第4章 星と謎 古びた館 その6
ママは机を、星桜はタンスの中を探す。
机の上はとても綺麗にされていた。本を数冊立て掛けておける小さな本棚も付いていたが、そこに本はなかった。
そしてその机には引き出しも付いている。メインの大きな引き出しに、下段だけ大きい3段式の引き出しだ。
「ママ!」
勢い良くタンスの引き出しを開けていた星桜がママを呼ぶ。
「何か見つけたの?」
ママが星桜のもとへ駆け寄る。星桜がママを呼んだ理由、それはすぐに見て分かった。
タンスの中が……カラだった。
何かしら入っていてもおかしくないと思っていたが、引き出しの中には何1つなかった。
「机の引き出しには何か入ってた?」
机をチラリと見た星桜がママに聞く。
「まだ開けてないわ。机の上の埃とか気になっちゃって」
星桜と違い、そういうところばっかり見てしまう。
同じ勢いで星桜がクローゼットに手を伸ばす。この際だから、とママも一緒に中を見ることにした。
「お、何か高級そうな服」
クローゼットを開けると1着だけ洋服が掛かっていた。クリーニングしてもらったばかりかのように、ビニールが被せてある。
「これ、燕尾服かもしれないわね」
星桜が頭にハテナを浮かべてママを見つめる。
「燕尾服っていうのは、執事が着ている洋服のことよ。背中側の裾が長いのも特徴ね」
「へー。でも何でこの洋服だけなんだろうね」
それはママも不思議に思ったことだ。
ママはクローゼットに掛かっている燕尾服を取り出し、机の上に置いた。
「やっぱりこの洋服、何かありそう?」
「そうね。ポケットの中だけでも調べてみましょ」
星桜が見守る中、ママはビニールを外さずに手を中に入れる。
まずは両脇のポケットから、と手を伸ばすが何も入っていない。次に胸の内側のポケットに手を伸ばした。
「あ、何かある……」
ママがそれを掴み、手を引き抜く。
「ヒント?!」
紙を掴んでいたママの手を見て、星桜が声を大きくした。
ママも紙を掴んだ瞬間に確信していた。これには絶対にヒントが書かれている。
4つ折りにされていたその紙をママはゆっくりと開く。そして、紙にはこう書かれていた。
【羊を8匹数えたところでだいたい諦める】
「何?これ。……ダジャレ?」
執事と羊……。星桜はこんな風に思った。
「ふふふっ。何かこれ、パパらしいわね」
1人で笑うママに、星桜はおかしく思っていた。つまらないダジャレなのに……。
「違うのよ、星桜。これはね、ベッドに入って眠れない時にすることなのよ」
羊が1匹、羊が2匹……と数えていくとだんだん眠くなる、というやつだ。パパなら8匹目くらいで諦めそう、と思って笑っていたのだ。
でも、これがどういうヒントになるのだろうか。
それと結局、机の引き出しの中には何もなかった。
子の座には言葉の書かれた紙のみ。
亥の座で見つけた言葉のヒントなのか、ヒントのヒントなのか、それとも新たな暗号なのか、今はまだ分からなかった。




