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ぺトとイエス  ~いつくしむ心~ 

歩き続け、もう駄目だとぺトが思い始めた時、一軒のボロイ小さな家があるのに気がついた。庭には鶏が一匹。痩せた牛が一匹。




「ついたよぺト。」




その言葉にほっとして顔が緩むぺト。




「すみませーん!!どなたかいらっしゃいますかー!?」




「はーい。どちら様でしょう?」




家の中から慌てて現れたやせ細った家の大黒柱。その男は笑顔を絶やさず見ず知らずの人間を眺めている。




「私達は旅の者です。ですがお金も何もありません。何も無い我らですが、もしよかったら一泊、泊めてもらえないでしょうか?」




とぺトがいい終わるか否かに男はその優しい眼差しのまま答えた




「いいですよ、ええ、いいですとも。困った時はお互い様です。私たちの家で泊まっていきなさい。こんなボロボロですが。」




男の申し訳なさそうな寂しそうな顔をし始めたとき、やっとイエスは答えた。




「いいえ。私には豪華な屋敷に見えますよ。」




その言葉に驚きながらも嬉しそうに笑う男。




「師匠?それ褒め言葉ですよね?」




とぺトがひそひそ聞く




「ううん。私の本音だよ。それにしても本当に居心地が良いなぁココは。」




ココのどこが豪華な屋敷に見えるのかぺトにはどうしても解らない。だが、イエスは本当に居心地がいいらしい。はにかむ笑顔で言葉を繋ぐ。




「物質的なものじゃなく、心、魂が豪華なんだよ。ココの人達。」




その何もかも見通したような台詞と深い深い眼差しを向けるイエスに、ぺトは何も言えなくなる。このお人は心まで、人の隠し持つ感情や素質まで見抜けるんじゃなかろうかと思えるほどに、イエスの発言はぺトを少し困惑させた。




「...後に、わかるよ。」




そう言ってイエスは晩御飯を食べに行った。もちろん、その家の奥さんと子供が呼びに来たからだ。


食べ終わった後に気がついたことがあった。さっきまで鳴いていた鶏がいない。そして皿にはやせ細った鶏のスープ。見たところ、この家族の服、家の家具やらはボロボロで、だけどまだ少しくらいは使えるみたいだ。うん、貧乏なんだな。とぺトは確信した。




でも待て。だったら先ほどのスープは?




まさか、最後の食べ物を、最後の鶏を分けたのか?




何故?取り分と言うか明日の食料になることができたのに、それを顧みずに分けた。明日はどうするのだろう。




「先ほどのスープは本当に上手かった。ありがとう」




そう微笑む師匠を横目に見ながらぺトは考えていた。何故、見ず知らずの輩を泊め、最後の飯かもしれない晩餐を分けたのだろうか。




「ところで、よかったんですか?最後の食料のスープを...」




ぺトは無意識に質問していた。気ずいた時すでに遅かったが、大黒柱はハハハと笑うと話し始めた。




「大勢で食べると楽しいし、食事がめいっぱい美味くなります。人と分け合うことは相手にも自分にも幸せを贈ると私は思っとりやす。幸せを独り占めなんて事はしたくありませんなぁ。」




「そうですか...しかし、こんな我らを泊めて本当にいいんですか?怪しくありません?泥棒とかの疑いはしないんですか?」




そこでその大黒柱が笑いながら真剣に答えてくれた。




「私は他の者も、兄弟のように、家族のように思っとります。神に生を受け、一生懸命生きてる。神の元では、我々は皆、彼の子。ならば、どうして困った“兄弟“を見捨てなければいけないのですかな?」




その言葉にぺトは何も言えなかった。その男の魂を、一部感じたように思えた。ああ、そうか...たしかに居心地が良い。




その日の夜、イエスにぺトは話ていた。


「ココの家族は貧乏でも居心地の良い心を持ってるんですね。イエス師匠。」

「ふふ。そうだろう?」

「...何とかこのお礼がしたいんですが...ムリですよねぇ...」

「...うーん。」

「あんなに良い人達なのに...どうしてこんなに不自由な生活をおくらにゃならないのか。俺は納得が...いきません。」

「...そう?」

「せめて...お金持ち...になってくれれば...きっともっと多くの人達を... 助けるんだろうなぁ...」

「...そうでもないかもしれないけどね。」


イエスが放った最後の言葉はぺトには届かなかった。代わりに疲れ切った凄い寝息が聞こえてくるだけだった。



次の日、彼らはその家族に大いに感謝し、旅を再開した。


「...あの家には、多分もう入れないんだろうな...」


そんな悲しげに俯くイエスを見ながらぺトは意味が解らないまま顔をしかめた。


「何を言ってるんですか。また来ましょうよ。」

「...まぁ、君がどうしてもって言うならね。このまま失くさないでいてもらいたいな」

「なにをです?」

「いつくしむ心を」

「??」


その三年後、ぺトは嫌と言うほどイエスが放った言葉を思い知る羽目になる。



続く

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