第3章 夢と写真 2つ目の宝石 その8
3人はパパの部屋に戻る。
戻る途中でおばあちゃんにいろいろ聞かれたが、部屋でちゃんと説明する、と納得させた。
パパの部屋に入ると、星桜は本棚の前に立つ。1番上の棚に座るように飾られている『くまのぬいぐるみ』だ。
ただのぬいぐるみだと思っていたが、手に取り調べてみると明らかに不自然だった。
お腹の横の縫い方が荒い。
「パパが教えてくれたの。おばあちゃんの手作りの、このぬいぐるみは宝物だって。正夢……っていうのかな? 変な感じ」
ママもおばあちゃんも、もう信じずにはいられなかった。星桜がこのくまのぬいぐるみのことを、知っているはずがなかったからだ。
パパが星桜の夢に出てきたのは本当だった。そこまでして星桜に伝えたいこととは何なのか。
それと同時にママは、自分の夢にはなぜ出てこないのかという寂しさがあった。
「おばあちゃん。ぬいぐるみのお腹の横の糸、切ってもいいですか? 」
返事は即答だった。
パパが宝物を傷つけてでも、星桜に渡したかったもの。それがどういうことか、おばあちゃんはよく分かっている。
親から子へ、それは愛情と同じくらい大切なものだった。
星桜はパパの机の上に置いてあるペン立てからハサミを取り出し、荒く縫い付けられている糸を切る。
そしてふわふわの綿をかき分けながら探すと、確かにそれはあった。
あの日、手紙と一緒に入っていた黄色い宝石。全くと言っていいほど同じものだった。
「あれ? まだ何かある……」
星桜はぬいぐるみの中から1枚の小さな紙を取り出した。
「何? それ」
「何か……書いてある」
【。2つで1つ】
紙にはそう、書かれていた。
「それってやっぱり、あれ……よね? 」
ママが言うあれとは、パパからの手紙に書かれていた意味不明な言葉のことだ。
【その日の終り、暗闇の中、示す先へ】
ママのサプライズでもない、夢のことでもない、解決していないのにまた新しい言葉が出てきた。
「でもあの手紙のことから考えると、少なくともこの言葉の前に他の言葉があるってことだよね」
これに関しては、子供の星桜の方が頭の回転が速かった。
言葉の頭に付いている不自然な句点(。)、言葉と言葉を区切るためのものだと星桜は考えた。
「句点と読点(、)ってことは、あの手紙とは別の意味の言葉ってことよね? 」
「多分そうだと思う」
2種類の意味不明な言葉。3つ目、4つ目の宝石の在り処を示すヒントなのか。この時点ではよく分からなかった。
そんな2人の真剣な表情を見て、おばあちゃんが口を開く。
「おばあちゃんにはさっぱりだねぇ」
それに対し、ママが慌てて返事をする。
「あっごめんなさい、2人で夢中になってしまって」
「いやいやぁ、幸翔が変なもの残してしまって申し訳ないねぇ」
おばあちゃんはそういうが、星桜はそうは思っていなかった。
「これはパパが伝えられなかったメッセージだと思っています。だから私は受け取りたい……。それとおばあちゃん、このぬいぐるみ……直してもらってもいいですか?」
おばあちゃんはにこにこと笑いながら「もちろんさぁ」と言ってくれた。




