正しさを決めるのはお前じゃない
胸糞注意
「公爵令嬢テプレン! 余は貴様との婚約を破棄する! 貴様はシリンを平民と言う理由で虐げた! その罪は万死に値する! 天が許しても! 余は許さん! よって貴様との婚約を破棄するぅ! 」
華やかな夜会、美しいドレスと煌びやかなシャンデリアが輝く。
今日は、とある大きな王国にある、王立魔法学園の卒業パーティー。門出の舞台を汚された卒業生達は愚かな王子を睨み付ける。
「殿下? 門出を祝うパーティーですわよ? 時と場所を考えてくださる? 」
シルバーの髪を靡かせて口を開くのは、公爵令嬢テプレン。王家に次ぐナンバー2の公爵家令嬢だ。フツーに考えて王子と公爵令嬢の婚約は当たり前だ。生まれる前から決まっているのだ。
しかし、愚かな王子は意に介さずに門出の舞台を汚し続ける。
「そうやって言い逃れしようとしても無駄だ! 決定的な証拠がある! 」
「あらあら。見せていただけるかしら? 」
「シリン! 前へ! 」
周囲がドレスコードの中で一人だけ制服の少女、平民の特待生シリンが姿を現す。卒業生達はゴミを見る目で彼女に視線を送る。神聖なる魔法学園に卑しい身分の者が居るなどあり得ないからだ。
王子はシリンに問うた。「シリン。あの女に虐げられたんだろう? 忖度なんてしなくて良いんだよ? 」
忖度。まさか異世界でも使う奴が居るとは、とテプレンは冷笑する。
テプレンはこことは別の世界、地球の令和日本からの転生者だ。ブラック企業で奴隷のようにこき使われて過労死した。
前世の日本はオッサンと冴えない男とそれらに媚びてる馬鹿女しか居らず、息苦しさを感じていたが、ようやく異世界で陽の目を浴びた。
(何処の世界にも馬鹿は居るものね。金髪のモラハラ男······願い下げよ! )
平民の少女シリンは口を開いた。
「う······うむ。ソイツにお······脅された······オージに近付くとこ······殺すぞって······」
シリンの言葉に何人かの令嬢は顔を青ざめた。蝶よ花よと育てられた下位の令嬢達だ、おかしくは無い。面白おかしく嘲け笑う者達も居たが、これらは公爵家の敵対派閥の家の者達だ。スキャンダルに飢えているのだろう。
「ええと? まさか、証拠がそこの平民による証言だけですの? 呆れましたわね、妄想だけで誰でも罪人にされてしまうなんて恐ろしいわ」
テプレンは王子の愚かさを蔑み、場の主導権を握る。
実際の所、殺す等と言う物騒な言葉は使っていない。婚約者に近付くな、平民など存在自体を消すことが容易だと言ったのだ。
(いくら教育を受けていない平民でも、フツーはこれで察するんだけどね)
そんなテプレンの思いとは裏腹に、愚かな王子はドヤ顔で声を張り上げる。
「確定だな! シリンの言葉こそが! 何よりの物的証拠だぁ! 」
「ぶ······物的では無いけどな······」
最早、突っ込みを入れる事すら馬鹿らしいとテプレンは溜め息を吐く。
「承知致しましたわ。婚約破棄、受け入れましょう。しかし、殿下? 貴方の後ろ盾は公爵令嬢である私との婚約ですわ。それを失った貴方が王位を継承出来るかは······どうでしょうねえ? それでは······」
スカートの裾を持つ見事なカーテシーを決めて、テプレンは勝ち逃げする。会場の卒業生達は完全に王子に愛想を尽かしている。勝者は紛れも無くテプレンだ。
「ま······負け惜しみだな······王子に捨てられた女なんて······貰い手なんか居ない·····てかさせねー」
シリンは勝ち誇った顔でニタリと吐き捨てる。
(本性を表したわね。まぁ、平民の王妃など待っているのは地獄なのだから、心配するのは自分のこれからではなくて?)
