プロローグ
「小説家になろう」初めて投稿します。
まだまだ投稿機能になれない部分がありますが楽しめてもらえたら幸いです。
ジリリリと目覚まし時計の音が木造二階建てのアパートの一室に鳴り響く。
時刻は朝七時。
久瀬大地は眠たそうな表情を浮かべながら布団から起きて目覚まし時計を止める。そして寝ぼけ眼で狭い部屋に置いてあるグローブやボール、スコアブックなどの野球道具を見回してから再び布団へと潜り込む。
そこへ、大地の二度寝を見透かしたかのように部屋のふすまが勢いよく開かれる。
「おっはよー!」
元気よく部屋に入ってきたのは中学生ぐらいの女の子。大地の妹の璃子だ。
そんな妹に大地は眠たそうにまぶたをこすりながらあいさつを返す。
「……おはよう」
投げやりな兄の態度に璃子は驚きの声を上げる。
「うわっ! なにその態度!」
「なにっていつも通りだろ?」
璃子とは対照的に大地はだるそうに答える。
「いやいやいや! いつも通りだから驚いてるじゃん! 今日は甲子園出場をかけた決勝戦だよ。なのに何でそんなに余裕なのさ。普通だったら今日は緊張するなーとか、絶対に勝つぞーとか、今日も妹は可愛いなーとか、最近胸が大きくなってきたなーとか、色々思うところがあるでしょ」
「……お前は兄に何を期待してるんだよ。だいたい今さら慌てたってしょうがないだろ。いつも通りやって勝つ。それだけだ」
「はぁ」
兄の余裕のある発言に璃子は思わずため息が出る。
「あのさ、毎年一回戦負けだった弱小公立校だった野球部が甲子園出場なんて奇跡みたいなことなのに何でそんなに余裕なのかなぁ」
やれやれとあきれる璃子。
「まあいいや。とりあえず朝ごはんできてるから食べちゃって」
「はいはい」
妹に促されて大地は渋々布団から出てパジャマのまま居間へと向かって朝食をとる。
「ねえ、兄ちゃんは後悔してない?」
食事をしてしばらくすると突然そんなことを切り出してきた璃子。その表情はさっきまでの飄々とした表情ではなく真面目な顔をしていた。
「後悔? 何を?」
璃子の質問に大地はとぼけたように答える。
「弱小の公立校に入ったことだよ。兄ちゃんだったら名門校からのスカウトだっていっぱいあったはずじゃん。それに兄ちゃんの実力なら一年から即レギュラーだって取れただろうし、こうやって三年間かけなくてももっと簡単に甲子園に出れたかもしれないのに。それってやっぱ……」
璃子はそこから先を聞くのが恐ろしくて言葉を一度切る。しかし今日こそは聞いておこうと思い勇気を振り絞って大地に恐る恐る続きを聞く。
「やっぱ、あたしのせいなの? 遠くの高校に行ってあたしをひとりぼっちにさせないために……」
大地と璃子に両親はいない。両親は二人が幼い頃に交通事故で死んでしまった。そのショックで幼かった璃子は唯一の肉親である大地までどこかにいなくなってしまうんじゃないかと不安で大地に引っ付いていた。大地がそばにいなくなるとすぐに泣きだして周囲を困らせていたほどだ。そのせいで大地は璃子から離れることもできずいつも璃子のそばにいなくてはならなくなった。
「だから名門校のスカウトを断って家の近くの公立校に入ったの?」
自分のせいで兄の人生を変えてしまったんじゃないかと思ってだんだんと暗い表情になる璃子に、それを見て大地は眠たげな目をしながら言う。
「ちげーよ」
「えっ?」
「俺が蒼峰を選んだのは朝が弱いからだ。家から近ければゆっくり寝れるだろ? それに名門って上下関係が厳しそうだからな。俺はそういうのが苦手なんだ。だから後悔もしてないし璃子が気にすることなんてねーんだよ」
「……そ、そうだよね。兄貴って朝弱いもんね。あたしが起こしてあげなきゃいつも遅刻しちゃうもんね。それに性格も口も悪いから先輩とかと折り合いをつけるのとかヘタそーだし」
大地の話を聞いて元気を取り戻した璃子はうんうんと自分にそう言い聞かせる。大地はそれを聞いて自分は妹にそう思われていたのかと少し落ち込む。
「いやー、甲子園に出るのが兄ちゃんの昔っからの夢だったもんね。もし今日負けて甲子園に出れなかったらあたしのせいなのかなーって思ってブルーになっちゃったじゃん。これはいわゆる、マリッジブルーってやつだね」
「それは意味が違うだろ」
璃子がすっかりいつもの調子に戻って大地は一安心する。
「ちなみに下着は白だけど」
「聞いてねーよ。それよりもさっさとメシにするぞ」
「はーい」
と元気よく返事をする璃子。
そして朝食を終えると大地はユニフォームに着替えて準備を始める。
「あれっ、もう行くの? 試合って昼からじゃないっけ?」
「ああ、試合の前に打ち合わせとか色々とやっておくことがあるからな」
「そっか。試合頑張ってね!」
「おう」
大地は準備を終えると妹に見送られて家を出て学校へと向かう。
「……?」
途中、不意に誰かの視線を感じて立ち止まって周囲を見回してみるが誰も見当たらない。
「気のせいか」
そう判断して再び歩き始めるが、しばらくして大地は立ち止まることになる。大地の目の前に穴が開いていたからだ。しかもその穴は地面にではなく、空中にぽっかりあいていたのだ。
穴は真っ暗で先が見通せず、人一人をまるごと飲み込むことができるほどの大きさの穴でありながら奥行きはまったくない。
「なんだこれ?」
思わず首を傾げる大地。
そんな大地に背後から声がかけられる。
「これはゲートです。異世界の」
「!」
いきなり後ろから聞こえてきた声に振り返ろうとする前に、背後から強い衝撃を受けて大地は黒い穴の中へと押し込まれてしまった。背後から声をかけた人物が大地の背中を思いっきり押したのだ。
大地の背中を押した人物は大地が黒い穴に入ったのを確認すると自分も黒い穴へと入り込む。すると黒い穴はしだんだんと小さくっていく。
そこに、さっきから離れたところで大地を観察していた人物が大地を追いかけるように慌てて黒い穴の中へと飛び込んでいく。
大地と大地を黒い穴に押し込んだ人物、そしてそれを追いかけて行った人物の三人を飲み込むと黒い穴は何事もなかったように消え去ってしまった。