第17話 責任は正しく掌握せよ! 前編
夢の中で、あのドイツ人の顔が浮かぶ。必死に手に力を入れ、機銃の引き金を引こうとするが、溶接されたかのように動かない。ドイツ人に戦車が迫る。「動け、動け、動け! 動け動け動け動け動け動け動け動け!!!!!」
スローモーションで、ひかれる瞬間の彼の顔が見えた。口元が「なぜ」と動いたような気がして、そこで目が覚めた。
翌日、かなり目覚めの悪い朝を迎えた。早速起き上がり、兵舎はもちろん、昨日迷惑をかけた人達に改めて頭を下げて回る。あの後教本を読み直し、改めて自分のした行為がどれほど非人道的だったかを痛感したことと、今後同じ状況になったら迷わないと謝罪に行った人全員の前でその都度宣言してきた。反応は様々で、無言で頷いてくれる者、励ましをくれる者、甘いと更に叱って来る者、全く無反応で私があたかもそこに居ないかのように振る舞った者も居た。口では慰めてくれても、目が笑ってない人も結構居たので、言葉だけじゃなく態度で示せと無言で言われているようだった。
謝罪を終え食堂へ向かう。足取りは重かったが、食事なしに訓練はしたくなかった。
「はぁー」
思わず食事を前にため息がでる。食堂の職員が心配そうな目を向けてきたので力無く愛想笑いを返した。
すぐに食べ終わるが、訓練までは時間がある。私は研究室などのある区画を散歩していた。
「あなた、シーマさんよね」
「はい。そうですが、何か?」
「先生があなたと話がしたいそうなの、医療ポット室に来てくれないかしら」
「分かりました」
看護婦の人に呼ばれ、後をついて行く、医療ポット室は、はじめて死んだときに目覚めた部屋のようだ、上の更衣室から見たポットがたくさんある光景は今でも忘れていない。先生と言うからには医者なのだろうが、どんな用事だろうか、考えているうちに部屋に着いた。扉横のパネルに看護婦がパスワードを打ち込み、扉が開くと、まるまると太った禿頭の老人が手招きしてきた。老人の元へ行くと個室に連れて行かれる。個室と言っても、全面ガラス張りで天井は無く、大声を出せば外にだだ漏れだろう。あくまでもスペースであり、ポット室の中であることに変わりはないらしい。
「すまないね。呼び出す形になってしまって」
老人が頭を下げ、椅子を指し示す。座りながら、こちらから聞くことにした。
「お気になさらず、それでご用件は何でしょうか?」
「早速本題か、兵隊らしいですな、では、昨日の出撃でのあなたのした行為について、差し出がましいが医者の立場から情報提供しようと思ってね。呼び出させてもらったのです。この施設はあなた方兵隊が要、普通ならワシのような裏側の人間が呼び出すなど上から目線な事は出来まいが、ワシは医者、ここにある全ポットの管理をしている身だ、離れられないので呼び出す形を取らせてもらった。許してくれ」
「……」
思わず無言になってしまった。どんな事を言われるのか、少し身構える。
「顔に出ておりますぞ、心配はいらない。長い説明はしないしもちろん説教も無しで行きますとも、ただ情報を渡すだけです」
「情報とは?」
「渡すと言いましたが、物を渡す訳ではありませぬぞ、ワシは物事を教えるときは見るのが早いと信じております。しばし、付いてきていただきたい」
そう言って彼は立ち上がり、のそのそと部屋を出ようとする。私もあわてて後に続いた。
「昨日あなたはドイツ兵がひかれるのを阻止しなかったと聞いております。間違いはないかな?」
「はい、事実です」
素直に返事をする。彼は喋りながらポットの間を進んで行った。
「なぜあなたが咎められたのか、理由はご存知と思われるのではぶかせていただくが、あの後兵士たちがどうなるのか、それは知らないのではないかな?」
「意識を新しい肉体に移植されるのですよね?」
「もちろん、しかし、そのままではダメなのです」
「どういう事でしょうか?」
「見れば分かると思いますぞ」
そう言って彼はポット室の端にある扉を開く、中もまた研究室だったが、ポット室とは全く違った。ガラスで仕切られた壁の向こうに、何人かの人が一人一部屋で入っていたが、彼らは、みんな何かしらがおかしかった。
第17話です。体調不良悲惨です。
不定期ですが投稿は辞めないので、気長にお待ちください