これ以上、茶番に付き合ってられないとテプレンは会場を後にしようとしたが、突如として扉は開かれる。
「口を閉じろ平民、俺様のテプレンが汚れる」
現れたのは、銀髪のイケメン。高身長、高スタイルの第二王子プリスンだ。馬鹿王子の腹違いの弟だが、兄とは違って傑物だ。テプレンとも親戚関係に有り、馬鹿王子の事で相談に乗って貰う過程で仲を深めていた。氷魔法の貴公子とも呼ばれ、凍てつく彼の周囲にはテプレン以外の女を拒絶するブリザードが吹いているかのようだ。
「へ······平民に何か言われたくらいで汚れるなら······その程度だな······フフフ」
シリンは盛大に煽る。恐らく、煽りの達人として爵位を貰えるのでは? と思えるくらいの悪い笑みだ。
「なっ······! 」
テプレンは顔を真っ赤にする。敵対貴族の子供達は「言い得て妙ですね」 「図星なのかしら? 」 とクスクス笑う。
プリスンは怒りに怒る。「俺様の愛しのテプレンを笑う者はどうなるか分かってるな? 」 と呟けば、皆が押し黙って顔を俯けてしまった。背後には極寒の吹雪が見えるかのようだ。
しかし、シリンと言う少女は空気を読まない事に定評がある。言ってしまったのだ、「で? ど······どうなるんだ······? 」 と。
「発言を許可していない、平民風情が······」
プリスンは身分が低い者が高い者の前で許可無く発言をしてはいけない事を示すも、シリンは納得しない。
「し······質問に答えろ······どうなるんだ? 」
テプレンは「平民が口を開くなぁ! 」 と声を荒げるもシリンは意に介さない。
「どうなるんだ? 三回言った······」
「愚かなる愚弟よ······いい加減に答えろ」
愚かなる王子もプリスンに呆れているようだ。
「腰痛が痛いみたいに言うな······」
「シリンよ······腰痛と言う症状で痛いのであれば、それは腰痛が痛いのだよ」
突如として始まった馬鹿王子と平民の漫才に呆れ果てる会場。門出の日に何を見せられているのだと、卒業生達は憤慨する。そして、いつまでも場を静められないプリスンとテプレンにも怒りの視線は向かう。
「······勿論殺すに決まっているだろ! 愛しのテプレンを笑う者は皆殺しだ! 」
「プリスン······! 嬉しい······! 」
ゾッとする会場とは裏腹に、ピンクの花模様のようにイチャイチャするプリスンとテプレン。
「う······嬉しくはねーな······国の行く末が心配なんだな······テメー、馬鹿兄貴と変わらねーぞ? 」
しつこく回答を催促したシリンは納得の行かない表情だ。
「コイツらは······仮にテメーが王になった時の家臣になる奴らだろ······笑われるような女を侍らせてる事を棚に上げて······家臣殺すたぁ何の冗談だ? 」
馬鹿王子は「そーだ! そーだ! 」 と囃し立てる。卒業生達も、今回ばかりは馬鹿王子に付くようで、プリスンを非難する声を上げる。
「平民風情がぁ! 不敬罪よ! 処刑してやるから! 」
テプレンは顔を真っ赤にして怒るが、シリンは無表情で口を開く。
「平民フゼーの言葉で取り乱すとは······か······格が知れるぞ······? 」
「勝負アリであるな! 守るべき民を傷つけるとは、言語道断! 」
お前には言われたくねーよ、と会場のギャラリー達の誰もが思ったが、とりあえず今は言わぬが仏だと察する。
「ッ······! コイツら全員不敬罪で殺してよ! 公爵令嬢にこんな無礼な態度······ありえねーから! 」
取り乱し、下町の不良娘の言葉を宣い出したテプレン。卒業生達、特に令嬢達は失望を隠せない。
「俺様のテプレンを傷つける者は······我が氷の魔法で凍え死なせてやる! 」
愛する者を傷つけられたプリスンは激昂し、凍てつくような顔で氷魔法の詠唱を始める。
会場はパニックとなる。戦略レベルの魔法で都市一つを氷漬けにする程の威力だからだ。
「シリンっ! あれ? シリン? 」
