対戦を組んでも良い」

 コレが二つ目。多分動き回ることは難しいから、全力で魔法ぶっ放す。

 良くて部位欠損、かな?

「それが飲めないなら、金貨叩き返して俺の体調が万全の時に挑戦してこいって言っておいて」

 さあ、どう出るかな。

「一つ目の金貨は、多分無理だな」

 回答はや!

「二つ目は、まあ、覚悟のうえだろう?

 対戦場に入ったら相手を殺さないと出られない、そう言ってある。

 怪我してるヤツ相手に売名行為しようとしてる奴なんかヤられても大丈夫だ」

 ワカリマシタ。ココでのライセンス、謹んで受け取りましょう。

「じゃあ、対「ちょっと待て!」

 何だよヤブ医者。商談中なんだから入ってくんな。

「だから、お前を治療したものとして、認められないと言ってるだろう?」

 何言ってんだ? あんなぶっとい物でザクザク刺したくせに治療というか?

「なんで不思議な顔してんだアンタ。

 一応アンタ患者、そして便宜上俺は医者。

 だから俺の言うこと聞け!」

「あー……ダイジョウブ、次はそんなに動き回ることはしない……ハズダヨ?」

 全力で魔法ぶっ放す予定だからね。

 遠くから予想もできないほどの威力の魔法を。

「アンタが何考えてるかわからないが、動かなくても良いなら今日も怪我するわけがないだろ?」

 隠し玉が有るんですけど、言えないよなココでは。

「アンタ近接戦闘専門だろ? そんな奴が動かないで戦えるわけないだろう?」

 いっそのこと言っちまおうかな、魔法のこと。

「怪我が治るまで俺の見立てで約20日、早くても二週間だ。

 それまでは医務室から出すわけにはいかん」

 面倒だな。良し、無視しよう。

「それじゃあレンさん、対戦組みよろしく」

 無視して話を先に進めなければ。美味しいエサが逃げていってしまう。

「だから! アンタ、俺の話聞いてる? 怪我人出せるかよ!」

「はぁ……ヤブ医者、ちょっと良いかな」

 仕方ない、正直に話すか。

「レンさんが出てったら正直に話すから、俺の奥の手も含めてさ」

 小さい声で話しかけた。

「あん? それはさっきの動かないって言う説明でいいのか?」

 一応小さい声で返してくれる。アツくなってそうで、実は冷静じゃないかこのヒト。

「そう、動かないための秘策が有るんだよ、俺にはさ」

「レンに聞かれるとマズイのか?」

「う……秘密にしてくれるとは思うけど、余り多くのヒトに喋りたくない。

 直接戦闘に関係しないヤブ医者に話すのは多分ダイジョウブ」

 戦闘に関係しそうなヒトには喋りたくない内容だしね。

「そうだな、レン。ちょっと席を外してくれないか?

 コイツに考えなおさせるためにちょっと説教するから」

 何言ってくれてんのこのヤブ医者は?

「ああ、そんなに時間はとらせない。すぐに終わるから、ちょっと席を外してくれ」

 適当な事言ってんじゃないよ。

「聞かれるとマズイ内容なのか?」

 察しが良すぎます、レンさん。

「普通なら、席は外せないが……そろそろタバコ吸いたかったんだ。

 少し外すから待っててくれ」

 それだけ言ってレンさんは出て行ってしまった。

 何だよこの茶番。

 まあ、いいや。これで話せるな。

「ココにも灰皿は有るんだけどな……いいか。さて、聞かせてもらおうか」

 聞く体勢に入ってくれるなら何でも良いや。

 単刀直入に行こう。

「俺は魔法が使える。多分、ココの中では規格外の」

「よし、意味がわからん」

 話聞いてた?

「見てもらったほうが早いと思うから、ちょっと拘束外してくれるか?」

「何で拘束はずさなきゃいけないんだ?」

「コレ着いたままだと魔法使えないんじゃないの?」

「それは嘘だ」

 しょうもない嘘つくなよ。仕方ない、このまま行くか。

「それじゃあ、俺の右手側、少しどいてくれないか?」

 軽くで良いか。指を出して、弾丸のサイズ、スピードを想像する。

 イメージが固まった所で、放つ。

「火矢」

ーパンッ!ー

 炸裂音、良し。イメージ通りかな。

 顔を動かして壁をみる。小さいけど、穴が開いているかな?

