第2話 報告はしっかりせよ!
転送により私は戦車ごと戦場へと送られる。そこは、想像だけでは表現できない場所だった…
ビーーーーボフン
軽い衝撃が車体を揺らした。兵長が指示を出す。
「各員点検報告!報告が済み次第頭脳リンク装置を接続せよ!」
「了解!」
みんな一斉に動き出し、各部点検と状況報告を始める。
「駆動装置異常無し、エンジン音、温度良好、リンク装置接続完了!」
「弾薬異常なし、各種初弾セット完了、リンク装置接続完了、装填準備よし!」
「砲塔正常!リンク装置接続完了!」
「無線感度良好!準備よし!」
「馬鹿者!シーマ!早くリンク装置を付けんか!」
「了解!」
慌ただしくヘルメットを操作し、スイッチオン。機械音が耳元に聞こえた
「シーマ、リンク装置接続完了、申し訳ありません」
「大丈夫かよアンちゃん?無理ならままのところに帰りな!アハハハ」
「誰が私語を許可した?貴様の方がずっと無能だと自覚しろ!」
「了解…」
「シーマ2等、戦闘は時間勝負だ、油断は死を招く、貴様一人の死など俺は知らん。だが、おまえの油断が〈俺達〉の死を招くのが戦車戦闘だ!今後のへまは許さんぞ?新人扱いはしないからな!分かったか2等兵!」
「了解しました。以後気を付けます…」
ヘルメットから脳内に直接、リンク装置から指向音声が流れ始めた。
「戦闘開始40秒前、マップ名、崖、トップレベル5、ボトムレベル3、戦闘形式、ランダム戦闘」
「トップか、さい先いいじゃないか、各員最終チェックしつつ待機」
「了解!」
「戦闘開始30秒前、カウントダウン開始、戦闘準備を完了し、待機して下さい」
指示に従い待機していると、無線機に外部から通信が入った。
『こちらAMX40、〈Hi〉』
『こちらPz38t、〈Hi〉』
『こちらT1Hevy、誰か、セクターB5に警戒せよ!』
『こちらSU-5、了解!』
『こちらAT2、了解!』
『こちらPz38t、了解!』
何だろうかと考えていると、兵長から車内通信が来た。
「戦闘前の事前打ち合わせのようなものだな。他の戦車の指揮官からの指示だろう?何か本車宛の通信や指示があれば報告せよ」
「了解!」
耳をこらす。通信はそれ以上なく、ヘルメットの指向音声がカウントダウンを続けている。カウントダウンの音も聞こえる。
チ、チ、チ、チ、チ、チ、チ、チ…
「戦闘開始5秒前、3、2、1、戦闘開始!」
「前進せよ!」
「了解!」
「装填、AP!」
「了解!」
ゴーー
エンジン音が大きくなり、車体がのっそりと動き出した。
ガコン、という音が後ろで鳴り、砲弾が装填される。
「装填完了!」
「全速前進!全力で山の根元まで進め!」
「了解!」
『こちらPz38t、救援を乞う!』
来た。私はモニターを確認し、該当戦車を探しながら報告した。
「38tから救援要請!」
「位置は?」
「本車の前方、11時の方向、速度を上げつつなおも前進中。損傷は無い模様です」
「偵察するから援護しろって事だな。了解と返答せよ!左にやや旋回し、山を目指すときに38を援護できる位置を走れ!2時方向へ砲塔旋回!」
「了解!」
私も無線に呼びかける。
『こちらKV1、了解!』
『こちらクルセイダー、了解!』
ほかの味方も応じたようだ。引き続き、無線に集中する。
ピピ!
音に反応してモニターを見ると、モニターに赤いマークが現れた。38tの近くだ。
「敵戦車発見!車種特定、Pz1c」
「位置を言わんか馬鹿者!」
「すみません。1時の方向、距離、400!」
「イワン、狙え!」
「了解!砲塔旋回します」
ウィーンガラガラガラ
砲塔が回り始めた。
ピピ!
また来た。位置を確認する。
「新たな敵発見!2時方向にPzⅣD、距離450、4時方向にT-34、距離800」
『こちらPz38t、救援を乞う!』
『こちらクルセイダー、了解!』
「1時方向の38より再び救援要請!」
「了解、イワン、狙えてるのか?」
『こちらKV1、了解!』
「照準よし!目標、1c」
「撃て!」
ドン! ゅーー……ガン!遠くで何かが当たる音がした。
「敵車両被弾!HP損耗50%!」
「よし!もう一発だ」
「装填完了!」
「照準よし!」
「撃て!」
ドン! ゅーー……。今度は当たる音がしなかった。
「外した!」
「何!?」
「目標、稜線裏にロスト」
「仕方ない。次弾装填!目標、4号!」
「了解!」
「装填完了!」
「目標、岩裏にいて射撃不能!」
「分かった、砲塔旋回、正面に戻せ!援護を終了し、崖下に沿って敵を警戒しつつ前進せよ!」
「了解!」
とりあえず一段落だ。次は正面におそらく敵が来るだろう。そうすれば、私が撃つこともあるかもしれない。私はモニターに注意を払いつつ、前方機銃の安全装置を外した。
だが、私はまだ知らなかった。私のやるべき任務の本当の恐ろしさを…
第2話 完
第2話です。長くなるの防止のために本来は30分位のことを小分けにして書いています。2話はおそらく3から5分くらいの話なのですが、文章化すると意外と長いですね。