第3章 夢と写真 2つ目の宝石 その7
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ママが落ち着きを取り戻した後、改めてパパの部屋を調べたが結局何も分からなかった。
そして、部屋を出ようとした時だった。
「ん?……なんかあれ、不思議な感じ……」
そう言って、星桜は本棚の中に置かれているぬいぐるみを指差した。
さっきまでなんとも思っていなかったそのぬいぐるみは、星桜に何かを訴えている――そんな感じがした。
「もしかしてあのぬいぐるみ、夢に出てきたの?」
「分からない……。だけど……。ううん、やっぱり気のせいだと思う」
星桜達3人はパパの部屋を後にし、廊下を進む。T字路になっているこの廊下は、真っ直ぐ行くと右側に居間、左側に台所がある。
T字路を左に曲がり廊下を進むと左側に土間があり、突き当りにお風呂場だ。土間にあるドアは、広い庭に繋がっている。
そして星桜の考えはもう決まっていた。それを察してか、ママが先導を切って土間へと向かう。
「ふふふっ、順番に探せばいいんでしょ?」
手がかりがないんだから、そうするしかなかった。星桜達はそのまま土間へ行き、ドアを開けた。
微かだけど覚えている。おばあちゃんが愛情を込めて作った花壇の側で、一緒にお手玉をやっていた。教えてもらっても星桜には難しく、2つがやっとだった。
星桜は大きく深呼吸をし、花の香りを吸い込む。
「懐かしい香り。いい匂い」
おばあちゃんと遊んでいた時、無意識に嗅いでいた花の香り。そして星桜は思い出す。
――(見えるかい?ここはパパが好きな場所の1つだ。まぁおふくろが作った花壇なんだけどね。ははは)
(私も今、そこにいるよ)
――(パパは男だっていうのに、おふくろは『*』を作ってくれたんだ。最初はそれを好きになれなくて、投げちゃったんだよ)
(駄目だよ、そんなことしちゃ)
――(だけどね、その度におふくろが取りに行ってくれたんだ。そして気づいたら『*』は泥だらけになっていた)
(おばあちゃん、悲しむよ)
――(投げた『*』が花壇の中に入った時は、さすがに怒られたな。でもそれから、なんてことをしてしまったんだって気づいたんだ)
(怒られてから気づくことって、あるよね)
――(そしておふくろに謝ったんだ。『*』を投げてごめんなさい、泥だらけにしてごめんなさいって。そしたら次の日、綺麗になって戻ってきたんだ)
(良かったね、パパ)
――(それからこれはもうパパの宝物だ。だから星桜、鍵はここに隠しておくよ。『くまのぬいぐるみ』の中に)
(ちゃんと見つけたよ、パパの宝物)
とても清々しい。星桜はまた大きく、花の香りを吸った。そして、ママとおばあちゃんに言う。
「探しものはもう終わり。戻ろう、パパの部屋に」
星桜の表情を見て、ママはすぐに気づいた。良いことがあるとそういう顔をする。パパも星桜のそういう笑顔が好きだった。




