4回目の対戦 準備
18話目
次の対戦が楽しみだ。そう思っていたんだけどな。
あの魔法の練習してから多分1週間位、何もない。
いや、マジで何もないんだよ。
今までの対戦のペースは何だったんだってくらい、何もないんだ。
え? 俺自身は何してたかって?
魔法のイメージトレーニングと、軽い筋トレ位しかやれてない。
この前の、ボウガンのイメージが早く出来るように練習したは良いんだけど、あれって一度出来ると威力の固定しやすくなるみたいで、何度も普通に出来た。
そんなことも有ったから、かねてから考えてた筋トレをやってみたんだけど、流石異世界人、流石異種族って感じでいくらやっても疲れないし、翌日筋肉痛にすらなりもしない。ステータスにインフラ起きてるせいかもしれないけど、2〜3日で飽きてしまった。しかもステータスに変動は無し。
続けてれば何か変わるかもしれないけれど、なんだか馬鹿らしくなってやめてしまった。
さて、どうしたものかね。何か暇つぶしでも考えないとな。
そんな感じで考えていたら、俺の檻の前に誰か来たな……レンさん?
「おい! お前の対戦相手が決まったから伝えに来た!」
レンさんじゃねぇし、でかい声出さなくても聞こえてるから。
「今日より1週間後、対戦となる。準備しておくように!」
準備って言ったって、俺はこのまま対戦場所に向かうだけなんだから、準備のしようが無いんだよ。
「それと、今回は今までとは違う者を相手にしてもらう!」
違うものって?
「何人かの集団……パーティーとの対戦だ!」
多人数に一人で喧嘩売れってことかよ。
「まあ、そこまで強い個体の集団では無い、巨人殺しのお前なら大丈夫だ!」
ああ、俺の知名度は巨人殺しで定着してしまいそうだ。と、いうか、
「そんなことまで俺に話しても良いんですか?」
「これくらいなら問題ない!」
そうですか。というか、さっきから声デカイ。
「歴史上何人目かの10連勝するかもしれないやつだから注目されているぞ」
俺の前に何人かはいたんだよな。ソイツら全員出れてるよね?
まあ、今は目の前の対戦に集中するとしようか。
「何でも、小犬族のパーティーだ!」
種族まで言って良いんですか?
「これも、言っても問題無い!」
この世界の人々は俺の心を読むんですね。
「お前の表情はわかりやすい。獣人の表情を読むのは難しい筈なんがな」
そうかぁ……俺の表情はわかりやすいか。チクショウ、ポーカーフェイスが欲しい。
「まあ、何にせよ戦闘は来週だ! 伝達事項は以上だ!」
多分1週間経ったんだろう。この前のヤツともう一人来た。うん、レンさんだ。
「待たせたな! それではこれからお前をコロッセオに連れて行く!」
やっぱ喋るのは声がデカイほうだ。疲れるから静かにしてくれないか。
「噛み付くなよ! 俺は美味くないからな!」
噛まねぇよ。つうかお前俺に怯えてたんかい。弱気な発言デカイ声で言わなくても良いのに。
檻に入ってきた。デカイ声からは想像も出来ないくらい怯えてるのが分かっちゃった。
凄く足が震えてる。生まれたばかりの子鹿と言った感じで俺に近づいてきてるし。
少しからかってやろうか。微妙に届きそうで届かない位置で思い切り威嚇してやるか。
よし、もう少しコッチに来い。後一歩だ。良し、ココだ!
