表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/29

七話 チビーズ

「だ、誰か先に入れよバカ野郎!」


「……ここはリリィの出番」


「ふぇっ! わ、わたしですか!?」


「ちょっとニーナ! それじゃあリリィが可哀想じゃない。ここは言いだしっぺのオデットが行きなさいよ」


「お、オレかよっ! そういうグレタが行けよ」


 部屋の前でワーワーと騒ぐ声にみかねて大地は部屋のドアを開ける。


 そこにいたのは四人の女の子。


 一人は褐色の肌をした活発そうな女の子。


 二人目は愛想が感じられないほど無表情な女の子。


 三人目は気が弱そうな女の子。


 四人目は眼鏡をかけたしっかりとした雰囲気のある女の子。


 歳はみんな十三、四歳ぐらいといったところ。


 大地には何でそんな少女たちが自分の部屋の前にいるのかさっぱりわからない。


「あっ!」


「……男」


「ひっ!」


「きゃ!」


 部屋のドアから出てきた大地を見て少女たちはそれぞれ驚きのリアクションをする。


「……えっと、君らは誰?」


 大地は自分が出てくるなり少女たちに恐がられて内心ショックを受けつつ質問する。


「あ、あたしたちはあなたと同じチームメイトです」


 四人を代表して眼鏡をかけた女の子が緊張した面持ちで答えた。


 ――この子らがシャルの言っていた素人同然の子たちか。そういえばグラウンドでちらほら見かけたな。


「そ、それで新しくチームに入った人がどんな人か気になって……」


 それを聞いてだいたいの事情を察した大地は簡単に自己紹介する。


「俺は久瀬大地だ。よろしく」


「よ、よろしくお願いします。あたしはグレタです。そしてそこの無表情で愛想がなにのがニーナです」


 グレタに紹介されたニーナはボソリと呟く。


「……男は危険」


 その言葉に褐色の肌をした女の子が便乗する。


「そーだそーだ。男はオオカミなんだろー? 男はオレらみたいないたいけな女の子を食べようとするんだろー。……あれっ? でも男がオオカミならオレらは何になるんだ? 羊か? っておい! 誰が羊だ、バカ野郎!」


