第9話 しっかりと療養せよ!
意識を失う過酷な訓練、それには、教官の隠れた思いがあった。
目が覚めると、訓練室備え付けのベッドに寝かされていた。左手に点滴が刺してあり、透明な液体が体内に流れ込んでいる。
「坊や、気分はどうかしら?」
「はい、上々です。あの、この点滴は?」
「体内の水分量を上げるものよ。薬じゃないから安心して」
「はい」
「おう。目覚メタか」
はっとして上体を起こそうとするが、目眩がしてまたベッドに倒れ込んだ。
「ムリするナ、また倒レルぞ」
「まだ安静にしていなくちゃダメよ」
「はい、あの、すみませんでした」
「ほら、カレル、坊やの方が素直よ?」
「分かっテルサ、坊主、その…」
「?」
「ほら、男ならしゃんとなさい!」
「分カッてるッテバ、坊主、俺が悪カッた、許シテくれ」
「え、あ、いや、そんな」
「うふふ、許してあげてちょうだい、あの後動かないあなたを見てこの人ったらすっかり落ち込んじゃったのよ?『俺のせいだ』『まずい、やりすぎたのか』って」
「カレル上等兵が…」
「アニア、バラすなヨ。余計惨めニナルじゃネェか」
「あらあら、このくらいの罰は受けないと」
「勘弁しテクれ」
「いえ、こちらこそすみません。訓練が…」
「訓練はヤリ直せルシ、死ネバ体は変えラレる。だが精神ノ損耗は医療じゃムリだ、ソコは注意スル必要がアル、俺はソレヲ忘れナイ、お前モ忘れルナ」
「了解」
訓練前とは別人なくらい大人しい上官に若干驚きつつ、和解が成立した。アニアの判断で今日の訓練は終了とし、カレル上等兵は一言「また訓練ガ必要ならイツでも来イ」と言って訓練室を去って行った。アニアによると、カレル上等兵は外見や第一印象とは異なり、部下の安全確保に精神を使う人であり、それ故にやりすぎて周りから反感を良く買うのだという。納得の行く説明に感心しながら、私はまた眠りについた。初戦闘、初の死、訓練では知らされなかった基地の医療システム、過酷な訓練と、教官の意外な素顔の発覚、長い着任初日が終わりを迎えた。
第9話 完
第9話です。カレル上等兵があまりにも印象悪いので後付けで「実は良い奴」に書きました。「また訓練が必要ならいつでも来い」
カッコイいm(´-`).。oO
次回から着任2日目です。お楽しみに