第13話 坂を登坂せよ!
KV1は登場当時、その破格の重装甲が重宝されたが、それ故に重く、速度面は絶望的だった。
「よし、前進!城を目指して進め!」
「了解!」
ゆっくりとエンジン音が大きくなり、戦車が動き出す。他の戦車はより小型の物ばかりで、どんどん置いて行かれている。操縦手の言っていたBTもぐんぐん目前の坂を上り始めた。私達の戦車も坂にたどり着き、登り始めたが、案の定とても遅かった。恐らく、歩く方が早い。
「まったく、とんでもない遅さだな、バシリ」
「T-28の快速が懐かしいですね。車長殿」
「イワノフ、万一に備えてAPを装填しておけ」
「了解!装填完了」
「車長殿達はT-28の戦闘経験がおありなのですか?」
「そうだ、俺とバシリはMS-1からの戦友だぞ、なあ」
「はい、お互い新任で、貧弱な装甲に何度殺されたことか」
「すごい縁ですね。そこからT-26等にも乗ったのですか」
「そうだな、あの砲塔の手すり、上るのが簡単で重宝したが、T-28からなくなったな」
「あの低速戦車も装甲ペラペラでしたね。シーマ、今角を曲がったドイツの軽戦車、見たか?」
「はい、武装は貧弱そうですが、小型で軽快ですね」
「そう、あの戦車は基本武装が機関銃だ、しかも、おまえが担当してる機関銃と対して変わらないものだ。それにすら貫通されるほど、今まで我々の乗ってきた戦車たちは軽装甲だった。全く悩まされる物だったよ」
「なるほど、そんなに薄い装甲でどうやって勝利を?」
「簡単だ。俺の操縦の腕と、車長殿の卓越した指揮が勝利をつかむんだ」
「なるほど…」
「バシリ、喋りすぎだぞ。シーマ、こいつらは車両を変える度に新任として配属されてきた。そして俺達と共に戦い。今は家族同然だ。いちいち命令しなくても、緊急時には無言で意志の疎通ができるくらいにはお互いを信頼している。お前も時期にそうなるだろう。と言うか、なってもらう」
「は!頑張ります!」
「よろしい。バシリ、もうすぐ頂上だ。撃たれはしないだろうが、念の為用心しろ。全員、ハッチを閉めろ!」
「了解!」
頂上に着くと、沢山の高速自慢の戦車が横一列に並んでいた。一番右、城に近い場所にひときは大きな砲を備えた自走砲が陣取り、その主砲を天高く向けていた。
「車長殿、あれはいったい?」
「S51という。俺達の乗るこのKV1の車体を使った自走砲だ。主砲は203mm、食らったら一発で即死だな。目の前に並んでいる軽戦車など、木っ端みじんだろう」
「すごいですね」
「仰角がほとんど無いらしいから、回り込まれたら終わりだがな」
「なるほど…」
S51は私にとって、まさに移動する要塞砲に見えた。
第13話です。乗員たちにも過去の戦車の記憶はあるのでしょうか?再訓練で前の戦車の操作法を忘れても、乗った感想は存在すると思います。
次回もお楽しみに