4回目の対戦 前編
19話目
コロッセオに出てきた。
うん、天気が良いし気分が良い。
でも、なんかいつもと違う。何故だ?
ああ、そうか。俺より先に対戦相手がココに出ていたんだ。
1、2、3、4匹か? 4匹パーティーかね。
小犬族ってどんなのかと思ったら……小型〜中型犬サイズの犬が二足歩行してる。
よし、いつものように遠吠えでもしておくか。
「ウォォ『アオォォォォォーン』ーン」
一匹のコボルドに遠吠えかぶせられた。
『『『アオォォォォォーン』』』
他の三匹も一匹に応えるように遠吠え。
ココに開始の合図は無い。けれど、スイッチが入ったのを感じた。
『アオォォォォォーン』 『『『アオォォォォォーン』』』
再度、小犬族の遠吠え。
前の三匹に何か青っぽいオーラ出てない?
そう思っているうちに三匹が一気に距離を詰めてきた。速いぞこいつら。
距離を詰められてるうちに相手の装備を確認。
二匹はナイフ。もう一匹は多分短槍。体のサイズ的に普通の槍に見えてしまう。
ナイフの二匹が速い。左右同時に斬りかかってくる。
上体をそらすことで間一髪避けれ……いや、こいつら囮だ。思い切り殺気出してるのに囮かよ。
本命は槍だ。バランス崩したところで足を狙われてる。
くそ、転倒覚悟で思い切り後ろに飛ぶしかない。
思い切り後ろに飛ぶ。槍は当たらないが、バランス崩していたからコケた。
早く体勢整えないと。
後転の要領で転がって前に向き直る。
ヤバイ。もうナイフの二匹が目の前まで来てるじゃねぇか。
余り使いたくなかったけど魔法使うしかない。
目をつぶって……ヤバイ、コレ恐い。早く唱えないと。
「閃光!」
『『『キャン!』』』
無駄にデカイ声で叫んでしまったが、三匹の悲鳴みたいな声が聞こえた。とりあえず成功か。
相手が目を眩ませている間に体勢を……あれ? 左肩が……痛い?
左肩を見ると矢が刺さってる。何だよ、コレ。
『アオォォォォォーン』
奥に陣取ってる奴が遠吠えをする。
『『『アオォォォォォーン』』』
三匹も遠吠えを返す。白いオーラに包まれた、と思ったら普通に目を開けて俺を見てる。
何だよ、あの遠吠え……状態異常をかき消せるのか?
とりあえず三匹から距離を取らなければ。
そう思っているうちに風切り音が聞こえた。
ヤバイ、今すぐに動け! 不格好だが横に飛ぶ。俺のいた場所に矢が飛来し突き刺さる。
何だよこいつら、四匹パーティーじゃないな。
飛びながら矢を左肩から抜く。痛い。
再度三匹が俺に詰め寄る。
今度は三匹とも無駄に吠えながら俺に向かってナイフと槍で攻撃してくる。
吠えて威嚇しながらこっちの判断を鈍らせようとしてる。
狙いはわかるんだが、どうにも上手くいかないな。
こいつらを止めるにはどうしたら良い?
攻撃を避けて、避けて、避け続ける。このままじゃ俺が疲れてやられるのが目に見えてる。
何か打開策を出さなければ。
左腕に何かが突き刺さる感触。
矢が刺さってる。どっかに居る射手を討ち取らないと体中に矢が刺さりそうだ。
こうしてる間にも三匹の攻撃は止まない。何だこいつら、強いじゃねぇか。
何が強い個体じゃないから大丈夫だ、ケイのやつ後でヤキ入れてやる!
それにしても、めんどくせぇなコイツら。
右から来たナイフを持った小犬族の頭目掛けて右拳を振るう。
ーゴツッ!ー
『キャン!』
鈍い音と甲高い痛々しい鳴き声が聞こえたな、次だ。
反対側の二匹目を殴ろうとした所で、左手に矢が刺さる。
矢の勢いと痛さに負けて、拳が止まる。その隙をついて左側の奴が足を切って行く。
痛ぇな、この野郎。
右側に通り過ぎていった奴に思い切り蹴りを入れてやる!
狙いどおり? にナイフの奴の脇腹あたりに俺の蹴りが入る。
『ギャイン!』
二匹目! 次だ!
ードスッー
そう思っていたが脇腹に違和感。
蹴りを入れている間に槍が俺の脇腹に刺さってる。
あ……ヤバイ……抜こうとしてやがる。止めないと……
抜こうとしている槍を左手で掴んで抜かせない。
コレを抜かれたら出血が多くなっちまう。抜かせるかよ!
