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アレク

アレク視点話です

オレんちは港町で食材を扱っている商家だ。

まあまあ儲かっている方だと思う。

城下町の貴族にもお得意さんがいるし学校の食堂や騎士団の寮や宿舎の食堂にも食材を届けているからな。


親父は人当たりはいいが計算が速く流行りを見抜く目があって店が「時代遅れ」と言われたことは無いらしい。

母さんは人から聞くと姉御肌で気っぷが良いのだそうだ。

2人とも怒ると怖いけどやたらに怒ったりしない。

悪戯がバレるとやたらと痛い拳固が炸裂するけどな。


オレには親友と呼べるハンスという友達がいる。

オレとハンスはほんの赤ん坊の時からの友達だ。親同士が仲が良いのだ。

物心付いた頃には一緒に遊んでいた。

実はアレクは貴族だ。

親父からはそう聞いている。

それも極めて王族に近いらしい。

それも親父から聞いた。

でも何でそんな高い身分のやつがオレと友達なんてしてるかっていうと、母さんの曾祖父さんがハンスの曾祖父さんの弟だからだ。

つまりはうちは貴族の傍系の端っこにある家系なんだとか。

傍系とか良く分かんないけどそんなんで親同士が交流があってオレらも仲良くなった。


ハンスは頭がいい。

顔もオレと同じくらい良い。

だからオレと同じくらい女の子に人気者だ。

でも女の子ってすぐママゴトしようとか言うし、すぐ泣いたり怒ったりするし一緒に遊ぶのは好きじゃない。

ハンスとチャンバラしたり冒険者ゴッコしたほうがよっぽど面白い。

そう思っていた。

少なくてもあの日までは。




その日オレらは通りのハズレにある空き地で訓練という名のチャンバラに明け暮れていた。

空き地は木の柵で囲ってあってもっぱら近所の子供らの遊び場だ。

オレらはチャンバラに夢中になっていて気がつくのが遅れたのだ。すげぇデカい野犬が柵のすぐそばに来てたってこと。

あ、と思ったときは遅かった。2人の目の前にオレらの背丈くらいの真っ黒い野犬が迫っていた。

「ハンスだけは逃がさなきゃ」

ビビりながらもそんなことを考えた時だった。

トコトコと小さい女の子が通りから空き地へと入ってきたのだ。

だけど声を出すことはできなかった。

声をあげることで野犬が刺激されてオレらや女の子に襲いかかるかもしれないからだ。


女の子は大きな野犬に向かい手に持っていた何かを小さく千切って投げた。

野犬がそれをあっという間に飲み込み女の子の手に残るそれに目を付けた途端、女の子はそれを柵の向こうの森の奥へと投げたのだった。

「あっちいけ~~~」


小さな女の子が投げたものを野犬は追っていった。

動けないでいたオレらの手を掴み通りへと出た所で女の子はたまたま通りかかったおじさんに野犬のことを話し、詰め所でヒマしていた騎士様達が呼ばれて野犬を捕まえた。

投げたのは女の子の昼ご飯用の魚を挟んだパンだったらしい。

半分も食べてないものを投げてしまったとかでお腹すいたと呟く。


「これ食べるか?」

おやつがわりに持っていた果物を差し出すとコクリと頷いてオレの手から果物を取り食べ始めた。

女の子はミーコと名乗った。

5歳で港通りのパン屋の娘だという。

よくよく見るととても可愛い子だ。

フワフワの金茶の髪に琥珀色の瞳。

まだ小さくて輪郭はふっくらしたほっぺたのせいで丸いが大きくなれば美人になる気がする。

話してみると呂律は今ひとつでオレの名前が「アリェク」、ハンスを「ヒャンス」と呼んでいる。

本人も気にしているらしい。

学校にあがるまでに「滑舌」をレベルアップするのだと言っていた。ところで「滑舌」ってなんだ?


この街では子供が全員7歳になると学校に上がるわけではない。家で自分の家の家業を継ぐために修業期間に入る者もいるし、勉強が嫌いで入らない者もいる。

親も文字の読み書きと簡単な計算さえできれば学校など行かなくてもいいと考えている者が少なくないから強制はしない。

逆に貴族の子弟は学校入学は必須だし、騎士を目指す者も学校入学が求められる。


「ミーコちゃんはパン屋さん継がないの?」

ハンスの疑問もまあ分かる範囲の当たり前の疑問だった。

「パンやしゃんはむこしゃまにちゅいでもらうからいーの。パンちゅくるぎじゅちゅはおぼえちゃし、みせびゃんでちゅかうけーさんなんちぇかんちゃん」

果物をかじりながらこともなげに言う。

幼児の呂律の回らない話を何回も聞いて要約するとパン屋は婿が継ぐし技術は覚えた。店番で必要な計算なんて簡単ということらしい。


「へー、じゃあ試して良い?この計算は?」

野犬が捕まえられて再び開放された空き地の土にハンスが学校に上がってすぐ教えられる計算を書いた。

『5たす6は』

繰り上がりがあるので一度は皆ひっかかる計算だ。

ミーコは地面に書かれた問題の下にスラスラと迷いもなく答えを書く。

『11』

ハンスが他にもいくつか計算問題を出したがミーコは即座に答える。

恐るべし5歳児。

オレもまだ間違う2桁の計算も正しい答えを出しているっポイ。

……これはミーコ様と呼ばねばならないかも。

ハンスの顔を見るとどことなく興奮したような嬉しそうな様子だ。

分かる。分かるぞハンス。お前勉強好きだもんな。

計算問題とか解くの大好きだろ。

でも周りにこうやってスラスラ問題解けるやついなかったしな~。


こうしてミーコはハンスの気に入りになった。

勿論オレも気に入った。ママゴトしようとか言い出さないしちょっとやそっとでピーピー泣かないからな。


でもって、今日もまた

「ミーコちゃん、遊ぼうよ」

とハンスと2人で誘いに行くわけだ。

学校?今日は自主的にお休みだ。

後で親父から拳骨もらうかもしれないけどなっ。

アレク視点でのミーコとの出会い場面です。

読んで下さった皆様有り難うございました~

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