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第5話 現状を認知せよ!

死んだらどうなるのか?それは人類誕生以来の疑問だ。答えは不明。誰も検証できなかったからだ。しかし、私は違った…

目覚めると、私は水の中に浮いていた。口にはマスクがぴったりと付いており、呼吸は問題ない。手を動かしたり辺りを見回してきょろきょろしていると、巨大なタンクにいることが分かった。透明で、3mくらいある。中にあるのは水と私だけだ。目がおかしいのだろうか?水は若干緑っぽく見える。タンクの外で、白衣を着た連中が動いている。一番近くで話していた看護婦らしき人と目が合った。看護婦らしき人は話し相手の医者らしい男性に、私が目覚めたことを教えたらしく、男性もこちらを振り返って近付いて来た。タンク近くの機械に歩み寄ると、話しながら操作する。すると、タンクの天井の照明が更に明るくなり、上からアームが降りてきた。私の両手と腰をつかむと、アームが私を引き上げる。緑の水から引き上げられると、先程の看護婦が近くに歩み寄り、タオルで私の体を拭き始めた。重い手を動かし、マスクを外そうと格闘していると、彼女が気が付いて外してくれた。

マスクにはのどまで続くチューブがあったらしく、抜かれる瞬間若干むせた。


「ゴボッ、ゴボッ、あ、ありがとう」

「楽にしていて、まだ激しい動きはダメよ」

「あのタンクは…?ここはいったい?兵長達は?」

「とりあえず、濡れてるんだから体を拭きましょう?せっかく生き返ったのに風邪引いちゃうわよ?」

「生き返った…、ということは、俺は一度死んだのか…」

「そうよ、でも生き返った。心配しなくて良いわ。すぐに慣れるから」


最後の言葉が気になったが、とりあえず看護婦に肩を貸してもらって起き上がり、歩き出した。部屋の隅にたくさんのロッカーが並んでおり、その中の一つの前に連れてこられた。


「はいどうぞ、ここの中に乾いた服や下着と、階級章や識別表が入っているわ。今履いてるそのパンツの中は自分で拭いてちょうだいね。汚れ物は部屋の出口近くにダストシューターがあるからそこへどうぞ、床が濡れるのは構わないけど、水気は完全に拭き取ってね。鍵はこれよ。何かご質問は?2等兵さん」

「いろいろありがとう。さっきも聞いたけど、俺が死んだってどういう事だ?兵長達はどうなった?あの戦闘は?」

「あなたの前の身体は左耳から脳にかけて装甲剥離によって飛び散った破片が貫通していて出血多量で死んだの」

「何!?」

「だから、あなたの脳からコピーした記憶をあなたのクローンの身体に移植したわ。手術は成功。どこも違和感ないでしょ?」


彼女に言われて慌てて全身を触るが、確かに怪我はしていない。それどころか、訓練所でできた傷が跡形もなかったりした。


「ね?それはあなたの新しい身体」

「まさか…あ、兵長達は?」

「あなたの乗っていた戦車は撃破されたわ。乗員は操縦手以外は死亡、あなたと同じように今タンクの新しい身体に古い身体の記憶を入れているわ」

「操縦手の人は?」

「車両撃破時に脱出、銃火を避けて安全地帯へ避難後、転送装置で帰還したわ。足に銃弾のかすり傷と脱出時にやけどを少しおったようだけど、命に別状はなし、現在タンクで治療してるわ」

「撃破されたって事は戦闘は…」

「勝敗は私の管轄外、他の人に聞いてちょうだい」

「タンクって?」

「あなたが入っていたものよ。特殊な海藻の成分が溶けた水にバクテリアを住まわせて作られたB-02溶液が入っているわ。人間の身体に元々ある自己再生機能を飛躍的に向上させる作用があって、あれに20秒も浸かれば、肩から外れた腕がまた生えるわ。ふふふ、スゴいでしょう?」

「ああ、確かにすごい効き目だ」


そう言いながら、私は左耳を触る。ちゃんと聞こえるし、感触がある。


「もういいかしら?あまりお喋りしてると本当に風邪引いちゃうし、あなたが怒られるんじゃないの?」

「ああ、最後に一つだけ」


踵を返して立ち去ろうとする看護婦を思わず呼び止める。


「何かしら?2等兵さん?」

「君、名前は?」

「私の名前を知ってどうするの?食事でも奢ってくれる?」

「もちろん、色々教えてもらったからね」

「私はターニャ、ターニャ・シミョーノバ、ターニャで良いわ」

「分かった。俺はシーマだ、よろしく、ターニャ」

「それでは、お大事に、シーマ2等兵さん」


踵を返してターニャは部屋を出て行った。一人になって周りを見渡すと、私以外誰もいなかった。濡れた下着を脱ぎ捨て、身体の水気を拭き取ると、服を着た。どれも新品らしい。階級章も新しかった。汚れ物をダストシューターに捨てると、横に鍵用のシューターがあったのでロッカーの鍵もシューターへ放り込む。部屋はドアやロッカーと反対側の壁一面がガラス張りになっており、ガラスの向こうは空間だった。ここは2階のようだ。窓に近付き、下を覗くと、ガレージと同じかそれより広い空間に、さっきまで私が入っていたのと同じタンクがたくさん置いてあった。その上をクレーンが動き回り、時々タンクを持ち上げて移動している。足下に近い場所では白衣を着た人間が歩き回っており、タンクとにらめっこをしたり、話し合ったり、機械を操作していた。


まるでそれは、人間の卵が並ぶ畑だった


第5話 完

第5話です。はいー語り部復活~(非ゾンビ)

あなたは死んだの。とさらりと言う看護婦、ちょっと怖いですね。次回もお楽しみに

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