第3話 報告内容は選別せよ!
待機して味方を待つ、上方で砲声はする物の、私の前に広がる道は、不気味なほど静かだった…
「よし、停車して待機!後方の味方を待ちつつ、正面を警戒せよ!砲塔を崖の先に向けておけ、シーマ、機銃を点検しろ。そろそろそっちも出番だ!」
「了解!砲塔回します。砲塔旋回!」
「了解!前方機銃準備よし、いつでも撃てます」
崖下にたどり着き、壁の近くに停車している。先ほどロスとした1cは崖を上り、おそらく今は我々の直上にいるはずだ。
『こちらPz38t、背後より被弾!エンジンをやられた、HP損耗67%!救援を乞う!誰か助けてくれ~』
「断崖上方の38より救援要請!」
「我々に出る幕はない。引き続き崖下を警戒する。返答はするな」
「り、了解…」
見捨てる気だ、とっさにそう思った。そういうところは、やはり指揮官らしい。戦闘ではよくある事だが、その冷徹な目線は新兵の私の心を凍り付かせた。
『こちらクルセイダー、了解!援護する。敵に先を越されてるぞ!早く進め!』
『こちらPz38t、了解!〈Thx〉』
「ふう、良かった」
「私語を慎め、2等兵、次は懲罰を科す」
「了解…」
『こちらT1Hevy、KV1の友軍達、我に続け!』
兵長に報告しようとした時、上方で砲声と機銃の発射音に続いて小さな爆音がした。
ドン
『こちらクルセイダー、敵1cを発見!撃破した。初撃破いただき!』
モニターから敵の表示が減り、同時にリンク装置の指向音声からメッセージが来る。
「撃破情報!クルセイダーがPz1cを撃破しました」
『こちらPz38t、〈nice〉』
『こちらAT2、〈NS〉』
「クルセイダーより撃破情報、敵Pz1c撃破とのことです。また、7時の方向から接近中のT1から個別に随伴要請が来ました」
「了解と返答せよ、クルセイダーにniceと送れ」
「了解」
『こちらKV1、了解!貴車に随伴します。クルセイダー、〈nice〉』
『こちらクルセイダー、了解!』
『こちらT1Hevy、了解!速度を合わせてゆっくり前線を押そう。行くぞ!』
『こちらT-28、救援を乞う!』
「T-28より救援要請!位置は9時の方向、速度を上げつつ突っ込んでいきます」
「偵察のつもりか?笑わせやがって、了解と返答せよ、このままT1と足並みをそろえつつ中速前進」
「了解!前進開始します」
「了解!」
『こちらKV1、了解!援護する』
『こちらT1Hevy、了解!援護する』
『こちらウルヴァリン、HTやや後方で待機中、狙撃体制に入る』
ゆったりと前進していく、すでに崖の上では戦闘が起きているらしく、砲撃音が鳴り止まない。おそらくクルセイダーと38が偵察しつつ戦っているのだろう。そう思っていた矢先、
ピピ!
先行していたT-28が、いきなり爆発し、炎上し始めた。脱出する暇も、助けを求める暇もなかったようだ。車体は炎に包まれている。
『こちらT1Hevy、12時の方向に敵戦車発見!KV1sだ!味方が奴にやられた!』
「T1より報告、12時の方向に敵戦車発見!KV1sです。T-28が撃破されました」
「了解!イワン、こいつでは初の対重戦車戦だ!しとめるぞ」
「了解!」
リンク装置からアナウンスが流れる。
「撃破情報、KV1sがT-28を撃破しました」
『アメリカ人舐めるなよ?相手になるぜイワン共!』
おそらくT1の無線手だろう。かなり興奮しているようだ。隣の〈イワン〉に援護されて〈イワン〉を倒そうとする、アメリカ人は個人じゃ何もできない種族に思える。
『こちらウルヴァリン、貴官達が邪魔で射撃できない。場所を移動する』
「車長殿!」
「どうした?」
「6時方向にいるウルヴァリンが、我々が邪魔で射撃できないから移動するそうです」
「何?俺達が邪魔?アメ公風情が調子に乗りやがって、何としても敵を俺達で撃破して鼻をあかしてやる。スピード上げろ!アメ公より前に出て敵に攻撃するのだ!」
「了解!増速します」
兵長も頭に血が上っている。報告しない方が良かっただろうかと少し後悔した。どんどん速度を増し、味方のT1より前に出る。そうすると、味方をワンパンした敵が見えてきた。そしてその砲身は、真っ直ぐこちらを向いていた。
第3話 完
第3話です。味方のT-28は完全に開幕特攻状態だし、ウルヴァリンは位置取りが悪いしと散々な味方です。味方をワンパンされて、アメリカとソ連、それぞれ別の理由で頭に血が上り、前に出ようとする状態は、危険性をあまり考えない初心者あるあるですね。クルセイダーが地味に上級者?w