槍を持ったままその場で思い切り回転する。
小型犬だからか、そこまで重さは感じないが動く度に槍が少しずつ動いて凄ぇ痛い。
更に回転速度を上げるそろそろ放せ。良し! 槍を手放した。
離れたところに着地した奴に一気に詰め寄り、首辺りを思い切り蹴る。
『ギャン!』
三匹目! ココで一気に叩く!
最初に殴った奴が立ち上がってこっちに向かってきている。
ナイフを持っているけど、構うものか! こちらから一気に詰め寄る。
間合いを詰めると予想外だったのか動きが止まった。
あんまり使いたくなかったけど仕方ない。
相手に殴るモーションを見せる。うん、後ろに下がって避けるよね。
狙い通りだ。
腕が伸びきった所で前に出ようとしている奴に拳の向きを変え、足を狙う。
「火矢」
炎の矢が飛んでいく。良し、足に当たった。
巻藁に突き刺さるくらいだからな。しばらく満足に動けなくなるだろう。
『キャウン!』
やはり痛々しい声。当たると同時にその場でコケて足を抑えてもがいてる。
俺が動物虐待してるみたいで良心が痛むじゃないか!
こういう場所なんだから仕方ないよね。思考を切り替えなければ。
コイツはしばらくは動けないだろうから、前衛はあと二匹。
脇腹に蹴り入れた奴に詰め寄る。
あ、コイツ完璧に戦意をなくしている。
耳は伏せられ、尻尾が丸まって足の間に入ってる。
流石にコレに追い打ちはかけられ……いや、かけとこう。
下手に戦意を回復されたら困るから。
顔面目掛けてヤクザキックを入れておく。
『キャウン!』
「俺に近づくな!」
『キュ〜ン……』
ここまで恐がらせておけばもう来ないだろ。
後は槍の奴だ。
ソイツの方を確認したら、完璧に伸びてる。
ん? 蹴りで意識を刈り取っちゃったかな?
良し、残るは大将と、隠れているだろう射手だ。
大将の方に向き直る。
前衛がやられてるのに動揺が少ない?
まだ堂々としている感じがする。
流石だね、大将ってのはそういうもんだ。
『アオォォォォォーン』
また遠吠えか。だが返す気力の有る前衛はいないぞ。
そんなことを考えていたが、違った。
大将の体が一回りでかくなってない?
何だよあの遠吠え、自身の強化まで出来るのかよ。チート能力じゃねぇか。
そんなことを考えているうちに大将の接近を許してしまった。
手には棒? これがコイツの武器なのか?
見ていたら急に棒の先端がでかくなった気がした。えっ? 何が起きた?
眉間のあたりに強い衝撃。
突きを食らったのか?
ヤバ、頭クラクラする。
突きの軌道が見えなかった。気づいたら目の前に棒が有って、攻撃されてたって感じだ。
槍を使われてたら死んでたな、俺。
ヤバイ、軽く意識が飛んでたかも。相手に動きは……無いな。
見た目が小犬だからってどこか舐めてた。コイツら歴戦の戦士だ。
前衛やってた奴らも多分、かなり高レベルの使い手だと思う。
そんな奴らをまとめてる奴が弱いわけ無いじゃないか。
更に射手まで後ろに控えてたら俺に勝ち目がなくなっちまうな。
どうすっか……そうだな、クロみたいにしてみるか。
「なあ、大将。俺と一騎打ちしてくんないか?」
問いかけてみる、反応してくれ。
「大将、アンタこの中で一番強いんだろ?」
すね当て、グローブを外しながら問いかける。
「アンタにやられるなら本望だが、矢で撃ちぬかれてやられたら俺に悔いが残っちまう」
軽装の武具を全て外す。乗ってこい。
「アンタは武器使って良いからさ、一騎打ちしてくれないか?」
何も付けてない状態で手を横に広げて問いかける。
乗ってこい、頼むから。
『お前の名前はなんて言うんだ?』
乗ってきたか? まあ良い、答えてやろう。
「ラル、だ」
答えると同時に左足に何かが突き刺さる、射手の矢だな。交渉決裂か?
『何をしている! 話してる途中だぞ!』
お、射手を咎めている。コレはきてるか。
『お前と一騎打ちしても、僕らに利が無いじゃないか!』
「そうだな、利は無いかもしれない。でも、アンタの誇りはどうなんだ?」
『誇……り?』
「そうだ、誇りだ。
アンタは指揮する者として、部隊の半数近い人数を失った。
隠れてる射手のおかげで勝ちましたって胸はって言えるかい?