「ガアアァァァァァァア!」
「ひぃぃぃ! 噛まないで!」
情けない声とともにものすごい勢いで部屋の隅まで後ずさる。
よっしゃ! 成功した。後ろでレンさんが笑いを堪えてる。俺も笑いを堪えるのに必死だ。
「ははははは!」
レンさんが笑いを堪えきれなくなったか。
「ちょ! レンさん! 笑い事じゃないですよ! こっちは噛み付かれそうになったのに!」
声のデカイ奴が抗議してる。少し涙目だ。
「ははは……悪い悪い。おい、ラル。余りからかうんじゃない」
「ははっ! レンさんにはバレてたか」
お互い笑っている中一人取り残されてる奴がいるが関係ないか。
「いやぁ、入ってきたのを見た時の顔が新しいおもちゃを貰った子供に見えたもんでな」
何だ、やっぱ顔に出てたか。
「おい、ケイ。コイツは噛み付きはしないぞ。あのコウにもココでは噛み付かなかったしな」
笑いをこらえながら諭してる。
「でもコウは戦闘でボロボロに……」
「ケイがあまりにも怯えてるもんだから、少しイタズラしただけだ」
そうだぞ。噛み付いても良いこと無さそうだしな。
「それに、コウの場合は自分で志願してラルと戦闘を行っている」
「いや、俺が無理矢理そうさせたつもりだったけど……」
「それでも、だ。コウはラルとの戦闘を承諾してあの場に立ったんだ。
それに、ラルは無闇に俺達に敵対して傷つける訳がない」
おお、いつの間にか俺の評価がレンさんの中で上がってる。
「あと、以外と良い奴だ」
以外が余計だな。
「知ってるか? 本来あそこに立ったら相手を殺すか、死なないと出てこれないんだぞ」
なんだ? 医務室の先生が言っていたのと似たような事言ってる。
「最初のゴブリン3匹は殺したが、2戦目、3戦目は死んで無いからな対戦相手」
「一応レンさんから頼まれたからね。コウを殺すなって」
「あまり大きな声で言わないでくれ。アイツを止められなかった俺が悪いんだ」
そういうものかね。有る意味理想の上司みたいな人だな。
「でも……」
「良いか、ケイ。あそこにいるのは拳闘奴隷ではあるが犯罪奴隷ではない」
どういうことだろう? 犯罪奴隷と俺は違うんだろうか?
「意思疎通の出来る相手を殺すことに忌避感を持っている。普通の人間と同じだ」
おお、こんなケモノを見ながら人間と言ってくれている。
そうか、見た目はケモノだけど人間か。なんか嬉しい。
「そういうわけだ。
お前があまりにも情けなく怯えているからイタズラしただけだから、余り恐がらないでやってくれ」
うん、有難い。人の親切が身にしみるね。ヤバイ、何か泣きそうだ。
「ということで、余り無闇に恐がらせないようにしてくれるか?
こう見えてコイツは臆病なんだ、頼む」
「レンさんにそこまで言われたら仕方ないなぁ……」
つぶやいて、考える。俺の見た目も相まって怖がらせてるんじゃないか?
それなら、アレを使ってみるか。
俺の中でイメージを固める。歳相応の姿を思い浮かべ、つぶやく。
「変身」
一瞬で俺の見た目が変わる。出来損ないのコスプレみたいな子供の姿に。
あれ? レンさんもケイも俺を見ながら唖然としてる。
レンさんには前に見せたでしょう、変身。
あ、あの時は子犬になるやつだったか……まあ、いいか。
「コレなら恐くはないだろ?」
子供の姿で問うてみる。
「ああ……うむ、恐くは無いな」
レンさんが微妙な反応を見せる。どうした?
姿を確認。うん。コスプレグッズのような手足がついてる。成功してるだろう。
「ちょっと待ってくれ……なあ、ラル、だよな?」
レンさん何で疑問形ですか? 目の前で姿を変えたでしょう?
「済まない。確認させてくれ。ラルで良いんだな?」
「そうですよ」
「子犬以外にも姿を変えられたのか?」
「一応、さっきまでの人狼形態・オオカミ形態・子供形態の3種類」
「そうか、なら、まあ問題は無い……かな?」
「問題ないならコロッセオに行きましょう。時間を使いすぎたかも」
「そうだな。おい、ケイ、移動の準備をしろ。この姿なら恐くないだろう」
「え? はい。わかりました」
良かった。問題にはならなかったか。
ケイのやつもさっきまでの怯えようは何だったのか、普通にしている。
まあ、変身は成功か。
この後は今までと同じように、足かせ、手かせを外される。
手かせを外された後に手錠を付けられたが、外れはしないがブカブカだ。
やっぱり手も細くなるみたいだ。
手錠についてる鎖をひかれて、いつものように歩く。
いつもの準備室だ。中に入ると入った扉が閉められた。
扉の穴から手を出して手錠を外してもらう。
「変身」
自分の形態を人狼状態に戻しておく。試したこと無いから、子供形態で戦闘はしたくない。
いつものようにグローブとすね当てを取付けてコロッセオに向かう。
相手は小犬族って聞いたけどどんな奴らかね。
出口が見えた。さあ、久しぶりの外だ。
少し足早に外に出る。うん、今日もいい天気だ。
空も青いし気分が良い。さあ、戦闘しよう。一日も早くここから出るために。
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