五話 勝敗
「……ん」
目を覚ますとベッドの上だった。
シャルはすぐにそこがグラウンドの近くに作られた診療所であることに気が付く。
「やっと目が覚めたか」
「……貴様は」
声をかけてきたのはさっきまでグラウンドで戦っていたあの男だった。
「魔球の投げ過ぎによる疲労だってよ。身体に異常はないみたいだけど今日は大事をとって休めって医者が言ってたぞ」
――そうだ。私は気力を使い果たして投げた後に倒れて……。
「ったく、マウンドで気絶するほど投げるなんてムチャするなよな」
「う、うるさい!」
羞恥心で顔が真っ赤になるシャル。
「うるさいくない。お前はエースなんだろ。自分の体調管理は自分でできるようじゃないとダメだろうが。もしものことがあったらどうするんだ」
「……うっ」
大地に正論を言われてシャルは返す言葉がなかった。エースたるもの自己管理までできて一人前だと尊敬する姉に言われていたのを思い出す。
そしてだんだんと落ち着いてきたシャルはさっきから気になっていた勝負の結果を聞く。
「……なあ、私は負けたのか?」
「……引き分けってとこだ。三打席目はバットに当てることはできたがファールだったからな」
「そうか」
シャルは勝負のことを思い返して悔しそうに布団を握り締めるが、自分よりも目の前にいる男の方が悔しそうな表情を浮かべる大地を見てシャルは疑問に思う。
「待て、なぜ貴様はそんなに悔しそうなんだ?」
――追い込まれていたのは私だったはず。それなのになぜこの男が悔しがるんだ。
すると大地はふて腐れるように答える。
「当たり前だ。同じ球を七球連続で投げられて当てることしかできなかったんだぞ、悔しくないわけがない」
「……」
――今まで誰も当てたことのない球を当てただけでもすごいことなのにこの男は悔しいというのか。
――この男は今まで見てきた男とは違うな。だが、変な男だな。
そう思いシャルは無意識のうちに笑みがこぼれた。
「ん、なぜで貴様は急に私の顔をまじまじと見るのだ!」
「いや、そんな風に笑うんだなって思ってさ。出会ってからのお前はずっとムスッとしていたからな。そういう風に笑うと女の子っぽいな」
――笑う? そういえばここ最近笑っていなかったな。しかし、
「それではまるで普段の私が女の子っぽくないと言っているのか?」
「えっと、その、傷つけたのならすまん。うちの妹に言わせると俺はどうも女心がわかっていないというかデリカシーがないみたいだ」
「気にするな。私も友人からは女らしくないといつも言われているから慣れている。冗談だ」
「冗談か」
大地は先ほど自分が言った冗談を思い出して苦笑する。
「それよりも貴様は何者だ。貴様のような選手がどこの国にも属しておらず名前すら知られてないことなどありえないことだ」
「ああ、そりゃ異世界から連れてこられたからな」
なんでもないことのように答える大地。一方大地の言葉を聞いてシャルは驚きの表情を浮かべる。
「い、異世界だと! 異世界から人間がやってくるなど過去にたった一度しかなかったことだぞ。ありえん」
「つっても現実にこうしてるわけだしな。一度あったんだから二度目もあるんじゃないのか?」
「むっ」
――確かにこの男の言う通り一度あったのなら二度目もある可能性もある。。
「まあ詳しくは俺をこの世界に連れてきたシェリルに聞いてくれ」
「シェリル、だと。貴様それは本当か」
シェリルと聞いて表情が険しくなるシャル。
「ああ。本人がそう名乗っていたからな。何か問題でもあるのか?」
「大有りだ。シェリル、シェリル・エストリアはこの国の建国者で唯一異世界から人を召喚したことがある人間だ。もう何百年も前に死んでいるのだぞ」
「おいおい、まさか俺をこの世界に呼んだのは幽霊か何かって言うのか?」
「わからん。誰かが私の先祖の名を騙っている可能性もある」
シャルはかぶりを振って答える。
そこで大地がシャルの言葉に違和感を覚える。
「ちょっと待て。先祖だと。シェリルってのがこの国の建国者でお前の先祖ってことはその血を引いているお前は何者なんだ?」
「一応この国の王だ」
さらっと答えるシャル。
「俺と同じぐらいの歳なのに王様って」
若干あきれ顔の大地。
「そうは言っても人口数万ほどの小国だから大したこともないし、私の場合は王族が私しか残っていなかっただけだ」
とシャルはどこか遠いところ見るように語る。
「だが貴様の話が本当ならシェリルと名乗った者は何が目的なんだ」
――果たして敵なのか味方なのか……。
「さあな。わかってることはわざわざ俺を異世界から連れてきてまでこの国が滅ぼされるのだけは避けたいってことぐらいだ」
シェリルの疑問に大地は肩をすくめて答える。
「つーか、そんなにこの国は追い込まれているのか? お前ほどのピッチャーがいればそうそう敗けるはずがないと思うんだが」
「……うっ」
大地の指摘にシャルは言葉を詰まらせる。
「何かあったのか?」
「そ、それは……」
シャルはとても言いづらそうに答える。
「辞めてしまったのだ。ほとんどの選手たちが……」
「はい?」
大地はシャルの言葉の意味がよくわからずキョトンとしてしまう。
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人類にとっては小さな一歩ですが、私にとっては大きな一歩です。
と、名言っぽく言ってみましたが素直に嬉しいです。
これからも頑張って執筆していきたいです。
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