第4章 星と謎 古びた館 その3
館を反時計回りで裏口を目指す。
この広い中庭には植物も植えられていて、年に数回庭師が来るらしい。先に説明したとおり、『館には』出入りがないということだ。
館に沿って歩いていると、本館と別館を繋ぐ渡り廊下が見えてくる。星桜とママはそのまま別館北の裏を周り、裏口を探す。
そして別館北の西側に来たところで扉を見つけた。
「あそこが裏口かな?」
怖がっていたはずの星桜は、扉を見つけると早歩きでそこに向かう。
「待ってよ、星桜」
ママも急いで星桜を追った。
扉の前に着くと、星桜は鍵を取り出し鍵穴に挿す。その鍵は何にも引っかかることなく、するりと回すことが出来た。
「鍵……開いた」
その瞬間、星桜は不思議な感覚に包まれる。
――(星桜。ここが館の入り口だ)
鍵を開けた瞬間、星桜は夢に出てきたパパを思い出す。
――(中は少し暗い。部屋の中は特にな。だから懐中電灯はこう使うんだ)
館の中から温かさを感じる。
――(怖がることはない。星桜とママを……パパが見守っているから)
星桜の中にはもう怖いという気持ちはなくなっていた。
「星桜。……星桜」
鍵を開けてから立ち止まったままの星桜を心配し、ママが声をかける。
「あ、ごめんママ。夢……思い出したの。やっぱりちゃんとパパの夢を見てた」
ママは一安心し、星桜に夢の内容を聞く。
「夢は一部だと思うけど、地図に記されていた場所はここでいいみたい。パパが見守っているから怖がらないでって。あとは、館の中に入ったら説明する」
「……星桜、怖い怖い言ってたのはどこいったの?」
「パパがいるから怖くないよ」
星桜の顔には笑顔が戻っていた。
裏口を開けると、そこは細長い通路になっている。中庭には外灯もあるので、中は意外と明るかった。
ママと星桜は通路を進む。すると、2つの扉が見えてきた。
今歩いてきた通路の左側、その部屋の扉には『巳の座』、奥の部屋の扉には『亥の座』と書かれているのが分かる。
「みのざ?……星桜、何の部屋か分かるの?」
「ううん、館の内装については全然分からない。だけど、袋が置いてあるはずなの」
パパが言っていた、部屋をより明るく照らすための知恵だ。
とりあえず、と2人は巳の座の扉を開け、中に入る。
「暗いわね……」
そう言って、ママは懐中電灯を取り出し辺りを照らす。念の為、持ってきていたものだ。
そもそも館に電気が通っていたとしてもつける訳にはいかない。何年も出入りされていない館に電気がついたら怪しまれるからだ。
「あった!これだ」
その間に星桜は目的の物を見つける。
「ビニール袋?……どうするの?それ」
星桜は自分の懐中電灯を取り出し、先端にビニール袋を被せた。
「これでスイッチを押すと……、ほら!」
「すごい!明るい」
袋が懐中電灯の光を反射し、部屋全体を照らせるほど明るくなる。ランタンに早変わり、ということだ。
これのおかげでこの部屋が何の部屋だか分かる。
「……脱衣所?」
脱いだ洋服を置いておくためのカゴがある。
2人は横開きのドアを開け、更に中に入った。
「うわぁ!広いね」
星桜が驚くのも無理はない。家のお風呂の何倍もの広さがあったからだ。
「この部屋、巳の座は大浴場ってことね」
星桜はランタンを持って巳の座の大浴場を歩きまわる。
ここに来た目的はパパの伝えたかったこと、そのための鍵を探すことだ。
ママも星桜の後を追い、辺りを照らしながら歩く。