馬鹿王子はシリンを庇うため、彼女を探すが、彼女は既に自分とテプレン以外の全てを氷漬けにしようとしているプリスンの背後に回っていた。
「テプレンを傷つける世界など! 俺様が滅ぼして······えっ? 熱うううううう! 」
プリスンの身体は、突如として炎で燃え上がる。世界を氷漬けにせんとするかのように息巻いていた氷の王子は、イカ焼きのようにこんがり焼かれている。特待生であるシリンの炎魔法は、プリスンの氷魔法など軽く凌駕していたのだ。
「······あっ······ああ······」
「嫌ァアアアアっ! プリスンっ! こんなの······嫌アアアア! 」
テプレンはこの世の終わりかのような悲鳴を上げる。それはそうだ。プスプスと煙を上げて黒焦げになったプリスンには、かつての面影は無い。美しい銀髪はチリチリに焦げて、アフロヘアーの出来損ないのようになっている。
「え······えへへ······燃やしてみたったっ······! 」
嬉しそうなシリン。この女、無邪気な子供のような笑顔で人一人を燃やしてみせた。
会場はパニック状態で、ショックで倒れ込む令嬢も居る有り様だ。
「へ······平民風情がぁ! 次期国王であるプリスンに何をしたぁ!? 」
鬼の形相で腹の底から叫ぶテプレン。今世で出来た愛する人を燃やされたのだから当然であろう。
しかし、シリンは飄々としていた。
「こ······氷の貴公子って燃えるなかなって······燃えたな······! 」
「シリンよ? 我らの愛の炎は、氷の氷山すら溶かすぞ? 」
「辛味噌ラーメン味辛めみたいに言うな······」
「余は醤油ベースに辛味噌を溶かすラーメンの方が好きだぞ」
いつもの頭の悪そうな漫才が始まる。テプレンは頭に血がのぼり沸騰した。
「どっちでも良いんだよ! クソ共がぁ! 平民のクソ女ぁ! テメーは許さねぇ! 公爵家の力でテメーの親兄弟に村と全部灰にしてやるよぉ! 」
キレたテプレンは前世の人格が全面に出るも、隠すつもりは無い。
「公爵家の力で会場のテメーら全員血祭りに上げてやらぁ! ヒャッハっハッ······」
「どっ······何処までも実家頼みなんだな······黒焦げ王子はあくまで自分の力で事を起こそうとしたぞ? 」
「偉大なのは貴様の父であり、貴様では無い」
会場の卒業生達もコイツらにだけは死んでも言われたくないと思ったが、この状況に関しては正論のため、同情はしない。
テプレンは顔を真っ赤にして、子供のようにわめき散らすが、会場の目線は冷ややかだ。
バァンッ!
唐突に、しかし盛大に開かれた会場の扉。現れたのは騎士団、そして国王。馬鹿王子とプリスンの父親である。
国王は 「愚か者め」 とこちらを見据える。テプレンは勝利を確信した。王命による婚約を破棄するような馬鹿王子と王族に危害を加えた平民はここで終わりだと。
しかし、騎士団長によって読み上げられた罪状はプリスンとテプレンによる国家転覆罪であった。国王が失望していたのはプリスンの方だったのだ。
「はぁ!? ふざけんじゃねえぞ! 何で私が!? コイツらが罪でっち上げたに決まってんだろ!? 証拠あんのかよ!? 」
「お······お前がシロと言う証拠も無い······」
「クロっつー証拠もねぇだろうがよぉ! 殺すぞクソアマァ! 」
「証拠なんて必要無い······貴族社会で醜聞は命取り······会場の学友達が誰もお前を庇わない時点で······お前は妃の器じゃない······」
「愚かなる愚弟との恋愛ごっこをしてる暇があったのなら、学園で多くの者達と人脈を作っておくのであったな」
「愚かなる愚息よ······馬を馬術で走らせるみたいな事を言うでない······」
「カエルの子は······カエルなのだ······」
ロイヤル茶番とは、この事を言うのだろう。卒業生達は呆れ果てて溜め息を漏らす者ばかりだ。
「お······おい······最期にだが······お前のカーテシー······間違ってるぞ······正しくはこうだ······」
