第3章 夢と写真 2つ目の宝石 その4
パパの部屋は玄関から入って1番奥にある。廊下の突き当りを左に曲がったところだ。
ママは久しぶりだが、星桜は初めて入る。
「し、失礼しまーす……」
星桜がそっとドアを開け、部屋の中を見たママが驚いた。
「もしかして……あの日のままですか?」
「もちろんさぁ。何か動かすのも気が進まなくてねぇ」
どうやらパパが入院してから、誰も部屋のものを動かしていないらしかった。
「何か……意外……」
星桜がムスッとするのも当たり前だった。
家ではだらしないパパなのに、この部屋は綺麗に整頓されていたからだ。
「星桜ちゃんの家では、パパはママに甘えてたでしょぉ。パパもまだまだ子供だったからねぇ」
パパなのに子供。星桜にはそれがおかしかった。
星桜はパパの部屋を見渡した。そして、あるものに目が止まる。
それはテーブルの上に置かれていた写真立てだった。
3人が笑顔でピースしている写真。星桜を真ん中に、左にママ、右にパパだ。
「その写真はねぇ、パパが1番大事にしていた写真だよぉ」
星桜の3歳の七五三の時に撮った写真だ。
そしておばあちゃんがにこにこしながらその写真を手にとる。
「この写真を見ると……思い出すねぇ」
ピンク色の可愛い着物を着た星桜に、パパはメロメロだった。そしてこれだけでも満足だったパパにこの後、予想外な出来事が起きた。
この日初めて、星桜がパパに『大好き』と言ったんだ。
この話しをおばあちゃんは何度も何度も聞かされた。この時のパパはすごくはしゃいでいたと言う。
「あんなに嬉しそうな幸翔を見るのは初めてでねぇ。」
写真に向かって、独り言のように喋り出す。
「幸翔は朱璃さんと星桜ちゃんのことが大好きで、大切に思っていたんだぁ。だからあの時も、2人と幸翔を離さないでって……お星様にお願いしてたんだよぉ」
星桜はおばあちゃんの話しに引っかかるものがあった。
「お星様は……願いを叶えてくれる……」
おばあちゃんはそう、ボソッと言った星桜の方に視線を向ける。
「星桜ちゃんそれ、知っているのかい?」
星桜はあの日、パパとママと3人で星を見た時にパパがしてくれた話しをおばあちゃんに話した。
だが星桜はおかしなことに気づき、首を傾げる。
「それはおばあちゃんがとっさについた嘘の話しだねぇ」
大人は子供が悪い方向にいかないように嘘をつく。悪い嘘ではなく良い嘘だ。
例えば、夜に口笛を吹くと蛇が出る。このように言い換えられているものが多い。本当の意味は、夜に口笛を吹くと霊がでると言われている。
おばあちゃんがついた嘘もこれと同じようなものだった。
パパも当時、良い点を取りたいためにお星様にお願いをした。これによって不安は安心に変わる。そしておばあちゃんはパパに勉強をさせたのだ。
要は気持ちの問題だ。勉強にとって不安は邪魔者でしかないんだ。
「子供じゃなくても願いは叶えてくれるんですか?お星様は……本当に神様なんですか?」
何が本当なのか分からなくなっていた。
「お星様は神様なんかじゃないよぉ。お星様は……お星様だぁ。それにねぇ、子供じゃなくても願いを叶えてくれるんだよぉ」
「でも私もあの時……お星様にお願いしたんです。パパを元気にしてって。だけど叶わなかった……」
あれから星桜は自分で答えを出した。いくらお星様といっても……癌は治せないんだって。
「願いが叶わない理由は多分、1つはおばあちゃんと同じ、もう1つは真逆って感じかねぇ」
叶わない理由が2つ?……。星桜には意味が分からなかった。




