変身 ぱーと2
医務室での出来事パート3
何か解剖がどうとか怖いこと言ってる先生はとりあえず放っておこう。
にしても、何だ、体が少しだるいかもしれない。
不思議に思って、自分の体を見なおしてみる
毛並みが心なしかツヤが無くなってる。どうなってる?
「見事なまでに変わるもんだな。その格好と、オオカミ形態にしかなれないのか?」
あっちの世界に行ったままだと思ってた先生が帰ってきた。
「何を言ってるんだ?」
「いやいや、ドラゴンがヒトになる話はしたろ?
ドラゴンがヒトになれるなら、アンタでもヒトになれるんじゃないかと思ってな。
ドラゴンだって鱗が綺麗に消えるんだぞ? 体毛が消えても不思議じゃないよな」
「変身って、一つの形態にしかなれないんじゃないのか?」
「ん? 俺は魔法とかに詳しくないからそこまでは知らん。何に、って限定されてるもんなのか?」
何を言っているんだこの先生は……
いや、ちょっと待てよ、確か変身の鑑定結果は……
※変身;変身することが出来る
確かに、何にって限定されてないな。変わる姿は一つじゃないってことか?
試してみる価値は有る、かな?
試してみたいが、どうも体がだるく感じる。
魔法を連続で使用し続けた感覚に近いかもしれない。
明日にしよう。危ういことはことは避けるべきだ。
それよりか、ヒトに変身できるモンスターはいないかね?
ヒトに変身する極意でも教わりたい。
「誰か、ヒトに変身できる奴に心当たりはないかな?」
「ん? アイツは……ココで暮らしてるわけではないが、一応いる。」
「できれば、ヒトになる方法を教えてもらいたい。橋渡し出来ないかな?」
「ココの中では、外の人間に会うことは出来ないぞ。」
そうだった、忘れかけてたけど、俺って奴隷なんだよな。
「それじゃあ、外に出れたらお願いするよ。先生にこれ以上の迷惑かけられないしな」
「出れたら……ね」
ん? 含みが有るな。まあ、10連勝してやるから見ておけ。
それに目標……いや、約束か。クロとの約束があるし。
まあ、変身っていうスキルを手に入れたんだ。そのうち使いこなせるようになるだろう。
よし、このまま何度も変身するとぶっ倒れる。つうコトで明日もう一度試してみよう。
今日はこのまま寝てしまおう。
翌朝、だと思う。相変わらず時間なんてもんは解らないけどな。
ここ何日間かいる医務室内だ。枷とかつけられていないだけで、十分快適だ。
よし、怠いのは無くなったな。
やってみるか、よくイメージしよう。
自分の姿。座ったまま目をつぶってイメージする。
うん? 何か三つイメージが出て来てる。
一つは多分、今の俺の姿だと思う。顔が狼だし。
もう一つは、子犬? 狼の幼体? 多分昨日変身した姿だろう。
最後の一つは、何か影になっててよくわからない。多分ヒトだと思う。
もう一度深くイメージしなおす。
転生前の俺自身をイメージする。うん、おっさんが出てきた。俺だ。
歳相応にしてみよう。確か13だったよな。
昔の俺をよくイメージして。そう、確かこんな感じだ。
イメージが固まったところでつぶやく。
「……変身」
目を開ける。自分の姿を確認してみよう。
お、腕が肌色だ。
足も確認。太ももから足首辺りまで肌色だな。
触ってみようとして、手を持ってった時に違和感があった。
うん、手がケモノ?
慌てて足を見てみる。足首から先がケモノだ。
顔に手を当ててみると、多分顔もヒトに近くなってるが、耳が横にない。
恐る恐る頭の方に手を持って行くと、頭の上の方にケモノ耳の感触。
誰か、俺に野郎のケモノ耳の需要を教えてくれないか?
イカン、現実逃避してる場合じゃない。もう一度確認しよう。
まずは手。手首まではヒトっぽいけど、その先はケモノだ。デフォルメされてるように見える。
安っぽいコスプレグッズつけてるみたいだな。外せないけど。
そして足、足首までは多分ヒトのそれ。足首から先は、ケモノだ。
期待を裏切らず、これも安っぽいコスプレグッズのようだ、外れないけど。
手のひら、足の裏に肉球まで付いているといるこだわりようだ。
外せないんだよなこれ。どう見ても俺の体についてるし。
手の肉球触ってみたら感触有るんだもの。そのほうが驚きだよ。
「生きてるか〜? って、誰だオマエ?」
お、先生だな。俺はどんな感じになっている?