シリンはテプレンのスカートの裾を持って広げる所作をカーテシーとは認めず、自らが実演して見せた。
「まず片足を······あっヤベ! 捻った! 」
シリンは片足を捻ってしまった。人間なのだから仕方の無い事だ。しかし彼女は捻ってない方の足でケンケンをし、前に歩み続けた。彼女が向かう先に居たのはお分かりであろう······テプレンだ。
「おい! 来んじゃねぇ! 近呼んじゃねぇよ! 」
嫌な予感を察知したテプレンは口汚くも叫び続ける。しかし、シリンの歩みは止まらない。いつの間にやら捻った方の足すら地面に着けて全速力でテプレンの元へと突撃する。
「······ヤメロォ! お願い! ヤメ······ブフォっ······! 」
シリンの全力ラリアットがテプレンに直撃し、テプレンは宙を舞う。そして、落下するテプレンに肘鉄を見舞うシリンであった。
「······グベェ······! 」
テプレンの顔面は粉砕された。
会場は最早の二極化だ。純粋な、蝶よ花よと育てられた者は悲鳴を上げる。後は何時まで茶番を続けるんだ? と言う呆れ果てた者達。
終止符を打ったのは馬鹿王子である。シリンの肩を抱き寄せて宣言する。
「戦いで勝つにはどうするかだと? 戦う前に勝つのだよ。愚かなる······愚弟よ! 」
「愚かなる愚弟も······次期国王が使えば正しい言葉になると言う試しだな······」
「違うぞシリンよ? 愚弟は存在するのだ。其奴が愚かであれば、愚かなる愚弟と呼ぶだろう? 」
『えーい! どっちでもえーわ! 』
卒業生達のツッコミにより、騒動は強制的に終わらせられた。
愚かなる第二王子プリスンと公爵令嬢テプレンは騎士団により連行される。
パーティーの最後に国王より、馬鹿王子の王位継承サプライズとシリンとの新たなる婚約が発表されたのであった。
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卒業パーティーから半年後、国家転覆の罪で監獄に幽閉された元第二王子のプリスンと元公爵令嬢のテプレンの病死が発表された。
無論、妃となったシリンが差し向けた刺客による暗殺ではあるが。
気を良くしたシリンは王宮の庭で、令嬢達を招きお茶会を楽しんでいた。魔法学園に居た頃は卑しい身分の小娘と蔑んでいた令嬢達は、今は媚びへつらうばかりである。
「ようやく忌まわしい女が死んで清々しますわねぇ? 」
「公爵家にも早々に縁を切られて······良い気味でしたわ」
「せ······正義は勝つのだ······悪が勝った例は無い······」
「勝った者が正義になるのだから、それはそうなんだけどね」
シリンの夫である若き国王が、お茶会に顔を出す。令嬢達に畏まった所作は結構だと告げる様は、馬鹿王子の頃とはエラい変わりようである。
「ところで、シリンの誕生日を祝日にしようと思うのだけど、良いかな? 」
「か······構わない······けど、皆が休んでる日に働く人にも······手厚い補償を忘れずにな······」
「まぁ! 素敵ですわ! 」 「陰で汗を流す者の事もお考えとは、我々とは視点が違いますわ! 」 と令嬢達は二人を褒め称える。
「そ······それ程でもあるぞ······? 」
ご機嫌になったシリンは、給仕長に高級茶葉を出すように伝える。
給仕長は急な指示に驚きながらも、メイド達に指示を出す。
「歴史は勝者が作る······か。あながち間違いでも無いのかもね」
前国王の代から仕える給仕長は、そう呟くしか無かった。時代とは、いつもこうだ、と。
気付かぬ内に流れが変わり、ボーッとしてれば取り残される。
正しい者が勝つ事は100%では無い。たが、勝った者は正しさを変えられるのだ。
令嬢に転生したら現代知識無双するより、サロンに出てコネを作らなきゃね。
戦う前に勝敗は決まってるのが、貴族なんだが?
普通に国王は馬鹿王子派かプリスン派で国が割れないために王位を譲って隠居したんだが?
辛味噌よりベースの醤油の方が好きなんだが? もっと言うと私は塩派だが?




