Ein Neues Spiel~ニューゲーム~
雰囲気説明回です。飛ばしてもいいと思います。ソードとアートで戦う物語よりもサイバーがつながりそうな会社のゲームの世界観に近いと思っています。
仮想西暦2014年
日本にフリーゲームブームが訪れていた。
中でも話題を呼んだのが、フリーのゲーム作成ソフトを利用した無料オンラインゲームだ。
ゲーム内容だが、グラフィック面は2Dのドット絵、BGMは単調で少数、ありふれた世界観、戦闘システム、どれを見てもとりたてて目するところはない。
一つ自慢できるところがあるとすれば、キャラクターメイキングの自由度の高さだろうか。ドット絵ではあるが用意された髪型や服装はその辺の有料オンラインよりもずっと豊富で、カラーバリエーションは無限、既存の版権キャラクターの再現も容易い。メイキングをやりたいがためにアカウントを取得する人も多いという。さらに、上級者は自ら作成したドット絵を取り込み、操作することができる。ネタに走る者、技術力を誇る者、中二心を満たす者など、カオスなキャラが溢れていた。中にはキャラクター作成依頼を商売にする者や売名行為の一環で自作ドット絵を配布する者もいた。
昨年度のアカウント発行数で肩を並べたオンラインゲームはない、という調査結果も出ている。ただし昨年度はオンラインゲームが不作の年であったという声も大きいのだが。
そんなわけで知名度だけはべらぼうに高いのである。
ゲームを始める方法は二つ。データを直接ホームページからダウンロードするか、データをコピーした記録媒体を入手するか。このゲームはなぜかデータが膨大だ。そのため、安定した通信環境を得られない人のためにダウンロードしたデータの入った記録媒体が出回っている。
プレイに関してはそのデータの重さを感じることはない。むしろ快適といっていい。もちろん各家庭の通信状態が悪ければラグが生じることもあるが、そうでない限りプレイを阻害されることはない。ユーザー数が少なくない完全無料のこのゲームをどうやって運営しているのだろうか? 作成者は不明。サーバ維持費の出どころや管理体制の情報なども一切が不明である。ただし、利用者を制限するため、日本国内からのアクセスに限られていた。
噂によれば、某企業が将来発表するであろうサービスのベータ版であるだとか、昔、企画もしくは制作されたが何らかの理由で没になったゲームを有志で再現し、公開しているのだとか、噂は噂を呼んだ。
“僕”も、このゲームの名前は前から知っていた。プレイするのは今日が初めてである。
公式ホームページの手順に従い、ダウンロードしたアプリケーションを起動する。
〉名前を入力してください。
オンラインゲームは初めてだ。どのような名前にすればいいのだろうか。中二と揶揄されるのも嫌だし、かといって平凡な名前は面白味がない。
〉“ヘルド”でよろしいですか?
このゲームのタイトルはドイツ語だ。だからドイツ語で主人公を表す“Held”を名乗ることにした。発音は“ヘルト”らしいが“ヘルド”の方がかっこいいと思った。
〉性別を選んでください。
〉職業を選択してください。
〉槍使いでよろしいですか?
〉外見はこれでよろしいですか?
〉ステータスはこれでよろしいですか?
〉これでキャラクターメイキングは終わりです。
さて、ゲームをはじめようか。
“僕”はスタートボタンを押した。