Die Welt~クンストの世界~
本編とはいえまだまだ状況説明ばかりですね。すみません。
創造神クンストは語る。
あらゆる創造は芸術である。あらゆる芸術もまた創造である。
生は創造であり、ゆえに芸術である。
若人よ、旅路はおのずと刻まれる。
望もうと望むまいと、生も死も何かを生み出さずにはいられない。
全てが、世界そのものが、芸術家である。
自らを貶めることなかれ。
奢ることなかれ。
よろずが語り部であり紡ぎ手である、と。
心せよ。
よろずが読み手である、と。
第一区
《学園都市ホウナン》
気が付くと僕はタウンにいた。モンスターが侵入することのない安全な結界で守られた活動拠点。
頭がガンガンし、目の奥が痛い。ここはどこだろう?
周りを見渡すと呆けた人で溢れていた。
「ここはどこだ」
「私、何してたんだっけ」
「頭がぼうっとする」
僕は、どうしてここにいるのだろう。全く思い出せない。ここはどこ? 私は……ヘルドだ。
名前は思い出せる。この世界はクンスト。ゲームの世界だ。ゲームの世界? 僕はなぜ現実ではなくここにいる?
周りも我に返り始めたようだった。
頬をつねる。痛い。わずかに体力値(以下HP)が減るのが分かった。
手には槍がある。そうだ、僕は槍使いだ。
違う。
それはゲームの設定だ。
現実世界の僕は誰だ? 名前は? 年齢は? 僕は何をしていたんだ?
全てに霧がかって何も思い出せない。
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町も人も僕も混乱したまま数日が過ぎた。
ここは流行りの無料オンラインゲーム『Die Liebe zur Kunst』、通称『リベスト』に似ている。そして、そのプレイヤーは操作キャラのステータスを引き継いでいるようだ。
あまり覚えていないが、僕もプレイヤーの一人だったようだ。職業は槍使い。とあるライトノベルの登場人物に憧れを抱いてこの職業を選んだ。他の多くのプレイヤーは多い順に剣士、双剣士、魔術師、僧侶、大剣使い、拳闘士であった。槍使いは弓使いと並ぶ不人気職業でほとんど見かけない。同じくほとんど見かけないがある一定の条件をクリアしたものにのみ解禁される上級職である精霊使いや剣闘士、賢者などもいる。だが滅多に条件クリアする者はおらず、いまだその条件が明らかになっていない上級職もあり、彼らの詳しい性能は謎である。
対して、プレイしたことのない者たち(未プレイヤー)は『リベスト』のキャラクターメイキングらしき夢を見たと証言している。プレイヤーとの違いは装備品で区別がついた。彼らは学生服のままだったからだ。唯一手にしていたのは職業ごとの初期装備のみ。資金として一律500ゴールドがポケットの中に支給されていた。
また人種についても言及しておかねばなるまい。初期人種はヒト、エルフ、獣人の三種類である。ヒトは体力魔力ともに保持している。エルフは体力に不安があり、代わりに魔力を豊富に持つ。逆に獣人は体力を豊富に持ち、魔力をほとんど持たない。システム上の人種はこの三種類だけなのだが、キャラクターメイキングにおいて自ら作成したドット絵を取り込んだ者はその限りではない。もちろん性能は先に述べたどれかに分類されるが、見た目で人種を判断するのは不可能と言っていい。
そして、その自由度が今、悲劇をもたらしている。言うまでもない。冴えない一発ギャグのようなメイキングを行っていた色物たちだ。因果応報である。
ある者はテ○フォーマーズのGキブリ人間のようなメイキングを行っていた。ホウナンから永久追放された。その後、彼の行方を知る者はいない……。
またある者はパンツを被った露出狂で、これもまた永久追放された。その後、彼の行方を知る者(ry
またまたある者は幼女だった。声がオッサンだった。地下牢に無期懲役になった。その後(ry
言い忘れたが、声は現実世界のものなので、性別を偽っていればすぐにバレる。
またこの世界と現実世界の関わりについて述べようと思う。
まず現実世界に関する記憶についてだ。僕が殆ど覚えていないように、程度の差はあれ皆、記憶が欠けているようだった。特に現実世界での姓名を口にできた者はいない。喉まで出かかっているのだが、どうにも声に出すことができないのだ。
また、声は現実世界のものといったが、記憶の混濁により現実の誰なのか当てることはできない。『リベスト』にはボイスチャット機能がついていなかったためこうなったと考えられる。まあネカマ野郎たちは正体がバレないことに安心していたのでもう触れないでやることにした。
手がかりになるかどうかは不明だが、現実世界に関する最後の記憶と思われるのが昼休みの放送だ。音楽コーナーが流れ始めたあたりから記憶がないという証言が多数あるので間違いないだろう。
ついでに、この世界に飛ばされた人々について説明しておこうと思う。この世界に飛ばされたのはおそらく邦南高校内にいた者に限定される。もちろん生徒だけではなく教師も含まれる。しかし、ここはゲームの世界。主導権を握っているのはゲーム好きな生徒だった。大人や子供という区別はない。年齢は見た目に過ぎず、キャラクターメイキングの結果にすぎない。
今分かっていることはこれくらいだ。
僕もこの世界に関して多くを知っているわけではない。少しずつこの世界の謎を解き明かし、帰り道への手がかりを探すしかないのだ。