「こ、コラッ! ニーナ! オデット! 変なこと言わないでよ」


 グレタは大地にすいませんすいませんと何度も頭を下げる。


「別に気にしなくていいよ」


 特に気にした様子もなく受け流す大地。


 大地もさすがに子供の言うことにいちいち目くじらを立てるほど器は小さくない。


「それよりもそこにいる子は?」


 大地はグレタの後ろに隠れている子を指差す。


「ふぇぇっ!」


 大地に指差された女の子は肉食獣に襲われた小動物みたいに縮こまってしまう。


 そんな少女の変わりにグレタが代わりに紹介する。


「彼女はリリィです。内気で人見知りが激しいので初対面の人とはいつもこうなんです」


「そっか。……あれっ?」


 大地は何かに気付いてリリィをまじまじ見る。


「……ひゃう!」


 大地に見つめられてギュッと目を瞑るリリィ。それを見てグレタが大地に尋ねる。


「どうかしたんですか?」


「……視姦」


 とニーナが言うとオデットがまたそれに便乗する。


「視姦だって! 視姦されたら石になっちまうぞ!」


「ふぇえええ! わたし石にされちゃうの?」


 オデットのホラ話を本気で信じたリリィは目に涙を浮かべて怯える。


「ちげーよ。おい、オデット、ウソを言うな」


 話をややこしくさせるオデットに軽く叱りつける大地。オデットは唇を尖らせて不満を漏らすが大地は無視してリリィにやさしく話しかける。


「君……えっとリリィだっけ? さっきシャルとの勝負の時にキャッチャーをやってた子だよね?」


「……は、はい。覚えていたんですか?」


 リリィは自分みたいなちっぽけな存在を覚えていたんですか、と言わんばかり恐る恐る聞く。


「ああ。シャルが倒れた時に診療所の場所を教えてくれたからな」


「い、いえ。本当ならあの時わたしがシャル姉を運ばなくちゃいけなかったのに……」


 自分の力じゃ運べなくて迷惑をかけてごめんなさい、と言おうとするが恥ずかしさで口ごもって言えなくなるリリィ。


 そんなリリィの気持ちをくみ取った大地は元気づけるように言う。


「そんなことないよ。ありがとうリリィ」


「えっ、あの、その……」


 カアッとリリィの表情が急激に赤くなる。


「どうかしたのか? 体調でも悪くなったのか」」


 様子のおかしいリリィを心配する大地。


「い、いえ! なんでもありません!」


 リリィは首がもげるんじゃないかと思うぐらい首を横に振って否定する。


 そんなリリィを見てニーナが一言。


「……落ちた」


「落ちた? 落ちたってどういうことだ? リリィは何が落ちたんだ? ってか落ちたらどうなるんだニーナ?」


「……大人の階段を上る」


「なにっ!? 落ちたのに上るってどういうことだよ!」


「……秘密」


「ぐあああ! 気になるぜバカ野郎おおおおおお!」


 オデットは頭を掻きむしりながら絶叫するとグレタが頭にゲンコツをぶつける。


「うるさいわよ!」


「ぐぇ!」


 ――賑やかだな。


 と大地は女の子たちを見てそんな感想を抱くが同時に不安も抱く。


 ――こんな子らで試合に勝てるのか?


 そこにグレタが申し訳なさそうに話しかけてくる。


「あ、あの……」


「ん? どうかした?」


 グレタは言おうか悩むが、意を決して言う。


「あたしたちに野球を教えてください」


 グレタが頭を下げるとオデット、ニーナ、リリィの三人も続く。


「そうだそうだ! オレらに野球を教えろバカ野郎!」


「……お願い」


「お、教えてください!」


 予想外の申し出に大地は少し驚く。


 大地としては選手の実力を把握して練習の内容を指示できるのは願ってもないことだ。時間がないのだから効率の悪い練習をして時間を無駄にしたくはない。


 しかしながら大地は部外者だ。そんな自分にどうして彼女たちは野球の教えを乞おうとするのか不思議だった。


「教えるのは構わない」


 大地がそういうと嬉しそうに顔をする四人。そんな四人に大地は質問する。


「だが何で俺に野球を教えを乞うんだ? シャルに教えてもらえばいいんじゃないのか?」


 不可解だからこそ何か裏があるのかとつい勘ぐってしまう大地。


「それは……」


 大地の質問にグレタは言葉を濁す。


 ――何か理由があるのか?


 そんなグレタの代わりにオデットが話す。


「つれーんだよバカ野郎!」


「どういうことだ?」


「シャル姉の練習はオレらみたいな素人にはついてけねーんだよ! 朝からグラウンド一〇〇周とか無理なんだよ! かといってソフィア姉の練習も倒れるまでしごかれるから身体がもたねーんだよ!」


「こ、コラッ! そんなこと言ったら教えてくれてる二人に悪いでしょ!」


「わかってるよ! でもこのままじゃいつまでたっても上手くなれねー気がするのも事実だろ! このままじゃ孤児だったオレらを拾って面倒見てくれたシャル姉に恩返しできねーじゃねーか」


「そうだけど……」


「さっきもシャル姉の球をホームランにするやつなら上手いはずだから教わる価値はあるかもしれないって話し合ったじゃんかよ!」


 ――……そういうことか。


 オデットとグレタの話を聞いてだいたいの事情を把握する大地。


 ――経験者に教えてもらおうにも素人だから基礎的な体力が違い過ぎて練習についてけないのか。

 ――かといって教えてらもってる以上文句は言えない。

 ――そしてシャルに恩を返したくて選手になったのか。


「事情はわかった。今日は練習メニューを色々考えておくから明日グラウンドに集合な」


「「「「はい」」」」


 そう元気よく返事する四人。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