「おい、ココにいた狼面の兄ちゃんどこ行った?」
またこの流れか。さっさと正体明かしておくか。
「その狼面の兄ちゃんが俺なんだか?」
「嘘つけ、どうみても仕草がおっさんのアイツがオマエみたいなガキなわけねぇだろ!」
この野郎、俺のことおっさんって言い切りやがった。中身は33だけどね。
「変身」
変身するのって疲れるんだから何度もやらせんなよ。
「うお、なんだアンタか。獣人っぽい格好したガキはどこに隠した?」
「だから、それも俺! 練習してたんだよ」
「マジかよ、アンタ年齢いくつなんだ?」
「13」
「13って、ガキじゃねぇか!」
「うん? ココって成人として扱われるのっていくつからなんだ?」
「15だ」
「仕事できるのはいくつからなんだ?」
「一応、仕事は10歳から出来るはずだぞ」
「じゃあ、問題ないな。10は超えてるし」
「あのなあ、その仕事も危険の少ない仕事ならっていう条件付きだぞ」
「奴隷なんだからその限りは無いんじゃないか? 早く自由になりたいし」
そう、早くこんな薄暗いところから出て行きたいんだ。
多少危険がつきまとうとしても、これが一番の近道なんじゃないか。
「まあ、奴隷にその制度があるかどうかは知らないが……
炭鉱とかで働くでも、15以上っていう条件がつくんだぞ?
確かにただ働くだけじゃあ、自由になんてなれないかもしれないけれど……」
お、なんだ? 一応心配してくれているのか? 先生、やっぱアンタ良いヒトだ。
けど、一年経たずに出れる可能性の有る拳闘奴隷のほうが良い。
炭鉱で働くにしろ、ココで戦うにしろ、命に危険が有るのは同じ。
自由になれる保証がない炭鉱のほうが多分、精神的に辛い。
毎日同じことを繰り返すのは、生前の経験だけで十分だ。
家と仕事場を往復するだけなのは、ただ辛いだけだ。
それに、使い捨てにされる可能性が高そうな気がするし。
「心配してくれているみたいだな。ありがとう」
すごく素直にお礼が言えた。
「だけど、これを選んだのは俺なんだ」
そう、選んだのは俺自身。だから、どんなことになっても俺の責任だ。
他人にどうのこうのと言われる筋合いはない。
それでも、心配してくれている一人の大人の相手として、礼儀は通す。
「心配してくれていることは有難い。ただ、俺自身の事だから、俺の自由にさせてもらいたい」
そう、この場に頼れる者のない俺にとって、話を聞いてくれる大人へのお願い。
許可が欲しい訳じゃない、ケジメとして言葉にする必要が有る。
「俺の自由にさせてもらうよ。俺の決めたことだから」
そう、宣言しよう。決意を言葉にしておこう。
「俺はココで戦って、10連勝して、外に出る」
「そうか……」
何だ先生、寂しそうに。
「ただのお節介になっちまった。
年取ると若者が羨ましい、って言ってた奴の気持ちがわかったよ」
何を急に言い出すんだよ。ただのケジメなのに。
「アンタの意思は硬いみたいだな。まあ、おっさんの独り言ってことで流しておいてくれ」
「何言ってるんだ? 先生は俺の独り言聞いてただけだろ?」
「は、お互い目の前に相手がいるのに独り言喋ってたってことか」
それぐらいの気持ちでいてくれたほうが俺は気が楽だな。
「それじゃあ、ガンバレ。余り一人を贔屓することは出来ないが応援してやる」
「なら、俺が外に出れたら、うまい飯でも奢ってくれよ」
「それも独り言だろ? あ〜、聞こえなかったなぁ〜」
この野郎、都合のいいところだけ聞いていない事にしやがった。
決意もしたし、身近な大人への宣言もした。
後は実行するだけだ。
俺が自由になるまで後8勝。絶対達成してやる。
読んでいただきありがとうございます。
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