第3章 夢と写真 2つ目の宝石 その6
「でも……でも……」
ママは認めたくなかった。
もし知っていたら、考えが変わっていたかもしれない。もし過去に戻れたなら、パパの前でも泣くことができたかもしれない。
「朱璃さんは、幸翔が死んでしまうかもしれないって思ったことはあったかい?」
おばあちゃんのその言葉で、ママはすべてを理解することになる。
正しくは、『知っていてもお星様にお願いをする、ということは出来なかった』だ。
ママはパパが死んでしまう、なんて少しも思っていなかった。パパの辛そうな姿を、強がるパパを見て、一緒に頑張ると決めた。
癌は患者の生きたい、負けない、という強い意志で奇跡を起こすことができる。
余命を告げられたとしても、明るく前向きでいたら癌が消えていた、という事例も少なくなかった。
数十日後、数カ月後にパパは絶対に死ぬ、と言い切れたなら別だ。
死への階段を1歩1歩と登っていたなら、ママは全力で止め、お星様にお願いをしていたはずだ。
でもそうじゃない。パパと、星桜と3人で楽しくテーブルを囲っている未来、川の字になって星空を見上げている未来など、楽しい未来しか想像していなかった。
辛い道を乗り越えてこそ、最高の幸せが待っていると思っていた。
だから最初から、お星様に頼ろうなんて考えはなかったんだ。
ママは涙が止まらなかった。
間違った道を歩んで来た訳じゃない。だけど悔しかった。
星桜とママは、『未来』の幸せを望んでいた。おばあちゃんは『今』の幸せを望んだ。
どちらも間違っていない。あえて違いを挙げるなら、『歳の違い』だった。