俺なら言えないな。
それにココに来ている人間共はそういうとこ敏感だぞ?
射手が隠れて相手を倒すパーティーじゃあ、戦闘がつまらないってな。
ヘタしたら対戦を干されるかもな?」
『それでも! お前を殺さないと僕らがいた部屋にも戻れないって言われてるんだ!』
そんなことは無いだろう? 俺は現に今まで殺してない。
対戦相手だって自分の部屋に戻ってる、ハズだ。
そんなことを考えていたら右足に矢が刺さる。痛いんだけど!
「イッてぇな……
それに俺は今まで、対戦相手を殺して無いのが売りでね。
後ろで伸びてる奴らも怪我はしてるが死んではいないぞ」
『何言ってるんだ! お前は巨人殺しだろ! アイツらだって殺してるんだ!
巨人を殺せるような奴に飛び道具使って何が悪い!』
おおぅ……小犬族にまで巨人殺しが広まっているのか……
つうか、クロ本当に死んでないよね? ここまで巨人殺しって言われると心配になるんだけど。
「疑うなら確認すれば? 死んでないよ。
俺は手を上に上げてるよ。変な動きしたら矢で撃っていいから」
後は敵意は無いですよアピールだ。一騎打ちに持ち込んだら後は思い切りヤルだけだから。
矢が刺さってるところはしばらく我慢だ。痛いけどね。
俺の横を通りすぎて前衛の三匹を確認している大将。死んでないだろ?
『確かに、生きてる』
少し驚いてるな。そんなに俺って対戦相手殺しそうか?
「生きてるだろう?
一騎打ちしてくれるならソイツらにはこれ以上手を出さない。
決裂するなら、俺は死ぬだろうから、一匹でも多く道連れにする」
半分くらいは脅しだ。本気で殺す気は無い。
コイツらは多分全員揃って戦うからかなり強いと思う。
一匹でも欠けたらこの先辛くなるだけだろう。そんなことにはしたくない。
『分かった。その一騎打ち受けよう』
「有難い。俺はもう伸びてる奴らに手は出さない。約束だ」
『勝敗の決め方は?』
「戦意を無くさせる、相手を気絶させる、コレくらいで良いんじゃないか?」
『分かった。こちらが勝った場合、お前はどうするんだ?』
「ああ、強い奴に負けるんだったら悔いはないな。
クロとの対戦は出来なくなっちまうが、殺してもらえるか?」
『お前が勝った場合は?』
「何もないな。俺は対戦相手を殺す気なんて無いし。
全員伸してしまえば俺は帰れるから。
後は……俺は魔法は使わないから」
『ハンデのつもり?』
「規格外なんだよ、俺の魔法。加減が出来ないんだ」
『たかがLv.5の魔法じゃないか』
手を銃に見立てる。俺の足元に照準を定めて、引き金を引くイメージ。
「火矢」
パンッと軽い炸裂音と、俺の腕への反動。
そして俺の足近くに開いてる大きめの穴。
「コレでも普通かな?」
『普通じゃないね。どうしてコレを使わなかったのさ?』
「下手しなくても死んじゃいそうじゃないか、この威力じゃ」
『変な事言うんだね』
変と来たか。まあ、俺は変なんだろうな。
さっさと終わらせて、出て行けばいいのにって皮肉込みか。
それでも、相手の命を奪うのはちょっとな。
『なあ! みんな、出てきてくれるか!』
大将が呼びかける。二匹茶色いのがコロッセオの隅の方から出てきた。
手には簡易的なものだが、ボウガンが握られている。
『これから僕はこの獣人と一騎打ちをする。手出しは厳禁だよ
それと、向こうで伸びてる奴らを看病しておくように。
あと……僕が負けたら、降伏するように』
「良いのか?」
『コレ言っとかないと、僕がやられた時点でメンバー全員が襲いかかってくるもしれないよ』
ソイツは恐い、やめて欲しい。
「始める前に……大将、アンタの名前を教えてもらえるかい?」
『僕は、パンチ』
「パンチ……ね。覚えておくよ」
それじゃあ、準備しないとな。とりあえず、体に刺さった矢を抜かないとな。
んっと……やっぱ痛い。もう一本やらなきゃな。あ”〜痛い!
よし、コレで準備完了。
矢傷からも脇腹の傷からもまだ血が出てるが、気にしない。
俺もクロのことは馬鹿に出来ないな。
コイツとの一騎打ちが楽しみで仕方がない。
さあ、やろうか、一対一の勝負を。
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決着付けれなかった……