第3章 夢と写真 2つ目の宝石 その5
11年前、おばあちゃんはお星様にお願いをした。パパと一緒にいる時間が短くなって、星桜が寂しがっているのを知っていたから。
もちろんそれだけじゃない。ママと会った時、おばあちゃんはひと目でそれに気づいた。
ママとおばあちゃんは他人だ。だけどおばあちゃんは自分の娘のように接してきた。自分の息子……パパが愛した人だから。
子供は親に甘えていい。だけどママは1人で寂しさを我慢していた。
ママは子供であり、星桜の親だから。
そんなに辛いのは可哀想だ。だから……おばあちゃんはお願いしたんだ。星桜とママとパパが一緒にいられるようにって。
でも……出なかった。辛いのに……悲しいのに。それを……体は許してくれなかった。
「歳のせい……なのかねぇ。自然と溢れ出ることは……なかったねぇ」
お星様は『涙』に答えてくれる。自然と流れるその涙に、嘘はないからだ。
「もし……それを知っていたら、幸翔さんは……死なずにすんだんですか?」
パパを助けることが出来たのに……なんで……。
「知っていたとしても……多分無理だったろうねぇ」
「何でですか?!……知っていたら……幸翔さんは……」
星桜は何も言えなかった。ただただママとおばあちゃんを見ていた。辛そうなママを……悲しみの涙を流すママを……初めて見たから。
「幸翔さん……幸翔さん……」
ママは膝をつき、パパの名前を呼んだ。
何でもいい。助かる可能性があるのなら。パパのためにしてあげたかった。
(パパは癌だった……。だから……)
星桜は声に出すことが出来なかった。
おばあちゃんはママの側に行き、ハンカチを手渡す。そしてママの肩に手をおき、落ち着くのを待っていた。
「知っていても……本当に無理だったんですか?」
ママも辛かった。涙だって溢れるほど出せた。
パパの病気が治るのなら、毎晩涙を流し、お星様にお願いしたはずだ。
「星桜ちゃんもこっちにおいでぇ」
おばあちゃんは星桜を呼び、側に座らせた。
「パパが入院していた時、星桜ちゃんは何を考えていたか、思い出せるかい?」
星桜はパパが入院する、といきなり知らされた。応援すると決めた。
会えない時間が多くて寂しかった。だけどパパが頑張っているのは分かっていたから、星桜は我慢した。
そしてだんだんと考えが変わっていった。
「入院している間いい子にしてたよって……褒めてもらいたかった。パパとママと3人でお星様を見に行くことを……ずっと考えてた」
星桜は照れくさかったけど正直に話した。
パパが退院したらもっと遊びたいとか、星の話しをもっとしたいとか、楽しくなることばかり考えていた。
「朱璃さんはどうだい?幸翔を見て、何を考えていたんだい?」
ママはおばあちゃんの質問になかなか答えることが出来なかった。手渡されたハンカチで何度も涙を拭いた。
「星桜ちゃんがいると、言いづらいかい?」
おばあちゃんは意地悪だった。同じ女性として、同じ母親として、ママの気持ちが分かっていたから。
男には男のプライドってものがある。当時のパパなら尚更。だけどそれをママが気づいていないはずは無かった。
「辛いことは考えない……、辛い顔は見せないようにって考えてました。幸翔さんにも……星桜にも……」
星桜を悲しませないように、ママは明るくしていた。
星桜やママを不安にさせないため、パパも笑顔は忘れなかった。
治療が辛くないはずがない。だけどパパは弱音を吐かなかった。大丈夫、と強がっていた。
そしてママは気づく。
「幸翔さんが良くなるまで……『泣かない』って……決めてました」
パパのプライドを傷つけてはいけない。
ママはパパが辛いのを我慢しているのを知っていても、知らないふりをしなければいけなかった。
悲しい顔を……パパに見せてはいけない。
これは、ママが決めたことだ。