「何だ? 今のは?」

「火魔法」

「いや、火矢ってのは、矢の形した炎が出て行くだけじゃないのか?」

「イメージの違いじゃないか?」

 矢というより、俺の場合は火砲に近いか。

「コレを使うのか?」

「コレで軽くのつもりだよ。本番はもう少し威力が上がると思う」

「相手が可哀想になる」

「だから、殺してももいいか? って聞いた」

「良いのか? アンタ相手を殺さないようにしてきたんじゃないか」

「こっちが殺されるよりかマシ、だと思う」

「それでも、アンタ自身は大丈夫なのか?」

 心配してくれてるのか、良い人だ。

「万全なら、こんなの使わなくても、殺さなくても無力化出来るだろ?」

「多分出来るよ。万全なら使わなくても気絶はさせられる」

「なら、万全にしてからで良いじゃないか」

「相手の希望を聞いてやるんだから、文句は言わせないよ」

「アンタ、本心じゃないよな?」

「頼むよ先生、ワガママ言うのは多分コレで最後だ」

「アンタが壊れる、アンタの大事なものが壊れる」

 何だよ、食い下がるね。

「本当に良いのか? アンタがそれを受け入れられるだけの器があると思えない」

 何を言ってるんだ?

「アンタ、争いに慣れてないだろ?」

 う……ソレを言われると黙ってしまう。

「それに、何かアンタ、違うんだよ、根本的に」

 勘が良いね、ヤブ医者。

「何が違うって聞かれても、答えられないけど、違う。

 ヒトらしいと言えるかもしれないけど、知性の有るやつは普通に出来ることだ。

 馬鹿らしいと思うが、ココとは違う所から来てるんだろ?」

 うーん……あまり話せる内容じゃないしね、俺のことは。

「でもさ、ヤブ医者。いや、先生か。

 先生、前に俺に気を使ってもらったじゃないか、俺がヒトを殺しても落ち込まないように。

 まあ、多分、現実になったら俺は落ち込むだろうな。

 だから、その時は先生を頼るよ、頼らせてよ、唯一気を許せる大人として信頼してるんだから」

 まあ、本心だ。上手い営業トークは出来ません。

「殺さなきゃ、考えなくても良い事じゃないか……」

 つぶやくように、先生はそれだけ言った。

 聞かせるつもりはなかったのかもしれないけど、聞こえてしまった。

「難しいだろうなぁ……

 なんせ相手は上級の冒険者だもの。

 実力差なんか無いだろうし。

 多分、俺のことは殺すつもりで来るだろうからね」

 意識の違いでやられるのだけは勘弁だなぁ……

「そうか……殺されないよう気をつけるんだな、この糞ガキ」

 糞ガキ呼ばわりかよ、口悪いな。

「そんで! 絶対! 戻ってこい!」

 いきなりでかい声出すんじゃねぇよ。

「オイ! レン、そこにいるんだろ! さっさと対戦組んでこい! 俺が許可する!」

「先生……良いのか?」

「さっきも言っただろうが、二度と聞くんじゃねぇよ。

 まったく……何でこんなことになっちまったかな……

 おい、約束しろ。絶対戻ってくるって」

 また、約束だ。まあ、受けてやろう。

「戻ってくるよ、約束、だ」

 また増えたな。

「何度も話してるうちに情が移っちまったみたいだな。

 贔屓してるように言われるから、避けてきたんだがなぁ……」

 悪いことしたかな?

 まあ、俺としたら前向きな約束が増えたことは喜ばしいな。

 モチベーションも上がる。約束守るために気合も入る。

 さて、約束を果たすためにも、少しでも休んで傷を癒やすとするか。

 それに、少し話疲れた。

 もう寝ちまうか……

「まあ、先生との約束果たすためにそろそろ休むよ」

 つうか、休ませてくれ。

 もう、今日は疲れた。寝る!

読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク数、PV数、共に創作の励みになっております。

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