2 どうやら此処は港町のようです。
ん?
まぶたの裏が眩しい……
深い場所に漂っていた感覚が無くなり急激に明るい方向へと落下するように意識が目覚める。
「あわわわ?!」
何かに縋るようにしがみつけばそれは薄い綿の布団。
「あ?
…………あれ?」
あの世でバイバイしたはずの私は一体ココで何をしているのでせう……………
布団にしがみついている自分の手が妙に小さいデス。
……………………………もしかしてあの「バイバイ」が夢でなければコレは所謂テンプレな『転生』というヤツでしょうか???
でも、でも待て!!
何故にこんな中途半端そうな年齢に記憶が戻らねばならぬのですかね?
……つーかこの体のこの娘の記憶もちゃんと残っておりますが。二重人格化なのかなぁ??
身体を起こし自分の両手を見ながらワキワキと握ったり開いたりしながら考える。
菊地巳瑚--それが前世での私の名前。
物心付いてからの記憶は……ちゃんとある。多分。
ミーコ---コレが今の私の名前。所謂姓名の姓は無い。平民だから。此方の記憶の欠損も無い。
統合しちゃったっポイ?
こんな不思議なこともあるんだなぁ~
ふと見渡せば小さいながらもミーコに与えられた部屋は此処が自分の居場所であることを教えてくれる。
巳瑚が大好きなアニメのキャラクターのポスターも無い。
母さんと一緒に選んだ小花柄の壁紙も無い。
お姉ちゃんに取ってもらったクレーンゲームの縫いぐるみも無い。
木の床に漆喰の壁露わになった太い梁。
簡素な机とチェスト。
コレが
此処が
私の場所なんだ!
無くなってしまった過去にチョットばかりセンチになったけど新しいこの生を楽しまなかったら絶対損だよね!
私はそっとベッドを降りて机の上に畳んで置いた服に着替えてベッドの上に登った。
ミーコの部屋は天井裏の端っこで小さい窓が申し訳程度に付けられている。今の私の背の高さだと背伸びすれば見られるはず。
掛け金を外して窓を内側に開き鎧戸を開ける。
潮の香り、どこかで作ってる朝ご飯の香り、どこかの部屋で暖を取るために焚いている炭の匂い、……朝の匂いだ。
少しひんやりする空気を吸って真っ正面の海を眺める。
沢山の小舟と漁船が湾内のアチコチに繋留され、湾の中程には何隻かの大型の帆船。
ココは港町カチョカという漁業と商業の街だ。
「さて、下に行こうかな~」
軽い身体をエイヤっと弾ませてドア近くまで跳ぶ。
ちょこんと置いてある靴を履いて階下へと駆け降りる。
「トウっ」
2階分の階段を下り一番下1段を飛ばして着地。
これはミーコが最近毎日やっていること。
一階の作業場には2人。
「おはよう、ミーコ今日は早起きね。」
「ん。ま、ま、……ママちゃま、おひゃよ」
両親の呼び方に非常に羞恥を煽られるが今更今までのミーコを変えられる訳もない。
「おう。ミーコ、おはよう。手伝うか?」
「うん。…パパちゃま、おひゃよ。」
(うーっ!)
ひきつりそうになる顔を無理やり抑えて未だ拙い言葉で挨拶を交わす。
だってミーコは5歳なんだもの。
滑舌レベルはマイナスなのだよ。
しかし、しかしだ!
誰だこのように両親を呼べと教え込んだのは!
絶対お仕置きなんだからねっ!