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六話 寮

「あれが寮か」


 診療所でシャルの話を聞いた大地は選手が寝泊まりしている寮へと向かっていた。


 グラウンドから歩くこと一〇分ほどの場所に寮はあった。


「……寮ってか、屋敷だな」


 大地は中世の貴族が住んでいたような物々しい屋敷を見てそう呟く。


 ――まあ野球の強さが国の力になるんだから、そこに住む選手の待遇もよくしなきゃいけないんだろうな。


「あなた様が助っ人の久瀬大地様ですね?」


 寮に着くと大地を出迎えたのは黒のロングドレスに白いエプロンを身に着けた女性。


「そうだが、あんたは?」


「わたくしはこの寮でメイドをやっておりますジジです。どうぞお見知りおきを」


 とジジは両手でスカートの端をつまんで一礼する。


「あ、ああ」


 ――メイドまでいるのか。


 自分がいた世界との寮のスケールが違いを過ぎて唖然とする大地。


「シャル様からお話はうかがっております。さっそくお部屋へご案内いたしますのでお手荷物をこちらへどうぞ」


「いや、自分で持つ」


 さすがに女性に荷物を持ってもらうのは悪い気がして自分の荷物は自分で荷物を持つ大地。


「かしこまりました。ではお部屋へご案内いたします」


 と言ってジジは大地を部屋へ連れて行く。


 寮の中のつくりはしっかりしており、高そうな壺などの装飾品も飾られていて大地には寮とは思えなかった。


 ――寮にここまでする必要があるのか? それに広いな屋敷だな。どんだけ部屋があるんだろ。


 そんな大地の気持ちを見透かしたかのようにジジは喋り出す。


「この寮には食堂や図書室、大浴場の他に室内でも練習できる設備が整っており、部屋も三〇部屋ほどあります」


「そんなに……」


「ですが今はすっかり人がいなくなってしまい空き部屋だらけですけど」


「ああ」


 ジジの言葉を聞いて大地はシャルが言っていたことを思い出す。


 元々この国の王はシャルではなくシャルの姉のシエルだった。そしてそのシエルの率いていたチームは小国ながら強くメルキド帝国が相手でも負けることはなかったほどだった。


 しかしメルキド帝国が宣戦布告する少し前に国王であったシエルが突然の急死。


 その後中立国のミリルにある学校に留学していたシャルが王位を継ぐために国に戻ってきたが、チームを率いていたシエルが死んだことによりチームメンバーのほとんどが辞めていった。


 そもそも小国でありながら大国メルキド帝国以上の優秀な人材がいたのはシエルの圧倒的なカリスマだった。野球の実力はさることながら魔法使いとしても実力のあり、人柄も良くシエルに惹かれてチームに入ってきた選手がほとんどだった。


 何人かは残った選手もいたが、メルキド帝国との戦いに二度も敗れて自信を失って結局辞めていった。


 この世界では軍隊というものはなく、各々が所属したい国を選び、辞めたければ自由に辞めることができる。


 大地はそれに疑問を感じたが、シャルにそういうルールだと諭されとりあえず納得することにした。


 ――だから優秀な選手を逃さないために寮なのにこんな豪華な作りになってるわけか。

 ――にしてもあいつはまだ俺とそう歳が変わらないのに小国とはいえ国を背負ってるのか。あいつも苦労してんだな。内政の方は代わりにやってもらっているけど当面はメルキド帝国をどうにかしないといけないな。国の存亡がかかってるわけだし。

 ――なにより次の試合に勝たなきゃ俺は元の世界に帰れない。

 ――でも選手がほとんどいないのは辛いな。シャルから聞いた話じゃ次の試合に出てくれるのは素人同然のやつらしいし。さっきキャッチャーをやってた子も素人だしな。それでもシャルと俺を含めて九人か。厳しいな。


「着きました。こちらが大地様のお部屋です」


 これからのことをどうしようかと考えていたら部屋まで到着した。


「どうぞ」


 ジジはドアを開けて部屋に入るように促す。


「……」


 部屋に入った大地は絶句する。


 大地の部屋はまるで王室の部屋並みの豪華さだった。部屋の広さはさることながら、くるぶしまで埋まるほどふかふかの絨毯、大地が大の字になって寝ても十分に余裕がある天蓋付きのベッド、高級感あふれるソファー、などなど。


 ――すごい部屋だな……。でも、


「えっと、申し訳ないけど別の部屋に変えてもらえないかな?」


 木造二階建てのボロアパートに住んでいた貧乏人の大地にとってはこういう部屋は落ち着かない。部屋を汚したり備品を壊したらどうしようと考えてしまい気が休まらないからだ。だから大地は部屋を変えてもらうように申し出る。


「お気に召しませんでしたか。しかしこれ以上の部屋はご用意できませんし……」


 申し訳なさそうに言うジジ。


「いやいや、そうじゃなくてもっと普通の部屋とかないの?」


「普通の部屋ですか? ありますけどこの部屋じゃなくて本当によろしいんですか?」


 ジジはなぜ大地がそんな希望を出すのか疑問に思う。


「はい。その部屋でいいです」


「……わかりました。こちらへどうぞ」


 次に案内された部屋はさっきのような王侯貴族の部屋ではなく、シンプルな作りの部屋。カーペットも敷いてなければふかふかのソファーもないが、大地が住んでいたボロアパートよりも格段に上のランクの部屋だ。


「こちらは二軍の選手が使う部屋なんですがよろしかったでしょうか?」


「ええ、大丈夫です」

 ――ってことはさっきのは一軍が使う部屋なのか? 実力ごとに部屋の質を変えることでモチベーションを高めようってことか。


「生活に必要なものはだいたい部屋にご用意してありますが、何か必要なものがあればわたしくめにお申し付けください」


「それなら着替えとかあるかな? 代えの服とかあると助かるんだけど」


「かしこまりました。すぐにご用意します。他にもグローブやスパイクといった野球道具の準備やお手入れもしますけど?」


「いや、それは大丈夫だ」


 ――道具の手入れは自分でできるし、どうせ一か月くらいなら新しく道具を用意しなくてもいいだろう。

 ――それよりも異世界にスパイクとかグローブを作る技術がある方が驚きだ。シャルのグローブも俺のいた世界と品質は変わらないし……。


「そうですか。また何か用事がありましたら呼んでください。では」


 ジジは軽く一礼してから部屋を出ていく。


「とりあえず向こうの世界から持ってきた荷物を整理するか」


 大地はバックを降ろして自分が持ってきたものを確認する。バックの中にはキャッチャーミットやスパイクといった野球道具の他にピンポン玉やタブレット端末といった野球に関係なさそうなものまで色々入っていた。ちなみに携帯電話もあったが当然のように電波はなく圏外だった。


 しばらく荷物のチェックをしているとコンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。


「どうぞ」


 誰だ? と思いながらも入室を許可する。


 ……。


 …………。


 ………………。


 しかし誰も入ってくる気配はない。

 冷やかしかと思ってドアへ近づくと外から女の子の声が聞こえてきた。


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